第50話 円卓会合とセラ様の悩み
「それでは皆さん揃いましたので、始めましょう」
「本日はお集まりいただきありがとうございます。本日の議題は私、セレスティアル・スターから。隔獣の行動変容に伴う駆除体制についてです」
サニーレインが落ち着いた声で開会を告げ、続いてセラ様が立ち上がる。
凛とした立ち姿が素敵だけれど、心なしかいつもよりもくすんで見える。
疲れてる……のかな?
「既に承知のことと思いますが、前提の確認からまいります。先週の土曜日、複数のポーン級の協調行動が見られたため、臨時の駆除体制を敷くこととなりました。偶然ではなく明確な協調であることは、ヴァイセ・ブリューテさんのログ分析、および証言にて確認済みです。幸い、この一週間は新たな負傷者を出すことなく乗り切れました。対応いただいた皆さま、ありがとうございます」
ルージュ・エトワールが真っ先に、当然ですわ、という感じで胸をそらしている。私は黙って目礼。
サニーレインとノワール・ガルドは軽くうなずき、グレイシャル・ムーンは……うん、面白くないよね。
扱う魔法が支援系で、直接戦闘力では一段落ちる青薔薇様に出撃制限がかかるのは不思議じゃない。
けれど、日頃からセラ様やルージュを強烈にライバル視するグレイシャル・ムーンだ。出撃を止められた上にネットでアレコレ言われれば、機嫌が良くなるはずもない。
けどなぁ、グレイシャルの場合、魔法が立ち上がりきらない状態で複数のポーン級との遭遇は負傷リスクが高いし、万が一にもルーク級に遭遇したらかなり危ない。
「それと、土曜日に負傷したヴァイセ・ブリューテさんも来週中には復帰可能とのことです」
「それはよかった。なによりですね」
静かに座っていた青薔薇様が、短く、安堵を滲ませて言う。
本当にね! 何よりだよ。
「次に、この一週間の出撃で得られた情報、今日は特に複数のポーン級との交戦について共有します。サニーレインさんとルージュさん、お願いします」
「分かりました。では私から。ルージュさん、よろしいですか?」
「もちろん。どうぞ」
セラ様が着席すると、サニーレインが立ち上がり、円卓の間のスクリーンに戦闘ログの映像が映される。
サニーレインの説明、終始淡々と、という感じだね。
余分な主観も、曖昧な推測もない。
魔法も、ぱっと見の派手さは無いけれど、なんというか、熟練の技というのか。
廃ビルの屋上から遠くの隔獣を見下ろすサニーレインがオーケストラの指揮を取るように短杖を振ると、隔獣の周囲にピンポイントでルミナの雨が降り、じわじわ削って消滅に追い込んでいく。
サニーレイン、感知範囲が広い。セラ様以上かもしれない。魔法少女の中ではトップクラスなんじゃないだろうか?
キルシュがサニーレインを推薦した理由はこれか。
これなら複数のポーン級を同時に相手取っても、十分な距離マージンをとって対処できる。
説明の口調と同じように、淡々とポーン級二体の駆除が終わった。
「――とまぁ、こんな感じです。今回は熊型二体でしたが、鹿型のようなルミナかく乱タイプの場合は、かく乱されにくい水弾攻撃が主体になりますね」
現役最長の戦歴は伊達じゃないというか。
連戦になると魔法の燃費が悪いから厳しい、と言ってるけれど、この繊細なコントロールを持続させる集中力も、意外と負荷になっているのかもしれない。
「ポーン級への対処は距離のコントロールが重要になります。複数体いる場合は、それぞれとの距離に注意を払う必要があるので、観測役と攻撃役を明確に分けるべきでしょう。質問などなければ、これで終わります」
「ありがとうございました。サニーレインさん」
セラ様の言葉で、サニーレインが座る。誰からも質問が出ないのは、今さら聞くこともないからかな。
戦歴豊富な分、ログも膨大だし、今の魔法は? みたいな初見のものもない。
持ってる手札を状況に合わせて適切に出す、シンプルで手堅い運用だ。
「では、次はわたくしですわね!」
立ち上がったルージュの合図で、スクリーンに戦闘ログが流れる。
つい昨日のログだから、こっちは今日が初見だ。
サニーレインのログが完成されたパヴァーヌなら、ルージュのそれはパンクロックと言うべきか。
アップテンポで激しい。
ポーン級を感知するや、真っすぐ走っていって両手のハンドガンを連射。あっという間にサイ型一体を蜂の巣にして消滅させ、後ろから飛び掛かって来た狼型を蹴り飛ばした?!
ええ……
いや、きれいな回し蹴りだったけど。
宙に浮いてじたばたしている狼型もあっという間に蜂の巣になって消滅。
ルージュ以外の全員が驚いた表情を浮かべているから、隔獣を蹴り飛ばすのは非常識で間違ってないよね。
「チェネステさんがハルバードでルーク級をぶっとばしていましたでしょう? なら、出来ない道理はなくってよ!」
そ、そういうものか? そういうものだな、うん。
理屈では計れない人もいる。
なんか周囲の視線がこっちに向いてる。その「そういえば歩く非常識が居たね」みたいな視線、やめてくれませんか?!
「ルージュさん、ありがとうございます」
「どういたしまして、ですわ」
「見ていただいたように、隔獣の組み合わせによっては、不意打ちや陽動への対処、駆除優先順位の判断など、これまでにない様々な対応を要求されます。現状の駆除対応メンバーであれば問題はないものの、魔法少女単独での哨戒、駆除をこれまでのように続けることの危険性は、ご認識いただけたことと思います」
セラ様の言葉に、グレイシャルは言いたいことがあります、って顔をしているけれど、まだ話の途中であることを認識してぐっと我慢してる感じだ。生真面目だなぁ。
「その上で、チーム制度、ローテーション制度の導入が喫緊の課題であることも、認識いただけたかと思います。現状はあくまで緊急時の例外的な状況であり、隔獣の駆除体制は維持できているが恒久的なものでは決してない、ということをできるだけ早い段階で浸透させる必要があります」
セラ様の懸念はもっともだ。
トップ層だけで回るならそれでいいじゃん、という空気がたった一週間で薄っすら漂い始めたことは、まとめサイトウォッチャーな杏奈からも聞いている。
ルージュもそうだし、セラ様や私のログもそう。
あっさりと鮮やかに隔獣を駆除している、できてしまっている。
「意見、よろしいですか?」
グレイシャルが発言を求め、円卓の間にちょっと緊張が走る。
「はい、どうぞ」
「恒久的なものではないのであれば、来週からもう少し基準を緩めて、駆除にあたる魔法少女の枠を広げる予定はないんですか? いきなり大幅に広げるのは難しくとも、せめて私を加えていただくことは、できないんですか?」
「その点については、私から。よろしい? セラさん」
私が手を上げかけたところで、サニーレインに目線で制されてしまった。
セラ様が頷き、サニーレインがグレイシャル・ムーンを見る。
「グレイシャル・ムーンさんの献身と責任感の発露は嬉しく思いますが、出撃は不可です。あなたは現在、最も失われてはならない魔法少女のひとりです。名指しでの出撃禁止は、そういう意味です。あなたの実績を封じようだとかそういった理由では断じてありません」
「……わかりました」
呑み込みにくいものを、むりやり呑み込んだような表情だ。
サニーレインは明言しなかったけれど、魔法の立ち上がりが重いグレイシャル・ムーンは、万が一不意打ちにあった場合の危険度が、出撃許可されている五人に比べ段違いに高い。
多分、そこまで理解したのだろう。
「では改めて。トップ層に依存する雰囲気、傾向に歯止めをかけるために何をすべきか、忌憚のない意見を募りたいと思います。現在ネックになっているのが――」
セラ様が話を本題に戻す。
難しいな。
実戦で自信を持ってもらうのが一番手っ取り早いけれど、現状、トップ層抜きで境界層に出すのはリスクがある。
かといって、チームでの実戦経験の場にトップ層が加わった場合、一歩間違えると自信喪失につながりかねない。
あと手も足りない。三人一組が基本単位と聞いているから、四十チーム以上できる計算になる。
けれど、チームの面倒を見ながら、複数体の隔獣に臨機応変に対処できる魔法少女なんて、ノワ様くらいだ。
順序から行くと、チームリーダーとなる中堅組の底上げを図るべきなんだけれど、事務所の足並みがそろわない。
事務所単位でチームを作る案もあるけれど、チーム間の連携が必要となるルーク級のような大型隔獣の存在を考えると、下手に事務所単位の考えを浸透させるのもうまくない。
円卓メンバーで見ても、青薔薇様、ノワ様、私の三人はいずれも三大事務所の所属じゃない。
実績はあるけど大手事務所じゃない魔法少女が率いるチームと、大手事務所のチームでグループを作ってルーク級に対応してね、ってなったときにギスギスされてはたまらないのだ。
ローテーション制度の導入が難航している背景はそんな感じ。
セラ様が語った内容は、もっと何重にもオブラートに包んでいるけれど。
「セラの言いたいことは分かる。けど、事務所は事務所で、所属魔法少女が不利益を被らないように主張しているわけだから、それを引っ込めろというのは違うとボクは思う」
「分かっています。だから、まずはファーストナイトから率先して――」
「セラさん。セラさんが言えば、若い子は頷きますが、私は反対です」
「サニーレイン!?」
ぅ、セラ様の、何で、という表情がツライ。
セラ様はセラ様で、なんとかしようと懸命なんだ。
けれど、サニーレインが止めた理由も分かる。
意図はそうでなくても、円卓による抑えつけに繋がるのはマズイ。円卓はあくまで意見交換の会議体なのだ。
特災庁は、この前の打ち合わせで私が提供した情報も使いながら、各事務所への根回しを進めているらしいけれど、円卓には、まだその情報は共有されていない。
魔法に関する分析は、扱いを間違えると事務所間のバランスに影響しかねないので、軽はずみに公開しないでください、と鳴海さんから釘を刺されている。
たしかに、伝える順番を間違えると、色々と拗れそうだよね。
特災庁が事務所へ働き掛けているなら、私は魔法少女の立場から、魔法少女にしかできないやり方で根回しできるかもしれない。
鳴海さんとも相談しながら進めれば……いけるかも。よし。
「意見、いいですか?」
うわ、視線が集中する。
「どうぞ、チェネレントラ・ステラさん」
「この件について、今この場で結論を出すことは難しいと思います。一週間、この件についての調整を私に任せて頂けませんか?」
ふおー。キョトンとしたセラ様!!
え、何それ、初めて見る表情差分だな! スクショできないのがつらい。
「私は、チェネレントラさんに賛成します」
おわ。みんな、ちょっとびっくりしたようにグレイシャル・ムーンを見ている。
私もびっくりした。正直、グレイシャル・ムーンには反対されると思ったのに。
「ボクも賛成。チェネステなら悪いようにはしないと思う。あー、セラじゃダメってことじゃないよ」
「そうですわね。わたくしも賛成いたしますわ」
セラ様が少し考えるように目を伏せ、顔を上げて頷き、青薔薇様を見る。
「ええ、いいと思います。サニーレインさん」
「では皆さま賛成ということで、本日の議題は一度、チェネレントラ・ステラさんの預かりとし、具体化に向けた調整を進めて頂きます。次回会合は、皆さんの予定を確認後、追って連絡します。チェネレントラ・ステラさん、協力が必要な場合はいったん私までご連絡ください」
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セラ様の愁いをバッチリ払ってみせます!!




