第43話 あとしまつ
配信を終えて一息。
開始前のチェックリストと一緒に送ってもらっていた、終了時のチェックリストに従って配信終了後の確認をしていく。
そのリストの、最後の一文。
「初配信お疲れさまでした。終了チェックが全部終わったら、変身を解いてゆっくり休んでください」
変身……を解いて……
うーあー?! あ、あ、やってしまったあぁ……!
アホか私! 昨日の円卓会合に続いて、二日連続だよ、変身絡みの失敗!
うう。
魔法少女の配信といえば、変身した姿。あまりにも当たり前になっているから、チェックリストに「変身の確認」が無かったとして、それがリストの不備とはいえないよね。
けれど、チェックリストに載ってれば。
いや、言い訳だ。人のせいにするな綾星。
ドローンのクレードルのそばに置きっぱなしになっていたスマホが震えている。
着信を知らせるバイブレーション。
恐る恐る、スマホを手に取って通話ボタンを押す。
画面に出ていた発信元は間宮所長。
「綾星です。すみません、やらかしました!」
出ると同時に謝る。まったく予定にない顔出し配信をうっかりやってしまったのだ。
間宮所長には、かなりの迷惑をかけることになる。
「落ち着いて、綾星さん。次に備えてチェックリストは見直します。綾星さんのこれまでの活動を踏まえて、リストを作るべきでした。こちらの落ち度です」
ぅう。配慮が染みる。
「それと、迷惑とかそういうことはないから大丈夫。リカバリーは効くからあまり思い詰めないように」
「う、はい。なんか、もう、自分の間抜けさにガックリというか」
「綾星さん、あまりにもしっかりし過ぎていたから、中学生らしいところが見えて、むしろ、こちらは少し安心したくらい」
ええ、正真正銘の中学二年生なんですけど!?
「顔はマスクでほとんど隠れていたので、一般視聴者に対する匿名性に大きな問題は生じてません。幸いでしたね」
不幸中の幸い! なのか?
ありがとう、一枚三十円の黒マスクくん。
「改めて、初配信お疲れさま。諸々の反省や改善点などは明日以降に話し合いましょう」
「はい」
「配信への反応は、いまのところそれほど悪いものではありません」
悪くなかったならよかった、かな。
正直、台本を見つつ喋るので精一杯だった。もう少しうまくできるかと思っていたのだけれど。
コメント欄を見る余裕もなかったな。
うん、色々ダメダメだ。
「今できることは事務所側で進めているから、安心してちょうだい。こういう時に焦ってバタバタすると、得てして状況は悪化するから、今日はもうゆっくり休むこと。いい?」
「はい。その、色々ありがとうございます」
うん、間宮所長の言う通りだ。
ここは、経験豊富な所長に任せてしまおう。
なにか問題が起きた時に、素人が余計なことして事態が悪化するの、映画とかドラマでいっぱい見たからね!
「それじゃ、お疲れさま」
「はい。お疲れさまです」
通話を終え、大きく息を吐く。
それにしても、二日続けて変身絡みで失敗するなんて。
手に持ったままのスマホが再び震える。
美宙からだ。
「美宙ー、見たの? 見てたの?」
「見てたよ、あーちゃん。方向性迷子な感じが、すごくあーちゃんだった」
「ええー、結構頑張って内容考えたんだけど」
「考えすぎ」
バッサリ?!
「変身を忘れてたのは、まぁ、あーちゃんの場合、変身しないのが当たり前になりすぎてたせいだから、しょうがないよ」
「うう、自業自得とはいえ……自分の間抜けさが辛い」
「これを機に、バンバン変身して」
「う、それはちょっと……その、変身をためらわないように意識する、ってことで」
「しょうがないな。それでいいよ」
なんとなく、笑いが漏れてしまう。
「えー、なんで美宙が、それでいいよ、なの」
「あーちゃんが変に反省すると、斜めの方向にすっ飛んでいくからだよ」
ぐぬぬ。親友の指摘が痛い!
でもなんか、少し気が楽になってきた。
「配信の内容もそう」
「えー」
ベッドまで行って寝転ぶ。少しひんやりしたシーツが気持ちいい。
「チェネステが、ちょっと、いやだいぶヘンな魔法少女だってことはすごく伝わったんじゃないかな」
「なにそれ。えー、そんなにヘンだった?」
「あーちゃん、普通の魔法少女は変身するんだよ」
キレのあるストレート正論パンチ!
「美宙ぁ、もうちょっと優しくして欲しい!」
「あーちゃん、この際だからちゃんと自覚しよ? あ、ちょっと待って。杏奈からかかって来たから、グループ通話にするね」
美宙の声が少し遠くなる。
このタイミングってことは、杏奈も配信見てたってことだよね。チェネステ推しの杏奈が見逃すわけないか。
「あーちゃん! 配信良かったよおぉぉ! ログの見方とか、めちゃ参考になった!!」
「あ、うん。ありがとう、杏奈」
北風の美宙と太陽の杏奈かな?!
コート脱ぐ前に温度差で風邪引きそう。
「ルミナ感知のとこは、魔法少女向け? 私にはよくわかんなかったし、コメント欄も置いてけぼりだったけど、魔法少女にはきっと役立つんじゃないかな! ヴァイセ・ブリューテも『参考になりました』ってコメントしてたよ! あーちゃん、たぶん見てないだろうけど」
杏奈、持ち上げてから落とすの上手だね!
バックドロップ並みの豪快さだよ!
あと、ヴァイセからのコメントがあったの教えてくれてありがとう!
お礼のメッセージ送っておこう。
「クラスのみんなも見てたから、明日はあーちゃんの話題で大変だね!」
「へ?! え!? 見てたの?! みんなが?!」
「そうそう。はぎーが、クラスチャットにね。チェネステの配信にあーちゃんが映ってるって」
はーぎーわーらー! またしても貴様か!
ええ、明日どんな顔して学校行けばいいの?!
「あーちゃん、明日休む?」
「行くよ!」
そんなことで休んだりはしないよ。
休んだりはしないけど、ほんと、どんな顔して教室にいればいいのか。
あれだけ休み時間という休み時間に話題になってたチェネステが、私!
こっちも気まずいけど、あっちも気まずいんじゃ。特にチェネステのバトルドレスデザインで盛り上がってた男子諸君。
いや、やめよう。
その話題は私にも大ダメージだ。
「あーちゃん、今日はゆっくり休んで」
「うんうん! たくさん喋って疲れただろうし! のど飴とか舐めとくといいよ」
「あー、うん、ありがとう、美宙、杏奈。今日はさっさと寝ることにする」
もうじき夕食の時間だし、ご飯食べて、ゆっくりお風呂に入って、宿題片付けて寝ちゃおう。
「あーちゃん、また明日!」
「うん、また明日」
「またね、あーちゃん」
通話を終えてスマホを置く……前に、コメントだけチェックして、知り合いがコメントしてたらお礼のメッセージだけ送っておこう。
そう思ってスマホを操作し始めたところで、真奈の突撃を受け、夕食の時間まで配信パソコンの録画データを一緒に見るという、試練の時を過ごすことになったりしたけれど、私は元気です。
事務所判断で配信アーカイブは非公開となったため、友達と図書館に行ってて配信を見損ねた真奈が、お姉ちゃんの初配信を見たい! と。
可愛い妹のお願いは断れないよね!
真奈と一緒に録画データ見ていたら、コメントにチラホラと知ってる名前が目につく。
杏奈が言ってたヴァイセ以外にも、サニーレイン、ルージュ・エトワール、グレイシャル・ムーン、プリズム・ティンカーからコメントを貰っている。
セラ様からのコメントは、ない。見てなかったかな? 忙しいからね。ホッとするけど、少し寂しいのは……ワガママだな。
それと、セラ様の配信でよく見かけるファンがかなり多い……なんだよ、灰星さんのファンになりました、て。情緒返して、って私にどうしろと。
誰? みたいなコメントは、うん、仕方ないね。コメント見てない指摘はその通り過ぎてぐうの音も出ない。
カワイイの連呼は、魔法少女配信のコメントではよく見るお約束みたいなものだけど、自分がされるのは、なんか、こう、うぐぐぐぐ。
真奈がニコニコで見てくるのが、なんか、なんか。
うーあー。
ところで、もしかしなくてもクラスメイト以外でも配信を見た人、いるよね?
明日の登校が……ちょっと怖い!




