第34話 トワイライトパレス
公認魔法少女に登録されてから三週間ほど。
所属事務所が決まり、契約も済ませ、隔獣駆除も再開した。新装備で捗る。
テレビでは『魔法少女チェネレントラ・ステラ、トワイライトパレスと契約』なんてニュース速報が流れたらしい。
すごいなチェネレントラ・ステラ。有名人だ。他人ごとみたいに考えないと、心がもたない。
所属事務所は三大事務所のどれかになるかも、と聞いていたので、鳴海さんから「トワイライトパレスが第一候補です」と言われたときは、少し意外ではあった。ただ、こじんまりしたところがいい、という私の希望にぴったりマッチする事務所なので二つ返事で話を進めてもらうように伝え、とんとん拍子に契約が決まった次第。
契約にあたっての諸々の説明のために我が家へと来訪した所長の間宮さんは穏やかで親しみやすそうな人で、この人とならやっていけそうかも、という印象だった。
ただ、どこか見覚えのある顔の人で、けれど初対面で。
私の脳内人名録は、親友と家族と魔法少女関係でだいたい埋まっているけれど、さすがに、魔法少女事務所の所長とか経営者とかまでは網羅していない。
いったいどこで見たのだろうと悩んでいたら、お母さんが、そそっと色紙出してサインをもらっていた。
そこでようやくピンときた。
大女優さんじゃないですかー?!
テレビの有名人には疎い私でも知ってる、ちょっと古い有名映画とかで見たことのある顔だ。
往年の大女優……芸能とかメディア方面に強そう。
特災庁がトワイライトパレスを選んだ理由もなんとなく察せられた。
間宮さんとお母さん、どちらも名前が「すみか」で、意気投合していた。
うちの母上様、コミュ強者か!
間宮さんも娘さんが魔法少女だったそうで、しかも、間宮さんにそのことを言わずに活動していたらしい。
チラリ、とこちらを見たお母さんの視線がちょっと痛かった。
黒霧のあと、初めて娘が魔法少女として戦っていたことを知ったそうだ。
娘の手助けになれなかった分、魔法少女の助けになることで、間宮さんなりに娘の願いを引き継いでいこうと、魔法少女事務所を立ち上げたとのこと。
重たい。
いいんですか、こんな半端な魔法少女が間宮さんの事務所で。
そう思ってしまったのが伝わったのか「魔法少女事務所、割と儲かるのよ」なんてイタズラっぽくウインクしてくる。
かわいいか!
なんというか、ころころと転がされてる気がしてならないけれど、それが不快じゃない。
海千山千というのは、こういう人を言うのだろう。
間宮さんが所長のトワイライトパレス、所属魔法少女は私を入れて二名。
先輩となる魔法少女メイルストロームは包容力のあるお姉さん魔法少女で、ASMRが人気コンテンツ。
十代後半で魔法少女に覚醒してから六年ほど経っており、年齢的にもそろそろ引退が視野に入っているそうだ。
ファン層は幅広い。うちのクラスにもいたな、メイルストロームファン。
個人的にも気になっていた魔法少女のため、後日の顔合わせが楽しみだ。
◇
で、今は何をしているかと言うと、オンライン会議で間宮さんから魔法少女のお仕事についてのレクチャー中。
魔法少女が隔獣駆除以外にどんな活動をしているかは知っていたけれど、なんのために、という話を認識合わせを兼ねて改めて。
チャット友達のユサ――魔法少女キルシュ・ツァウバーは、魔法少女なんてキルスコア稼いでなんぼ。あとのことは全部オマケ、なんて言ってたけれど。
魔法少女という存在は、隔獣災害が日常化した世の中での人々の希望であり、日常を守る象徴でもある。魔法少女が社会に与える影響は、決して小さくはない。
魔法少女の存在を身近に感じてもらう、ということは社会的な意義を持つ立派な仕事であるのだ。
その上、現役の公認魔法少女は僅か百五十人余り。私の通う中学校の一学年の生徒数よりも少ない人数で、国内すべての居住地域をカバーしている。
その希少性と重要性ゆえに魔法少女は数々の特権を有してもいる。
未成年の女子中学生でしかない私が、先の対巨大隔獣戦で指揮権申請して通ったのも、そういった特権あってこそ。
隔獣駆除以外の魔法少女の活動――配信活動、グッズ販売、メディア出演、様々な交流イベントなどは、身も蓋もない言い方をすれば、莫大な公費が投入されている隔獣対策、境界層研究、魔法少女活動への理解促進のためだ。
世知辛。
そして、広報効果という面でいくと、やはり知名度の高い魔法少女ほど効果も高い。
キルシュが魔法少女としてはほとんど動けなくても完全引退せず、配信専門として活動を続けているのも、知名度の高い「キルシェ先生」が少しでも現役魔法少女のそういった活動を肩代わりするため。
キルシュ本人は「好き勝手言えるからやめられないだけで、そんなこと考えてねーよ」と言いそうだけど。
あ、ユサとは、いろいろすったもんだして、キルシュ呼びに落ち着いた。
学年は向こうが一つ上だけど、誕生日は十日しか変わらないから、先輩呼びは却下、だそうで。
セラ様が先輩と慕うキルシュがセラ様より年下という衝撃の事実!
まー、正体割れたからなのか、メッセージで下ネタ平然と飛ばしてくるキルシュなんてキルシュ呼びで妥当だ。
話が逸れた……
それで、だ。
最近、知名度が急上昇した魔法少女がいる。
SNSではトレンドを席捲、まとめサイトがこぞって記事を量産する、飛ぶ鳥落とす勢いのヤツがいる。
チェネレントラ・ステラ、とかいうらしい。
やだー! おふとん被って見ない振りしたい!
「そういう訳にもいきません。少なくとも、グッズ販売、配信、特災庁の広報イベント参加の三つは、現在のチェネレントラ・ステラの知名度を考えると、避けては通れません」
「声に出てました?」
「いえ、顔に」
「そうですか。避けられないのは理解しているのですが、配信とか特に、何を話したらいいやら」
正直言って、途方に暮れている。
頭ではわかっている。
魔法少女ファンが興味津々なチェネレントラ・ステラの生の声を届けることの意義は。
けれど、何を話せばいいのか。
数多の魔法少女の配信を見てきた私なら、それっぽい配信はたぶんできる。
ただ、それを自分が許せるかどうかは全然別の話で、そんなお茶を濁すような配信、世間の魔法少女ファンが許しても、私が絶対許せない。
「めんどくさいことを考えている自覚は、あります」
「それは綾星さんの良いところですよ。欠点、と思わなくていい」
「……良いところ、ですか」
なんとなく、間宮さんの言いたいことは伝わる。
チェネレントラ・ステラの姿には、自分がなるのは違う、羞恥心振り切れる、解釈違いだ、と色々と思うところはある。
だけれど、嫌いか、と問われれば、好き、と言いきる自信はある。
理想像もなしに魔法少女に覚醒していたら、と考えると、チェネレントラ・ステラで良かったと言える。
言えるけど、その姿での配信は……まだ抵抗感が強い。
多少拙くても、ちゃんと、これが私なりの魔法少女配信です、と言えるものでないと、自分で自分を許せなくなりそうなので、難しい。
灰宮綾星は、自分で言うのもなんだけれど、本当にめんどうくさいヤツだ。
「配信は、無理にするものではないから、実施時期調整中としてしばらくはお茶を濁しておきましょう。グッズ展開で、間は十分にもちます」
「はい。頂いたグッズサンプルはどれも問題ないです。このパーカーも、デザインは良いですし縫製もしっかりしていて、正直、気に入っています。なんというか、ツボを心得ている感がすごい」
「プランナーとデザイナーが頑張ってくれました。では、これでサイトの方に……今、公開しました。あわせて、SNS公式アカウントでも告知を打っていきます」
ひえ、間宮さんの仕事が速い!?
「あの、間宮所長。グッズの事前発注数、ちょっと桁がおかしい気がしますけど、在庫抱えて大変なことになったりとか大丈夫ですか……? その、モノはいいので、売れないことはないと思いますけど」
「こういうのは、余るよりも売り切れを心配しないといけないものなので、かなり余裕を見ての数で――え? オーダーストップ? 予約完売?」
おーだーすとっぷ、ってなんだっけ?
かんばい、というのは売り切れのこと?
「間宮所長? なんか怖い言葉が聞こえたんですけど!?」
間宮さんの沈黙が怖い!
かなりの余裕を見た数はどこいったんですか!?
「綾星さん、いいですか、落ち着いて聞いてください」
「その前振りで落ち着けないです!!」
溜めを作る間宮さん。なに? じわじわアップになるのは何かのオマージュ!?
「チェネレントラ・ステラの円卓入りが特災庁から発表されてました。五分ほど前に」
円……卓……? ほわい?
「グッズ販売の告知がジャストタイミングでしたね」
「聞いてないんですけどー?!」
「あら。鳴海室長から連絡が来ていませんか?」
慌ててスマホを取り出す。
境界層でピロンピロン鳴って欲しくなくて、スマホの通知系は全部切っていたのが裏目に出た。
未読メッセージが五件。
着信二件。鳴海室長とキルシュから。
え? マジで? 円卓?
すごいな、チェネレントラ・ステラさん。
デビューわずか三週間で公認魔法少女の頂点、円卓に加入!
歴代史上最速記録!
同時にグッズ展開! 即完売!
これはもう魔法少女界のRTA走者! 嫉妬する暇すらない超スピード!
あかん。
おなかいたくなってきた。




