第35話 円卓入りとか聞いてない
履歴からキルシュを選んでコールバックすると、コール音二回で繋がる。
「さては通知見てなかったな灰星」
図星ですけど! 第一声からそれですか。
「で、なんでお前が円卓入りなのか、聞きたいんだろ? 最初に言っておくが、円卓、正式にはルミナ適格者連絡協議会合だが、その名の通りに魔法少女のための会合であって、すごい魔法少女の権威付け、みたいな幻想は世間が勝手にそう思ってるだけだ」
「魔法少女の意見をくみ上げる会議だから、私みたいな新米でも呼ばれることはあると?」
「そういうこと。成り立ちから説明するから、スピーカーモードにして、とりあえず楽な姿勢になっとけ」
そういうキルシュの側からは、どさりとソファか何かに座る音が聞こえたので、こちらも間宮所長に一言断ってオンライン会議を抜け、自室のベッドに腰掛ける。
キルシュの語るところによると――
円卓の設立は、二年前の黒霧虚災によって当時のトップ層を含む魔法少女が壊滅状態に陥ったことがきっかけだった。
黒霧虚災。
私の記憶では五十人以上の魔法少女が殉職、または引退した大事件だ。
私が公認魔法少女全員のプロフィールを把握するようになったのも黒霧以後で、ひとりでも多く記憶に留めておきたいと思ったからだ。
黒霧当時の現役公認魔法少女は二百名ちょっといた。
キルシュによると、そのうち九十一名もの魔法少女が、黒霧の影響で最終的に公認名簿から外れたという。
社会的な影響を考慮し、公認解除は一度に公表せず、時期をずらして名簿へ反映したということだが……
私の記憶以上に、黒霧の被害が大きい。
半数近く、それも中堅以上の魔法少女がごっそり欠けたなら、黒霧後はしばらく隔獣対策が機能しなくなったはずだ。
キルシュは「生き残りのヤツらで何とかした」とぼかしたけれど、生き残った魔法少女たちの身を削るような献身があったのだろう。
「黒霧前の魔法少女が現役にはほとんどいないのも、その影響?」
「あー、そうだな。で、引退した魔法少女を補うように、新たな魔法少女の覚醒が相次いだんだが。言っちゃ悪いが、新米ばかり増えても、現場は回らないし、社会全体の不安感がぬぐえるわけでもない」
そこで、特災庁がその後にとった方策が、引退した「始まりの魔法少女」に代わる看板となる魔法少女を立てることと、残った魔法少女たちの戦力引き上げ。
その看板として白羽の矢が立ったのが、セラ様だった。
一瞬、古参ファン仲間のシホさん――特災庁の志島局長の顔が浮かんだが、「シホのヤツがプッシュしたわけじゃないよ」と言われた。
まだデビューして一年経っておらず、所属が小さな事務所で知名度は低かったものの、極めて高いルミナ出力を見せていたセラ様には、かなり早い段階で特災庁も注目していたのだとか。
事務所ごと最大手のファーストナイトに吸収され、万全のバックアップ体制を得たセラ様は、アストラ・クラウンの強烈な輝きで黒霧後の重苦しい空気を吹き飛ばした。
当時の私は、デビュー時から応援していたセラ様が魔法少女のトップへと駆け上がっていくことに胸を熱くしていたけれど、裏話を聞くとちょっぴり複雑な気分も湧く。
「そういうカラクリ見抜くの得意そうなのに意外だな」
「私は私で、魔法少女に覚醒して色々いっぱいいっぱいだったんだよ」
けどまぁ、セラ様なら? 遅かれ早かれ、その御身の輝きだけでトップに上り詰めてただろうから、誤差だね。
そして、看板魔法少女の擁立と並行して行われたのが、ルミナ適格者連絡協議会合――円卓の設立だった、と。
「黒霧のちょっと前くらいから、事務所間で競争の風潮が出てきただろ? で、隔獣駆除の技術や知識は事務所単位、個人単位で秘匿する傾向になってたんだよ。それが黒霧の大量引退で失伝状態になっちまった」
「育成の仕組み自体が壊れてしまった、と」
「そそ。で、事務所間の競争だとか言ってる場合じゃないぞ、てことで特災庁主導で発足したのが円卓」
狙いは分からないでもないけれど……
「機能、してないよね」
「経験豊富な現役魔法少女となると、どうしてもトップ層になる。特に黒霧を乗り越えた古参の存在は重い。それに、選ばれた魔法少女の所属事務所側は円卓に権威があった方が箔付けになるし、新規の勧誘もしやすい。シャイニースターの後継とされたセラが初期メンバーに入っていたのも大きい。ま、いろいろな思惑が絡み合った結果、当初の目的とはだいぶ違うところに着地しちまった」
そこに入って風向きを変えてほしい、とかなら、そんなのは無理難題にもほどがある。
円卓メンバーのプロフィールは知ってるけれど、詳しい人となりはわからない。
知遇があるのも、セラ様と、かろうじてノワ様くらいだ。
ノワ様はなんとなく、ノリノリで協力してくれそうだけど……
「そういうの、キルシュの方が得意なのでは?」
「あー。私がやると、上からの押さえつけになっちまうんだよ。それに、ファーストナイトが強くなり過ぎる」
ぐぬぬ。
確かにキルシュの言う通り、キルシュが円卓の議長役に収まって腕を振るうと、セラ様、キルシュを擁するファーストナイトの発言力がかなり強まる。
他の事務所は当然面白くない。特にファーストナイトに追いつけ、追い越せのアヴァロンあたりは反発しそうだ。協力体制どころか、対立の火種になるか。
とはいえ、腐っても大ベテランのキルシュにできないことが、新米の私にできるはずもなし。
「断れないのはわかったけど、何かを期待されても応えられないよ?」
「わかってる。ただ、円卓メンバーのセラとノワを含むチームを指揮して、未知の隔獣に対処した実績は、チェネが考えている以上に大きい。無下にはされんよ」
「それはそれでプレッシャー……!」
デビュー三週間で、円卓入り。
ぶっちぎりの最速記録だ。
また、まとめサイトの記事が増えるよ。
「胃が痛くなりそう」
「トワイライトパレス宛に胃薬差し入れといてやる。じゃ、よろしくな」
胃薬プレゼントされる、魔法少女……
華やかさと無縁な感じ、最高に私らしいな!
なんて考えてたら、通話を切ったばかりのスマホに、メッセージが届く。
魔法少女ヴァイセ・ブリューテから、とても丁寧な、円卓入りへの祝辞だった。
◇
ヴァイセとは、公認登録後に、ファーストナイトと特災庁を経由してコンタクトがあり、なんやかやあって最終的に、その、友達、になった。
雨の境界層での援護射撃で命を救われたことの御礼をとても丁寧にされ、こちらも、巨大隔獣戦でとても助けられたことの御礼と、話を聞かずに逃げてしまったことについてのお詫びをした。
公認魔法少女となった以上、他の魔法少女との同僚付き合いは避けがたい。
である以上、関係性についても考慮の必要があるのだけれど、その、推しとして見ていた魔法少女と、どういう関係を築けばいいのか。
キルシュ?
三年くらい、チャットで気兼ねなく会話してた仲なのでノーカンで。
で、
ヴァイセは公認魔法少女として先輩なので丁寧な対応を、と思ったのだけれど。
「ステラさんは私の命の恩人です。恩人相手に先輩面するのはちょっと」
「けれど、年齢も公認歴もヴァイセさんのほうが」
「それをいったら、実質的な活動期間はステラさんの方がはるかに先輩です」
「いやでも、魔法少女として社会に貢献したかというと……」
「セラ先輩からスコア聞きましたよ。圧倒的じゃないですか。あれで社会貢献できてなかったら、魔法少女みんなクビですよ、クビ」
と、そんな感じで譲り合いバトルが発生。
ヴァイセは、こうと決めたら意地でも引かない意志の強さもあって――
「お友達になるのと、魔法少女として私に推されるの、どっちがいいですか?」
なんていう二択を突きつけられたら、私には、お友達でお願いします、以外の返答の持ち合わせはない。
なお、その後に互いの推し談義で二時間盛り上がった。
ヴァイセはキルシュ推し、私はセラ様推し。
語ることは尽きず、充実したいい時間だった。
ヴァイセ、めっちゃいい子。
チョロいとかいうな。対等に存分にオタク語りできる相手は貴重なんだ。
ヴァイセに御礼のメッセージを送り終えたところで、今度はセラ様とノワ様からも、円卓入り歓迎のメッセージが。
こちらからも丁寧に御礼と、よろしくお願いしますの挨拶。
正直、セラ様とはどう接したらいいか、未だに悩んでいる。
推しとファンの関係のままとはいかないのは、頭では理解してるけれど、じゃあどんな関係になれるのか、の答えが見つからない。
セラ様の配信にコメントする「灰星」が、魔法少女チェネレントラ・ステラ本人だったことは、他のファンも知るところとなっている。
それは迂闊な私のせいなのでいいのだけれど……
公認後、一度セラ様の配信でコメントしたら、一斉に「てぇてぇ」が流れたの、いたたまれないことこの上なかった。
私は推す側であって、こう、推しと並べて尊ばれると、もうどうしたらいいかわからないのだ。
そんな状態から抜け出せないまま、円卓入り。
キルシュは、そんな大層なものじゃないというけど、セラ様と! 至近距離で! 話すことがあるかもしれない時点で、もういっぱいいっぱいなんだよぅ。
そもそも。
デビューから最短記録で円卓入りしたメンバーだなんて、いかにも主人公っぽいポジション。
私のような地味なキャラには分不相応にもほどがあると思うのだ。




