第53話 試験チーム編成のあれこれと次のステップ
週末までに五つの試験運用チームで、八体のポーン級と、多数の蜂型駆除に成功。
被害は、負傷が一名のみ。
手厚いバックアップ体制を敷いたのに何故……と思ったら、支援魔法の効果で魔法の威力が跳ね上がった結果、反動を抑えきれずに転んでしまい、手首を捻挫したとか。完治すれば笑い話で済むもので、ちょっとホッとした。
試験運用のチームは所属事務所にこだわらず、それぞれの魔法の相性と相乗効果を重視して選んだことが功を奏し、どのチームも事前の予想を超えた成果を出せた。
ヴァイセも復帰早々に大活躍で、ファンを安心させてたね。
今回は試験運用ということで、各チームともある程度の駆除実績がある魔法少女をメンバーに選んだけれど、バックアップの環境を整えれば、新人育成も安全マージンを取って行えそうな手応えを得られたのも大きい。
チーム編成にあたっては、使えるコネを全部使ったよ!
事前に鳴海さんと話し合って、チーム制の導入は待ったなしの課題とはいえ、特災庁からの命令という形は避けたいという結論が出たため、試験運用五チームを構成する魔法少女の選定はキルシュとシャルと私で行い、一チーム三人、計十五人それぞれに個別に声かけをすることになった。
ちなみに、メンバー選定は三十分ほどで終わった。シャル、めちゃくちゃ研究熱心で主だった魔法少女の魔法はだいたい知ってたからね。
すごいなー、って感心してたら、なぜか「嫌味ですか!」って噛みつかれた。解せぬ。
選定した魔法少女へのコンタクトは、ちゃんと所属事務所の窓口を通したよ。
そのあたりは、事務所関係者に幅広く伝手のある間宮所長に色々と根回しをしてもらった。
で、ファーストナイトの魔法少女にはサニーレイン、くろっくきゅーぶの魔法少女にはルージュ・エトワール、アヴァロンの魔法少女にはシャルと一緒に話を持っていった。私ひとりだと、説得力が足りない可能性があったからね。
うん、効果は絶大だった。
三大事務所以外の魔法少女は、青薔薇様とキルシュに手助けしてもらった。キルシュは魔法少女界のご意見番と見なされるのも納得の顔の広さだし、青薔薇様は一部魔法少女から熱狂的な支持がある。
そうそう、声をかけた魔法少女の中には、ヴァイセも居たのだけど、こちらが何を言う間もなく、「協力します! 何をすればいいですか?」なんて二つ返事でとても助かった。すき。
まぁ、選定メンバー全員が順調だったわけでもない。
アヴァロンの古参魔法少女、ブラックアイアンサイレンからは、何を企んでる! ってだいぶ警戒された。
こちらの説明にはまったく聞く耳を持たず、先輩後輩のあるべき姿だの、年齢だの業界歴だの序列だのと捲し立てた挙句、半人前のひよっこが偉そうなことを言うな、境界層に来い、化けの皮をはがしてやる……とかね。
仕方ないので、シャルに一言断り、鳴海さんから許可をもらった上で、境界層で念入りにプレゼンしたよ。
誓って言うけど、暴力沙汰じゃないよ。鬼ごっこ的なサムシングだ。三分以内に相手を捕まえたら鬼の勝ち。攻守入れ替えて十セットほど。
三十分くらいで、ちゃんとお分かりいただけたよ。
シャルからは、無理に彼女でなくても、と言われたけれど、ブラックアイアンサイレンの鎖縛魔法はチームを組んで、足止め、ヘイト取り、拘束、デバフに専念できれば化けるからね。
ちょっと拗れた感じになっていたのも、彼女単独だと、隔獣を拘束した後はじわじわ締め上げ、弱らせていって消滅に追い込む、ひたすら地味でしんどい戦い方になるために数をこなすのが難しく、そのせいで評価が伸びないことが背景にあったわけで。
けど、鎖縛魔法に、カナリアのかく乱魔法を重ねることで、デバフ効果が跳ね上がる。そうすると、ミントの出が速いけれど威力が低めの攻撃でもかなりの有効打になるので長時間の拘束耐久にならずに済むのだ。
今回のことで、相性のいいチームを組むことの恩恵は実感できたと思うし、歴が長い彼女は有名だから、成果の宣伝にもぴったりなのだ。
ちょっと腹黒いって?
トップ層偏重の体制のまま破綻するのを避けるためだよ。
そうそう、負傷した魔法少女の件、バックアップに入っていた青薔薇様の治療魔法の実け……んん、治験ですぐに回復したことも、大きな話題になった。
やっぱり、治療魔法は話題になるよね。
まだ青薔薇様しか使えない上、効果は魔法少女限定、治せるのは負傷に限られるし、発動や効果の発揮にいろいろと条件が多くてまだまだ不安定な魔法だけれど、引退に繋がるような負傷でも、後遺症なく治せる可能性が出たのは大きい。
実運用に向けては解決すべき課題が山積みだけれど、明るいニュースなことは間違いないね。
総合的な評価として、この一週間のアレコレは、概ね、大成功と言えるんじゃないかな。
で、歩調を合わせていた鳴海さんの動きはというと――
試験運用初日、グレイシャル・ムーンのチームがかなり大きなインパクトを与えることは予想できていたので、タイムテーブルについてはかなり密に共有していたのだ。
それを基に、ライブ配信がもたらす衝撃が浸透したジャストタイミングで、鳴海さんから各事務所に協議会の開催を通知することで、実にスムーズに話が進んだようだ。
トップ層の魔法少女だけが成果を得る仕組みになるんじゃないか、という事務所側の懸念が晴れ、チーム制度のメリットが目に見える形で示されたことで、チーム制度導入への賛同だけでなく、具体的なスケジュールまでもあっという間に決まった。
その結果、この週末から、チーム分けの基本情報となるルミナ測定も始まり、測定会場がある特災庁第一分庁舎は魔法少女博覧会みたいな状況だ。
で、なぜかその測定会場の入り口に居る私。
「身体測定とか健康診断みたいな雰囲気だよね」
「確かにそんな感じですけど、どうして私はここに立ってるんでしょうか。なんか、めっちゃ視線が刺さるんですけど……」
「顔見せですよ。チェネレントラ・ステラさんは話題だけ先行していて、実際の本人を知っている魔法少女はまだまだ少ないですから」
何をしているかというと、両脇をサニーレインとノワ様に挟まれて、簡単な受付業務中だ。
というか、サニーレイン、魔法少女からの人気がすごい。
会場に来る魔法少女のうち、三人に二人くらいからサイン求められている。
「サニー、意外とレアキャラだからね」
そう言うノワ様にも、二人に一人くらい。
私? 八人に一人くらいだよ!
そういえば、サニーレインって、人の配信にはマメにメッセージ送るけれど自分の配信はしてないの、なんでだろ?
「彼氏との時間を大事にしたいんだそうな」
「唐突に心を読まないでください?!」
「サニーのファンを見て、ボクを見て、ちょっと考える仕草してサニー見て、なんて考えてること丸わかりだからね。親切に教えてあげたんだよ」
「ノワ、彼氏じゃありません、今は夫です」
「お、そうなんだ。おめでとう」
ふぁい??
おっと? おっと、夫ぉ?!
え、サニーレイン結婚してるの?! 人妻?!
「チェネステって、身近で接するとトコトン残念だよね」
「確かに、残念なこと考えてそうなお顔ですね。チェネレントラ・ステラさん、サイン希望ですって、再起動してちょうだい」
「あ、はい!」
いやでも衝撃的というか。
確かに十二年も魔法少女として活動してるなら、結婚してても不思議はない年齢……か。
「ラピッド・ロビンさんですね。面白い魔法を使われるので印象に残っています。支援タイプになると思いますが、使いようによっては、攻撃もガンガン回せると思いますので、ぜひいろいろ挑戦してみてください」
「え、は、はい! え、私のこと知ってるの?!」
もちろん知っている。ヴァイセの少し前に公認になり、ひと月ほど前に境界層デビューした魔法少女だ。小規模事務所、雪の森プロダクション所属で、オレンジと赤の差し色が印象的なバトルドレスは、名前が示す通りに活発な印象を与える。
「お会いするのは初めてですが、ログなどは拝見しております」
「ふぉー! マジで全部の魔法少女を把握してるんですね! ありがとうございます! がんばるです!」
色紙を抱えて、ぐっとガッツポーズしてから小走りに測定会場に入っていく後ろ姿を見送る。
「ちょいちょいチェネステファンもいるよね」
「嬉しいですけれど、まだ複雑です。慣れないというか、この場に立ってていいのか、とか」
「魔法少女をやめて、一人のファンに戻る道もありますよ?」
それは――、正直、すごく心惹かれる。
「そろそろ時間だし、円卓の間に上がろうか」
「あ、はい!」
椅子から立ち上がって、ぐっと伸び。
サニーレインが特災庁の職員に引き継ぐのを待って、三人でエレベーターホールに向かう。
引退か。
チーム制が軌道に乗れば、トップ層に負荷が偏る状況も解消されるだろうし、全体的な底上げの道筋もついた。
新人育成問題の解消には、やや時間がかかるだろうけれど、少なくとも問題の出口は見えた。
私が魔法少女を続けなくてもいい理由は、いくらでも思いつく。
けれど。
「もう、ほんっとうにやることがない! ってなるまではやめませんよ」
到着したエレベーターに乗り込みながら、思い浮かんだ気持ちを言葉にする。
「今、背を向けてやめちゃうのは、わたし的には解釈が違うというか。ただ、もう少しこう、目立たないポジションでコソコソできればいいなぁ、とは」
「無理だね」
「無理ですね。いっそ、円卓の中心に立って、議長役を――」
「やりませんよ!」
上昇していくエレベーターの中、サニーレインが、残念、と呟く。
冗談っぽく言ってるけど、うっかり「代わりましょうか?」なんて言った日には、ガチのマジで交代されそうなんだよね。
さて、一週間ぶりの円卓、一週間ぶりのセラ様だ!
いい報告をできるのが嬉しいね!




