31話 円卓の魔法少女たち
特殊災害対策庁第一分庁舎。特災庁内でも、魔法少女関連の部署が集中する庁舎の最上階会議室、通称「円卓の間」に七人の魔法少女が集まっていた。
最奥に座るのはサニーレイン。現役最年長の魔法少女であり、隔獣災害最初期に魔法少女に覚醒した始まりの魔法少女と同世代の大ベテラン。
ルミナ適格者連絡協議会合、世間では円卓と呼ばれる魔法少女の集まりで何かと議長役を務めることが多い魔法少女は、会議室に入ってきた最後の一人に怪訝な視線を向ける。
「ナーサリーライムさんは?」
「引退した。んで、急遽の代役が私。今日だけだから安心しなって」
答えたのは、ふわふわのピンクヘアを両サイドで丸くまとめた魔法少女、キルシュ・ツァウバー。サニーレインの丁寧な問いかけに対して、どこか毒のある笑みを向けて雑に答え、円卓に並ぶ椅子のひとつに座る。
不遜にも見えるキルシュのその態度を咎める者はいない。この場にいる全員が、キルシュの功績と発言力を認めているからだ。
サニーレインに至っては、威厳を保ちつつも視線でキルシュに頼る意思表示すら見せる。
「凪さん、前にお会いした時もだいぶ体調が思わしくなさそうでしたけれど」
「ルージュはライムの後輩だっけか。引退理由、表向きは年齢だから体調の話は外でしないでやってくれ」
「わかりましたわ。それで今日の議題は?」
真っ赤な縦ロールヘアの魔法少女、ルージュ・エトワールに視線を向けられたサニーレインが居住まいを正す。
「新種の大型隔獣に関する情報共有と、円卓加入予定者に関する連絡です。最初の議題についてはセラさんから。また、以後の進行はキルシュ・ツァウバーさんにお願いします」
「では、大型隔獣――仮称タイプ・ルーク、名称ウングラトゥスについての共有を始めさせてもらう」
金色の髪を持つ現役最高峰の魔法少女、セレスティアル・スター――セラが立ち上がり、小さく合図を出す。
部屋の照明が絞られると、会議室の大スクリーンに先日の隔獣ウングラトゥスとの戦闘記録映像が映し出された。
セラは流れる映像に合わせ、端的に分かりやすく解説を入れていく。
序盤、アストラ・クラウンの爆炎の中から悠然と姿を現す隔獣ウングラトゥスには、数人の魔法少女が息をのむ。
初撃で倒せなかったとは聞いていても、全くの無傷は予想外だったらしい。
その後のセラとの遠距離砲撃戦を経ての一時撤退、定点観測試験システムに映し出されたチェネレントラ・ステラの登場と戦闘。
「信じがたいですわね。物理法則に従っているようで、ここぞという時は無視してくる隔獣を、どうやって転倒させたんですの?」
「それについては、後日チェネレントラ・ステラ当人からヒアリング予定です」
「ふん、なにかトリックでしょう」
「だとしても、ボクは大したものだと思うけどね。ボクにだってやり方の見当がつかない」
グレージュのロングウェーブヘアの魔法少女、グレイシャル・ムーンが面白くなさそうに呟き、黒青銀の姫騎士魔法少女、ノワール・ガルドが軽くフォローをする。
映像は流れ続け、再編を終えたセラとヴァイセ・ブリューテが先着、後続のノワ達が戦域に入ったところで、チェネレントラ・ステラがリンクに介入する。
「リンクってあのように簡単につなげるものなの?」
青い夜会ドレス風バトルドレスを纏う銀髪の魔法少女、ブルーローズが首をかしげる。
「できません。スクランブルがかかってるリンクにキーもなしに接続したら、ノイズで頭をやられます」
「セラ、試した?」
「二度とやりません」
迷いのないチェネレントラ・ステラの指揮で隔獣ウングラトゥスの装甲を割り、そこにアストラ・クラウンが突き刺さり、炸裂。
隔獣ウングラトゥスが金色の光の中に消えたところで映像は停止し、解説を終えたセラが着席すると同時に、部屋の照明が明るくなる。
「改めて見て思ったんだけど、これ、ボク仲間外れにされてない? 気のせい?」
「気のせいですね、ノワ。たまたま出番がなかっただけで、タイプ・ポーンの隔獣が押し寄せてくる可能性は充分ありました。後方での防御配置は妥当です。また、ルージュが転戦しながら迅速に掃討していってくださったことで、結果的にこちらが包囲される危険性が大幅に下がったという分析が出ています」
「造作もないことですわ!」
「……ふん」
パン、と手を打ち合わせる音に、全員がキルシュに注目する。
「脱線しかかってるぞ、お前ら。今回初めて確認されたタイプ・ルーク、かなり厄介な相手だ。前半戦見て、どう思った? グレイシャル」
「異常にタフですね。アストラ・クラウンをあれだけ受けて存在が揺るがないのは不気味です。あの装甲、いままでの隔獣とは毛色が違いますね」
「そうだ。装甲自体が強固で、並の攻撃は通さない上に、装甲表面でルミナを細かく拡散させる性質があるから、大火力を漫然とぶつけても受け流される。当面は発見しても接敵せず通報に徹しろ。通達が出るから、周りにも徹底するように伝えておけよ。チェネステ真似してそのへんのヒヨっこが突っかかったら、死ぬぞ」
最後のひとことを殊更に強調したキルシュに、全員が頷く。
キルシュに任せると発言して以降は意識して空気に徹しているサニーレイン、我関せずの態度を見せるブルーローズ、セラやルージュへの対抗心を隠そうとしないグレイシャル・ムーン、マイペースなノワール・ガルドに、それ以上に我が道を行くルージュ・エトワール。
仲が良いとは言い難い円卓メンバーだが、魔法少女の生死が関わることについてまでいがみ合うほどではない。
「んーし、次。ナーサリーライムに変わる円卓メンバーだが、チェネレントラ・ステラだ」
「は? 新人では?」
即座に反発の意をみせたのはグレイシャル・ムーン。現在の円卓の中では、半年前に加入した最も新しいメンバーであり、魔法少女デビューから一年半での円卓入りはそれなりに話題になった。
グレイシャル・ムーンの所属事務所であるアヴァロンも、事務所初の円卓入りを盛大に宣伝した。
その半年前に同じくデビューから一年半で円卓に加わったルージュ・エトワールが居なければ、もっと話題になったかもしれない。
そんな状態で、チェネレントラ・ステラがデビュー即、円卓入りともなれば面白いはずもない。
「魔法少女歴自体は二年。歴は同じくらいだよ、グレイシャル・ムーン。それと、先月の隔獣駆除数は三十七体が特災庁によって確認された。セラ、ルージュに続く三番目に多い数だ」
グレイシャル・ムーンの顔が複雑に歪む。
他の魔法少女達は、驚いた顔、意外そうな顔と様々。セラだけはそれが当然のように、どこか自慢げな表情になっている。ノワがそれをちらりと見て苦笑する。
「そんなおっかない顔すんなよ、グレイシャル。別に煽ってねーよ」
「な! 完っ全に煽ってたじゃない、この毒舌ピンク頭!」
「毒舌はチャームポイントだから止められん。円卓メンバー入りの正式決定はチェネレントラ・ステラの所属事務所が確定してからだが、内定は出てる」
「世間が納得するとは思えませんね」
少し不貞腐れたようなグレイシャル・ムーンをじっと見つめてキルシュが続ける。
「世間の意向は関係ない。円卓メンバーの選任は特災庁の専権だから覆ることもない。特災庁はそれだけチェネレントラ・ステラを重要視してる。仲良くやれとは言わねーけど、足の引っ張り合いはすんなよ。あと、チェネステ、わりと存在がオカシイから気をつけろよ」
肩をすくめるキルシュに、ノワが身を乗り出す。
「それ、ボクも思った。あの日が初変身だっていう情報、ほんと?」
「初回変身時の莫大なルミナ流入で光の柱が立つ現象は既知だが、チェネステのそれは『別の要因』というのが特災庁の公式見解になる予定だ」
「ずいぶんと持って回った言い方ですわね? 特災庁は、あれが初変身だと認めるのは不都合だと?」
チェネレントラ・ステラの円卓入りの連絡に対しては興味無さそうに爪を弄っていたルージュが顔を上げ、キルシュに問う。
「ルージュ、考えてもみろ。あれが初変身だとするならば、だ。ひとつ、変身せずに境界層に入ってた」
「頭おかしいですわね!! 死にたいんですの??」
「ふたつ、その状態で、ひと月で三十七体の隔獣を駆除した」
「最っ高に! 頭おかしいですわね!!!」
「だろ?」
「前例になってはマズいケースということですね」
ブルーローズが納得したように呟く。
「そういうこと。まぁ、火消しは難しいだろうな。ネットはスター・ホワイトとチェネステが別人か同一人物かで大荒れだ。当人はどこ吹く風で……」
ちらりとスマホを見るキルシュ。
「のほほんと境界層にもぐってやがる」
「変身せず?」
「変身せず」
円卓の間に沈黙が落ちる。
「やべーヤツですわね、チェネレントラ・ステラ」




