第40話 杏奈に伝えます
放課後、杏奈と美宙と駅前にある総合アミューズメント施設へと遊びに来た。
昨晩のうちにメッセージアプリで誘ったのだ。
杏奈には「あーちゃんから遊びの誘い?! え? 明日世界が終わる?!」って返信された。どういうことだ。
私から遊びに誘うことくらい……あった……あれ? なかった?
あれぇ……?
ごめん杏奈。それはびっくりするよね!
今日は、たぶん特大のビックリもあるから、軽いジャブってことで許して欲しい。
世界が終わることもないから安心して。
施設の入り口を入ってすぐのクレーンゲームコーナーで、杏奈は魔法少女ブルーローズの、私はヴァイセ・ブリューテの大きなヌイをゲット。
私が取るヌイ、セラ様じゃないのか、って? とっくに獲得済みなのでご安心を。
杏奈の最近の推しは、チェネレントラ・ステラとブルーローズらしい。
円卓の一員である魔法少女ブルーローズ。
配信の同接数ではセラ様、ノワ様のツートップと比較すると桁一つ少ないが、ファンの濃さ……結束力では随一の魔法少女だね。
青い夜会風ドレスに、煌めく銀髪が映える令嬢然とした雰囲気から、ファンの間での通称は「青薔薇様」。
ややシャープなお顔立ちと、常に一人か二人の魔法少女を引き連れていることから、魔法少女界の悪役令嬢なんて言われることも。
近々ある円卓の会合で杏奈宛のサイン貰えたりしないかな。流石に公私混同か?
ヌイを入れた袋を持ってクレーンゲームコーナーを出て、カラオケとボウリング、どっちがいいか訊いたら、二人そろってボウリングとのこと。
ボウリング場のあるフロアへと上がって受付とかを済ませ、レーンに入っていざやいざや。
「あーちゃんとボウリングするの久しぶり! ね、美宙」
「そうだねー。半年ぶりくらい?」
あれぇ、そんなに行ってなかったっけ? そんなにか。付き合い悪くてごめんて。
「ま、あーちゃんにも色々あったみたいだし?」
「え、なになに。美宙、何か知ってるの?」
一投目を終えて戻ってきた杏奈が、にゅっと覗き込むように訊いてくる。美宙は、はよ言え、と言わんばかりのアイコンタクトを残し、杏奈と入れ替わるようにレーンへ。
「あー、杏奈。あのね」
ちょっと目が泳ぎかけるのを頑張って抑えて、杏奈と正面から向き合う。
「うん、なになに?」
「魔法少女に、なった」
「へー、あーちゃんが魔法少女に。オタク拗らせてとうとうホンモノに」
「なりました」
杏奈、いくら魔法少女オタク拗らせても、魔法少女にはならないよ。
たまたまだよ。運命の悪戯だよ。
「そうかー、あーちゃんが魔法……少女に?! え? え? 待って、待ってあーちゃん」
はい。待ちますとも。
すー、はー、すー、と深呼吸する杏奈。
杏奈、美人だしスタイルいいから、なんか、深呼吸する姿ですら様になるなぁ。
生まれついての金髪が、これまた映える。
すーっ、と最後に大きく息を吸う杏奈。
落ち着いたかな?
「うええええええええ?!」
全然ダメだった。
投げ終えて戻ってきた美宙と一緒に、突然の大声に驚いたようにこちらを見る人たちに向かってペコペコと頭を下げる。煩くてすみません。
杏奈も慌てて合わせている。
ボウリング場は、ピンを倒す音や大きめのBGMで、意外とよその声は聞こえない。
それでも杏奈のよく通る叫び声は注意を引いてしまったので、認識阻害と自然なノイズを混ぜた結界を張っておく。
隠密的なルミナの扱いならちょっとしたもんだぞ。
幸い、両側とも二つ隣のレーンまで空いてるから、近くに人はいない。
「あーちゃん、魔法少女になったの?! ええー、すご。すごいのか? おめでとう、はなんか違う気もするし、ええと、すごい!」
「あ、うん。ありがとう」
「えー、えー、魔法少女名、もうあるの? 変身した? あーちゃん、なんか恥ずかしがって変身を避けそうだけど、ちゃんと変身して戦わないとダメだよ。あ、他の魔法少女に会う機会とかある?! チェネレントラ・ステラに会えたら、応援してます! って。あ、あーちゃんを応援しないわけじゃなくて。でもチェネステ、円卓だから雲の上すぎてダメかな」
親友の! 私に対する理解度が! 高い!
おかしいな。なんでそんな見ていたかのように、私の行動を言い当てるかな。
「魔法少女名は――」
「うんうん、なになに?」
「チェネレントラ・ステラ」
「え、被ることってあるの?! え? 同じ……ぇ……もしかして、あーちゃんが?!」
「はい」
「〜〜〜〜〜〜!? っ~~~~~?!」
叫びそうになる杏奈の口を、美宙がすばやく塞いだ。シュバッ、て音がしそうな鋭さだ。
「ごめん、え、えと」
顔を赤く染める杏奈。ちょっと俯いて、おもむろに上目遣いで見てくる。
「その、応援してる」
「バッチリ、受け取ってるよ!」
「あーちゃぁぁぁん〜〜! うわ、めっちゃ恥ずかし! 推しがあーちゃんで、あーちゃんに向かって、あーちゃんのこと語りまくったのか!」
止められなくてすまん。許せ。
ううー、と頭を抱える杏奈を置いてそそくさと立ち上がり、ボールを掴んで、レーンに上がる。
半年ぶり、人生二度目のボウリング。
レーン奥の十本のピンを倒すだけの単純なゲームだけど、意外と手強かったことは憶えている。
「そっかー。そっか。あーちゃんが。美宙……はとっくに気付いてたって顔だ。ぇー、教えてよ!」
「私は自力で気づきましたー。本人に断りなく勝手に教えるわけにはいかないでしょ?」
「く、美宙めぇ」
雑念シャットアウト!
投げ……
「けど、チェネステのあの大胆な感じがあーちゃんだと思うと……」
雑念んんん!
あー! 八本! 両端残ってるぅ。
「杏奈。それは、言わないで。色々ね! 色々理由があるの!」
「お、おう。わかった。追求しない」
戻ってきたボールを取って二投目。
微妙に集中力を欠いたまま投げたボールは、一本もピンを倒せずにレーンの奥に吸い込まれる。
チェネステの格好は、うん、みんなちょっと気になるよね。
なんか、クラスの男子からも、アレはちょっとけしからん、的な話を振られたけど、どう答えろと!? どう答えても、私に大ダメージだし!
くそー、オギワラ君め。あれ、ハギワラだったかな? まぁいいや。
「杏奈、杏奈に伝えるの遅くなってごめん」
サクッとストライクを決めて戻ってきた杏奈に向き合って伝える。
「んーん。魔法少女になるって大変でしょ? あーちゃん、葛藤が多そうだし。あのでっかいの出て来なかったら、今も黙ってコッソリと活動してただろうし……あー! スター・ホワイトもあーちゃんでしょ! 誰にも姿を見せず活動するの、すごいあーちゃんっぽい」
親友の! 理解度が!
「なんでわかった……」
「なんでも、なにも、ねぇ?」
「ねー!」
投げて戻ってきた美宙と頷き合う杏奈。
てか、美宙も、杏奈もさっきから一投で決めてるし。
半年の間に君たち随分と上達してませんか? 前は三人ともストライクとかほとんど出なかったよね?
このままでは負ける。
なにか、お手本は――二つ開けた隣のレーンで投げている、なんか本格的な格好した人の投げ方を真似てみる。
お、いい感じに……うぇぇえ? 曲がった?! なんで? あ、あ、溝に落ちた。
美宙と杏奈が、ぐっと親指たててくる。
その笑顔で、ドンマイとか言われても!
「あーちゃん! 応援してるよ!」
「無理はしないでね」
あー、うん。
無理せず、頑張る。
……応援してる、って魔法少女の活動についてだよね?
二投目は、まっすぐ投げて、まっすぐ綺麗に真ん中に入って、また両端が残った。
久しぶりにやったけど、手強いな! ボウリング!
けれど、二人からのドンマイのおかわりに、なんとなく笑顔が溢れてしまう。
うん、ちょっと心が軽くなって、やる気もアップしてきた。
よし。円卓、なにするものぞ!
◇
なお、ボウリングの結果は、私の一人ボロ負けだった。
二人ともなんだよ、百八十とか、百九十とか。
一本倒すと一点で、十本を十回倒すゲームで、なんで二百点近くになるんだ……
奥が深いな、ボウリング。
美宙と杏奈からは、なんか終始むぎゅむぎゅとスキンシップを浴びた。
二人なりの、激励だね。
うん、なんか。
嬉しい。




