第48話 打ち合わせ
朝早い時間から電車を乗り継いで首都区へ。
公認魔法少女としてのお仕事なので、日当が出るよ、やったね。
時間があれば、トワイライトパレスの事務所にも寄る予定。あるかな? 時間。
会議、長くなりそうだし。
事務所といえば、ファーストナイトから丁寧なお礼と、ヴァイセ本人からの伝言が届いていた。
痕になる傷はなく、後遺症の心配もなさそうとのことで、ひと安心だ。
復帰時期は、詳しい検査やメンタル面のチェックをしてからなので、まだ未定とのこと。
ゆっくり静養して欲しい。
今日は前回訪れた高層ビル内の第一分庁舎ではなく、重厚な印象を受ける特災庁の本庁舎に向かう。
駅の近くで迎えの公用車に乗って、中で変身。キルシュめ、わざわざメッセージで「変身忘れんなよ」って! ぐぬ。
庁舎の入口でキルシュと合流し、入館パスをストラップで首から提げる。
魔法少女姿に見慣れないパスが加わっただけで、なんだか一気に関係者っぽくなるの、ちょっと不思議な気分だね。
エレベーターホール脇のガラス壁に映った自分の姿を見て、なんとなくポーズをとってみたり――
エレベーターの上階行きのボタンを押したキルシュがこっちを振り返る。
「チェネ、案外と子供っぽいところあるよな」
「んなー?!」
背を向けてるから見えないと思ったのに!?
よく見たら、キルシュの目の前のエレベーターの扉にしっかり映り込んでるし。
顔が熱い!
「落ち着いていて隙がなさそうに見えて、ちょいちょい隙があるとかあざとい奴め」
「そんなわけないでしょ。く……」
ニヤニヤしてー! 到着したエレベーターにそそくさと乗り込む。
「お前、クラスでも割と過保護にされてそうだな」
「そんなことは……」
ない、と言いそうになって、なんかちょっとあきれた感じにこちらを見る委員長が思い浮かんだ。
あ。はい。お世話になっております。
「……あるかもしれない」
「だろ」
ぐぬ、キルシュめ。
◇
キルシュに先導されて着いたのは、大人が六人も入ればいっぱいになる、小さな会議室。
ほとんど待つことなく久我原さんと鳴海さんがやって来て、始まる会議……というよりは打ち合わせなのかな、この場合。
久我原さんにアレコレと送っていたレポートの概要や、救援行動時に見た隔獣のイレギュラーな行動を、鳴海さんに共有してから本題。
久我原さんも鳴海さんも、私のふわっとした部分も多い説明をあっという間に明快な文章にしてしまうのすごい。
なんかこう、仕事のできる大人! って感じだ。
「なるほど、サニーレインやグレイシャル・ムーンのような魔法、灰宮さんが言うところの『領域改変系』の推定効果を見ると、魔法というのは本人の意志がルミナに働きかけて成り立っているだけではないようですね」
「感覚的な話ですが、魔法少女として覚醒する時に役割というか、特性というか、そういうものが割り振られるのではないかな、と」
「そのあたりの原理的なお話は、当人たちがそれぞれの魔法を使いこなすのに必須ですか?」
「あ、いえ――」
「なあ、灰宮。もう少し分かりやすい言葉にできないか? 例えば――」
参加者全員、事前に資料類には目を通していたということなので、サクサク進む。
サクサクすぎて私はついていくのに精一杯だ。
「――するとプリズム・ティンカーの鈴魔法は領域改変系にあたる?」
「いえ、あれは鈴が、他の魔法やルミナに直接作用する魔法です。鈴が実体化しているように見えますが、あの鈴自体が魔法の作用点になってるんです。変則的な魔法ですが、魔法少女のルミナを活性化させ能力を強化するブルーローズの支援魔法と相似です」
「シンプルに言うと、魔法を支援する魔法ですね。その理解で合っているのであれば、本人もその方が概念をつかみやすいかと――」
鳴海さんは、着眼点というか、ツッコミポイントが研究所の人たちとも違って、この説明で魔法少女本人にきちんと過不足なく伝わるか、という点をどんどん指摘してくる。
久我原さんは、全体を通して似たような概念とか説明があると、どんどん整理して共通化してくる。どういう記憶力と頭の構造なんだ?
あと、中指の腹で眼鏡のブリッジをちょっと押し上げて位置を直す仕草がこれほど似合う人、なかなかいないと思うよ。
「――弓塚君、ナントカ領域、と細分化せず、単純に『領域魔法』と命名してしまい、概念を共通化したほうがシンプルでは?」
「確かに。事務所に説明するにもシンプルな方がいいか」
それからキルシュ――会議前の自己紹介で、弓塚佐久良という本名を初めて知った。
キルシュめ、「灰星」を安直な名付けと言ってたけど、「ユサ」も同レベルじゃないか。
そのキルシュは、私の話す内容が魔法少女のタイプ分けに使えるので、制度にどう組み込むかとか、運用ガイドラインと絡める場合にどうするとか、かなり突っ込んだ意見を出している。
私は今まで見てきた魔法についてひたすら話すだけだ。
魔法について話し終えた魔法少女については、手元の公認魔法少女リストにチェックを入れていく。
「――戦闘ログで効果が推定できる魔法はこれで全てですか?」
「あ、はい。サンプルになる戦闘ログが少ない魔法少女については難しいです。事務所の公開プロフィールに書かれている内容と実際の魔法効果が似てるようで全く違う場合もありますので」
「道理ですね。『攻撃』『支援』『妨害』『領域』。各魔法少女固有の魔法は大きく分けてこの四種、これに自己強化系や感知系の共通魔法、といったところですか。四種分類は複数が該当する場合もありますね。以上を暫定の分類として、弓塚君、整理をお願いしても?」
「了解。これ、いきなり事務所に下ろさず、円卓でワンクッション置いた方が良くないですか?」
「弓塚さん、後ですり合わせましょう。よろしいですか? 参事官」
「任せます」
なんか、さらっと仕事を任されてる? と思ったら、キルシュ、特災庁にも席があるらしい。魔法少女兼特災庁職員ってアリなんだ。ファーストナイトとの契約もちょっと特殊なものだとかなんとか。
というか、私の一学年上だからまだ中学三年生のはずでは……って聞いたら、飛び級で中学どころか高校課程まで修了済だと。
天才かよ!? 天才だな、文句のつけようもなく。
お前も挑戦してみるか? とか訊かれたけど、無茶をおっしゃる。
私の成績はクラスで三番目とかなので、悪いものじゃないけれど飛び級には縁遠いよ!
オタクは、オタクな分野に強いだけなんだぞ。
◇
「灰宮さん、情報提供感謝します」
「あ、いえ。その、お力になれたなら」
会議が終わり、久我原さんは早々に退出。私も帰るために荷物をまとめていたところで、鳴海さんからお礼を言われた。
「昨日お手伝いいただいた機器検証で強度測定各種にも目途がつきましたし、今日の情報でローテーション制度の導入も進められそうですから、大変助かりました」
魔法少女の強度測定、要するにどれくらいの力があるかの測定は内部資料リークの後、ランク付けとか数値化とか、色々と騒がれている件だろう。
色々なランキングサイトで魔法少女ランキングとかやってるのに今さらだろう、という意見や、特災庁が導入するのは意味が違う、公式に格差が生まれるのは問題がある、という意見など、百家争鳴って感じになっている。
実際のところは、一元的な測定ではなく、色々な数値を取ったうえで、まだうまくルミナを扱えない魔法少女を実戦に出さないための測定なんだと、機器検証の時にキルシュから聞いた。
ローテーション制度導入の狙いは、個人でバラバラに隔獣駆除を行っているがために、一部の魔法少女に負担が偏っている現状の是正だ。
魔法少女を実績や特性に基づいて緩やかにチーム化し、駆除対応をチームごとのローテーション制にすることで負担分散を図る方針なのだけど、そのチーム化に大手事務所が難色を示している。
「まー、各事務所の言い分も分からんでもないけどなぁ。中堅が多いアヴァロンなんか特に、中核の魔法少女がよその事務所のトップ魔法少女が主導するチームで格下扱いされる可能性に神経を尖らせてるし」
「ぶっちゃけ自業自得では? 中堅以下の事務所を煽るようなことばっかりするから……」
「辛辣じゃん、チェネ」
アヴァロンの魔法少女に思うところはないけれど、事務所のSNSアカウントが彼女たちの功績をアピールする際に、「駆除数が中堅以下のブルーローズ」「配信人気だけのノワール・ガルド」「運よくルーク級討伐に絡んだだけのチェネステ」という感じで、それとなく他を下げてくるのが腹立たしいんだよ。
もちろん、ここまでストレートな言い方ではなく、かなり婉曲な表現だけれど、ニュアンスはそんな感じだ。
私がデビューするちょっと前くらいにSNSアカウントの担当が変わったのか、露骨に閲覧数稼ぎ狙いになったんだよね。
最近は、この前の初配信のこともチクチク刺してくる。
ギスギスするのは好きじゃないから、できるだけ見ないようにしてるけどね!
「あー、けっこう気にしてたんだな。視界に入ってないかと思ってたが」
「無視してるだけで、見えてないわけじゃないよ」
「灰宮さん――」
帰り支度を終えた私に、鳴海さんが歩み寄って少し声を潜める。
な、何ごと。
「特災庁には、色々な立場の人がいます。もし、志島局長、久我原参事官、私の三人以外の誰かから連絡などがあった場合は、返答前に間宮所長に報告してください。特災庁に限らず、公的機関、民間、どこからであっても」
それだけ言い残し、お疲れ様です、と退室していく鳴海さん。
うえー。なんか権謀術数なお話ですか?!
「魔法少女に頼り過ぎるべきではない、と主張する人間が最近増えてきてんだよ」
「うーん、それは、自然なことでは? 魔法少女を使い倒せ、みたいな意見よりマトモじゃない?」
違うのか?
「耳あたりが良いから厄介なんだ。魔法少女はもっと昼夜問わず境界層研究に協力するべき、と主張していた一派がそこに絡んでたら?」
「魔法少女に頼り過ぎないために、魔法少女以外が隔獣に対応できるようになるべき……?」
頷くキルシュ。つまり――
続く言葉は、自然と小さな声になる。
「魔法少女に対隔獣兵器開発をさせ、それを大人が使いたい」
「気をつけろよ」
うへぇ。
「気付いてるかもだが、お前にも家族にもがっつり警護がついてる。変に振り切ろうとかすんなよ?」
「そんなことしないよ。警護隊長さんとは、志島局長から紹介されて顔を合わせてるし」
「ならいい」
思ったより大変だよ、魔法少女業。
「よし、この後事務所行くんだろ? メイルストロームもちょうど来てるらしいから、三人でお茶しようぜ」
「え? メイルストローム先輩、来てるんだ。いまいちタイミング合わなくて初顔合わせなんだよね」
お姉さん系魔法少女! そういえば、キルシュと同じくらいのデビューなんだっけ?
会うのが楽しみだ。




