第51話 企みと試験運用の始まり
さて、会議終わりで早速行動だ。
会議室を出たところでグレイシャル・ムーンに声をかけ、特災庁第一分庁舎のすぐ近くにあるカラオケ店へ。
個室に入り、念のために結界を張ってから、鳴海さんに連絡を入れ、幾人かの魔法少女への接触について了承をもらう。次いで久我原さんにも連絡を入れ、試験機材の貸し出しが可能か確認。
「チェネレントラさん? 連れてこられて放置はちょっと寂しいのですが?」
ちょっと拗ねたようなグレイシャル・ムーンの表情が可愛い?! っと、いけない、いけない。
「お待たせしてすみません。急なことで驚いたかと思いますが、急ぎ話したいことがあるのは本当です」
ではでは、ひざ詰めの密談タイムだ。
「最初に、グレイシャル・ムーンさんの――」
「長いのでシャルでいいですよ」
「デレた?!」
「どういう意味ですか!」
いやなんかつい反射的に。
「んん、失礼しました。では、私のこともステラで」
「わかりました、ステラ。それとデレたわけではないので勘違いしないでください」
「その、言葉の綾ですから」
「ステラがブルーローズと話している様子やノワ様への距離感などからセレスティアル・スターべったりというわけではなさそうだと思ったのと、であれば真っ先に賛成した方が有利と考えたためです。デレたわけではありません」
「あ、はい。わかりました」
ちゃんと言ってやりました、という雰囲気でアイスティーをストローで丁寧に飲んでいる。
配信だと、常に丁寧で静かな口調が崩れないから、もっとフラットな人だと思っていたけれど、シャル、思った以上に可愛い人だな?! 推すぞ。
ええと、本題に戻さないと。
「まず最初に。シャルの魔法は、条件が揃えばルーキーにベテラン並みの魔法を連発させることができます。黒霧のような状況では、シャルの魔法があるかないかで、戦況が全く変わります」
「ちょ、ちょっと待って! また黒霧が起きると?!」
「黒霧と全く同じことが起きるかは分かりませんが、似たようなことが起きる可能性はあります。隔獣の行動変容後の一週間で集まった情報を基に、特災庁の境界層研究所が対策案の作成を進めています」
「何故、あなたがそんな情報を? 円卓に知らされてない特災庁の内情を知ってるなんて信じ難いと思いません?」
それはまあ、そうだよね。
ポッと出のルーキーが知ってていい情報じゃないけれど、蜂型発見のときに出したレポートがきっかけなので。
「その辺は色々ありまして……それでまあ、大人には大人の事情があるとしても、実際に命をかけるのは私たち魔法少女です。なので、魔法少女同士、コッソリ手を握り合っておくという悪だくみにシャルを巻き込んでしまえと」
「つまりどういうこと?」
「境界層でシャルの魔法の実演です」
「出撃制限は?」
「シャルが前線に出るのは禁止です。シャルは安全確保した区域、かつ接続点のすぐ傍で魔法を使うだけです」
それに何の意味が? という顔をされた。
ええと、私も焦ってしまってるな。深呼吸。
「シャルが中心となってチームを作り、隔獣駆除をしませんか? という提案です。その核となるのがシャルの魔法で――」
まずは、チーム制の試験運用実績を、シャルに作ってもらわないとね!
頭の中で整理しつつ、できるだけ順序立てて、意図と目的を説明していく。
途中、二回ほどドリンクバーまで飲み物の補充をしに行くくらい話し込んだところで、シャルがしっかりと頷いた。
「お話は分かりました。ステラが意図するところも、何を危惧しているかも、そのための方策も。私が反対する要素はありません。改めて、全面的に協力することをお約束します」
「やっぱりデレ――」
「言わせませんよ。それから、最初に私に声をかけたのは、アヴァロンの魔法少女をチーム制の試験運用に積極的に取り込むことで、後々、余計な禍根が生じる余地をなくしておきたい、という認識でよろしいですか?」
あー、それもあるけど。
「シャルの魔法の効果はさっき言った通りなので、シャルが中心に立ってチームを作らないと――」
「ステラの用意したチームで、私が活躍させてもらった、みたいな見え方になるのはシャクに障りますね」
「でしょ?」
「いいでしょう。では早速、アヴァロンに行きますよ。それと、シャル呼びは公言してかまいません」
やっぱりデレ――
「私には私の思惑もありますし、デレたわけではありません。せいぜい私に利用されなさい」
だから、そこでちょっと照れが入った表情されたら、デレたようにしか見えないんだけど……
なんにしろ、シャルがやる気になってくれたから、第一関門突破だ。
このままの勢いで、サクサク行きたいね。
次は、アヴァロンに突撃だ。
カチコミじゃないよ?
◇
週明け水曜日、先週末からアレコレと根回しした成果のひとつを見るためにコッソリ境界層までやってきた。
円卓メンバーの幾人かの協力をもらいつつ、鳴海さんと細かに連携しながらの根回しは大変だったよ……
今日の件も、情報開示の順序や範囲なんかを、鳴海さん、間宮所長と三人で入念に打ち合わせしてきた。
初配信のようなうっかりは、もうしないよ!
ということで、ドローンカメラの配信モードを起動。
配信開始だ。
「みなさん、こんにちは。チェネレントラ・ステラです。本日の境界層配信は、コッソリ見守り配信です」
―― 今日はコメ欄解放されてる!
―― どういうことなんだってばよ
―― 喋ったー!
―― 何故囁き声なの
―― あれ、映ってない?
―― 無言の境界層ライブも、アレはアレで味わいあったけど
―― 声がついたら、今度は姿が消えてる……
―― チェネステ相変わらず声がいい
―― 趣旨! 趣旨の説明求む!
―― いきなり情報量が多い!
―― 風景しか映ってないのにな
「この先にいるのが、グレイシャル・ムーンが指揮する隔獣駆除チームです。チーム制の試験運用ということで、部分的に出撃制限も解除されてますね。その合同チームによる駆除活動を見守ろうというわけです。コッソリなのは、前線に出ているメンバーには、安全要員も兼ねた私の存在を知らせていないからです。向こうに鳩しちゃダメですよ」
鳩とは、他所の配信の話を持ち込むことね。
「あ、チームに参加している魔法少女の配信は概要欄から見られますので、興味ある方は多窓でどうぞ。むしろ向こうをメインに見て、こちらは副音声くらいがいいかもしれませんね。知らない人は居ないと思いますが! 思いますが、まずは魔法少女グレイシャル・ムーンについて――」
―― まーたコメ欄見てないなこれ
―― この放置っぷり、ゾクゾクしちゃう
―― むしろ、コメ欄に反応するチェネステは解釈違いまである
―― グレイス姐さんと不仲説あったけど
―― ウッキウキでグレイス姐さんについて語り始めるチェネステ
―― 長文語りキター
さあ、グレイシャル・ムーンがいかにすごい魔法少女なのか、みっちりきっちり語るよ!




