第44話 クラスメイト
翌日の教室は、なんか拍子抜けするくらい普通だった。
いつも通り、朝練の無い生徒がまだまばらなちょっと早めの時間に登校して、美宙と杏奈と三人でおしゃべりしているうちに、教室に段々と人が増えてくる。
ちょっと身構えていたけれど、月曜日特有の、休み明けのちょっと気怠い雰囲気が心なし薄いかな? っていうくらい。
多少雰囲気が上擦っているのは、言わずもがな、クラスメイトに魔法少女がいたという事実のせいなわけだけど。
それでも、昨日の配信に関して突撃してくるクラスメイトは皆無。
「ま、あーちゃんがみんなに愛されてるってことだよ」
「ええー、実感ないんだけど」
「あーちゃんは、えーと、あれ! 天然の人たらし」
「ええ……」
ついうっかりオタク語りして引かれた記憶しかないんだけど。
解せぬ。
いや、女子のみんながほんのり優しいなー、ってのは感じてたけれど。私に人たらし要素? どこ?
「あーちゃんにはなんでもないことでも、意外と感謝する人はいるってこと」
「男子達は、アレ。あーちゃんの可愛さにやられてるだけ」
かわ、いい?! え!?
「この地味眼鏡オタクが?!」
「あーちゃんの自己評価は、だいぶ事故を起こしてると思うなー」
「事故った自己評価! 美宙、うまいね!」
「杏奈に見せる宿題ノートは無くなりました」
「なんで?!」
ええ、可愛い、か?
いや、不細工でないことはちゃんと自覚してる。けれど、美少女を名乗れるほどでもない、と思う。
お母さんには、基礎の手入れを怠らなければ、あとは化粧次第と言われている。
微妙……!
ちなみに、このクラスのトップスリーは、委員長、杏奈、美宙だ。
多分クラスのみんなも異論はないと思う。
委員長は、私と同じ眼鏡キャラだけど、アイドルグループでセンターやってるって言われても違和感ないレベル。眼鏡も、ピンクフレームのハーフリムでめちゃオシャレ。
あ、委員長というのはあだ名ね。本名呼びは本人によって禁止されている。
とても個性的な名前だからね。
お父さんが国外出身の杏奈は、結構迫力のある美人顔。背も、クラスの女子の中では一番高い。女子にめちゃモテる。
大人になったらモデルとかしてそう。
美宙は、クラスで一番可愛い子、って感じかな。基本、誰にでも分け隔てなく対応するから、小学校の時から男子にモテた。告白してきた相手も、分け隔てなく全員振ってきたけれど。
ただ「私にはあーちゃんがいるから」はどうかと思う。
振られた側はそれで全員納得したらしい。
どういうことなの?!
で、この三人が別格に可愛くて、あとはまぁ、そんなに差はないんじゃないかな?
「あーちゃんは地味だけどパーツは整ってるから、ちょっとしたことで化けるタイプだよ」
「そうそ、よく見ると可愛い、っていう、一番沼るタイプ。チェネステはぱっと見は別人レベルに可愛いけど、よく見ると、高校生くらいにしてめちゃ盛ったあーちゃんなんだよね!」
「え、面影なくない?! 自分で言うのもなんだけど、鏡見て、別人すぎる!! て叫んじゃったくらいだよ?」
願望が露骨に反映されるの、こう色々と突きつけられるものがあるよね?
いやまぁ、理想の魔法少女なので? 理想の可愛い顔な点は認めますが!
なんか、美宙と杏奈に、やれやれ、みたいなジェスチャーされた。
解せぬ。
◇
昼休みになると、ちらほらと他クラスの生徒が教室を覗きに来るようになったのだけれど、クラスメイトが教室の入り口で全部シャットアウトしている。
いいのかな、と思って見てたら、入り口に陣取ってる委員長に、こっちはいいからお弁当食べてなさい……て感じのジェスチャーされた。
うーん、クール系眼鏡美少女は何をやってもカッコいいな。
朝のホームルームで、担任の山中先生がさらっと「魔法少女の個人情報についての詮索や暴露はしないこと」と釘をさしていたけれど、事務所から連絡とか行ったのかな?
クラスの受け止めは静かで、みんな、分かってます、みたいな空気だったの何? どこかで示し合わせてるの?
校内では今のところ、そこまで噂にはなってないみたいで、教室の入り口に来るのはたまたま配信を見てた魔法少女ファンといった雰囲気だ。
「あーちゃん、あーちゃん」
「ん? なあに、杏奈」
杏奈がお弁当食べながら見ていたスマホの画面をこちらに向ける。
なになに? ミリタリーコートが完売?
「え、これがどうかしたの?」
「あーちゃんが配信の時に着ていたコートが特定されて、お店の在庫が一瞬で売り切れたんだって。メーカー在庫も無くなって、急遽追加された受注生産枠五百枚も五分でなくなったらしいよ。一着二十万円以上するコートなのにすごいね! 『五分で一億の女』ってトレンド入りしてるよ」
ごめん、ちょっと意味がわからない。
ええ、怖。
コート姿で良かったな。下手に私服とかだったら、って考えると、うん。色々と不幸中の幸いだった。
それにしても、あの特殊部隊仕様コートがそんなに売れたのか。
チェネステグッズもなんかおかしな数、完売してたしな。
そのうち、ニュース番組とかで経済効果がいくらとか言われそう……
すごいね、チェネレントラ・ステラさんて人!
思わず白目になっちゃいそう。
ふと視線を感じて横を向いたら、萩原くんが何か言いたげな感じでこっちに来ようと席を立った……と思ったら、クラスメイトの魔法少女ファンの男子達に羽交い締めにされて、どこかに連行されていった。
なんだったんだ……?
美宙に、今のは? と視線を向けたら「あーちゃんは気にしなくていいやつ」と。
なるほど。まぁ、男子の間のあれこれは、こちらから介入するものでも無いし、気にしなくていいなら忘れることにする。
お弁当を食べ終わったタイミングで、メイルストローム推しの涼木くんからお礼? を言われた。
チェネステがどの事務所に入るか、マジで賭けていたようで、トワイライトパレスに賭けた涼木くんの総取りだった模様。何を賭けていたかは知らないけれど、感極まった感じで両手を握られてめっちゃ感謝された。
直後、すごくいい笑顔をした他の男子達に肩をポン、と叩かれ、どこかに連行されていった。
流行ってるのか? それ。
◇
放課後、担任の山中先生から呼び出しを受けた。
何事かと思ったけど、公認魔法少女が学校に在籍する場合の各種手続きについての確認だった。
その辺りは全部まるっと事務所が代理人になります、と伝えトワイライトパレスの名刺渡しておしまい。
先生も大変だよね。
大変にしてるのは私か?
受け持ち生徒にいきなり魔法少女が生えてきたら大変か。
でもなぁ、魔法少女は「なりたい!」と願ってなれるものではないし、なりたいと思っていなくても、脈絡なく覚醒したりする。
こうしたら魔法少女に覚醒できます、みたいなのは全部詐欺だ。
魔法少女には、概ね、十二歳から十六歳の女性が覚醒するけれど、年齢では何件か例外があり、最年少記録はキルシュの八歳。最年長覚醒は十八歳だとか。
そして男性の覚醒例は皆無。
何なんだろうね、魔法少女って。
「美宙、杏奈お待たせ」
校舎の出入り口で待っていてくれた二人と合流して、別れ道まで一緒に帰る。
放課後のグラウンドって、なんか青春の匂いするよね。
「そうだ、杏奈に渡すものがあった」
「え? なになに?」
バッグから袋に入れた色紙を出して渡す。
この前の円卓で青薔薇様から貰ったサイン色紙だ。
「色紙? チェネステのサインとか? って、ふおーーー!? え?! え?! うおー! 青薔薇様の?!」
「うん、この前会った時にもらった」
「あーちゃーん! 杏奈へ、って! 杏奈へ、って書いてあるぅぅう!」
「おー。あーちゃん、マジで円卓メンバーなんだねぇ」
杏奈はなんか色紙を抱えてくるくる回ってる。
美宙が、まだちょっと信じられないよね、て感じで言うけど、私もまだイマイチ実感がないから同感だ。
「今日さ、割と戦々恐々だったんだよね、学校来るの」
気が重かったというか、ちょっと休もうかな、なんて考えもしたけれど。
「けど、なんか全然みんな普通で、普通にしてくれて。うん、すごい嬉しかった」
「いつも言ってるじゃん、あーちゃん、結構クラスのみんなから愛されてるって」
「うええ。なんで?! どの辺が?!」
「存在?」
「ええ?! なにそれ」
美宙がくすくす笑う。杏奈が「私も! 私もあーちゃん大好きだぞ」と私と美宙の間に入ってくる。
さっきちょっと静かだったのは、色紙を大事にカバンにしまっていたからのよう。
「うーん、よくわかんない。けど、魔法少女がんばろう、て気持ちは湧いてくるね」
「そういうとこが、あーちゃんらしいよね」
「ええ、わからん……」
自分の好かれポイントとか、そんな自覚できるものなのか?
わからん。
分かれ道で、美宙と杏奈と「また明日」と言って別れる。
今日は呼び出しがあった分、いつもより少し遅くなったから、家に寄らず境界層に直行する。
事務所が用意してくれたアプリで、境界層入りの予定を家族と事務所にあらかじめ共有できるようになったのは悪くない変化かな。
なんとなく気合いを入れるように、境界層用の装備一式も入ったスポーツバッグを担ぎ直す。
うん、クラスのみんなにもそれとなく応援されてるとわかったし、今日も一丁やりますか。




