第3話 スター・ホワイト? 初耳ですね
杏奈の瞳がキラッキラに輝いている。
止まらない。
止まらない。
このモードの杏奈を止められたことは一度もない。
「その攻撃は魔法少女の感知範囲の遥か外から、ヒュン、て光弾が飛んできて、スパーン、て隔獣のコアを撃ち抜いておしまい。魔法少女が弾のとんできた方向を捜索しても、魔法少女の影も形もなし。でも光弾にはルミナ反応があるから魔法少女による攻撃なのはまちがいなし。星みたいに輝く白い光弾と、ビルの森に隠れて誰も見つけられないことから付いたコードネームがスター・ホワイト。あ、このビルの森に隠れてるから見つけられない、ていうのは青薔薇様が配信で言ってて、それを聞いたファンが、白雪姫かよ、て突っ込んだのが発端で、あ、その時の切り抜きブクマしてるけど見る?」
ひと息! ひと息で語られた情報量が多い。
白雪姫をもじってスター・ホワイトとかああああああ。いや、私が思いついたんだ、誰かが思いついたとしても不思議はない。
不思議はないけど、なんか、状況を的確にネーミングにしていて上手いな、て思ってしまった。
私も他人ごとなら、スター・ホワイト! すごいあってるじゃん! て言っちゃう。
他人ごとなら!
「誰も姿を見たことが無いから、どんな魔法少女なのか分からないところが、また、アツいというか。あ、これ、この切り抜き。青薔薇様が冗談めかして『鏡よ鏡よ鏡さん 世界で一番美しい魔法少女はだあれ』に、コメント欄が『青薔薇様です』で埋まるの、ファンの結束力めちゃ高だよね」
さっきはちょっと心理的衝撃のあまり聞き流したけど、青薔薇様って、トップ魔法少女のひとり! 支援魔法のトップ格、魔法少女ブルーローズのことだよ!
まって、むり、まって、しぬ。
私は魔法少女ファン……いや、魔法少女オタクだ。公認魔法少女152人全員のプロフィール、主に使う魔法、大まかな戦績をそらんじられるくらいには。
中でも最推しはセラ様だが。
そんな私が、出来心というか気の迷いというか、たぶん、年ごろの魔法少女ファンなら一度はやるであろうアレ。
もし、私が魔法少女になったら。
……という妄想。
そこで思い描いた、白を基調にした妄想魔法少女姿の私が名乗る名前の案のひとつが、魔法少女スター・ホワイトだった。
こんな偶然あっていいのか? いやない!
ないったらない。
ないけど、青薔薇様の配信で出たワードを取り消す力など、私にはない。
つまり、スター・ホワイトという謎の魔法少女。
状況からして十中八九、私であろうその名前を、これからも耳にする機会がきっとあるということ。
いや、十中二三くらいにまけてほしい。
確率低すぎ?
私だって現実から目をそらしたいときはある。
「公式ログでも姿は確認できてなくて、隔獣がいきなり光弾に撃ち抜かれて消える、ていう共通点だけあるんだよ!」
いつにもまして杏奈が止まらない。
ど、どうしたらいいの。
顔が引きつらないようにするだけで精いっぱいだ。
魔法少女になる妄想はした。しました。
うっかり妄想してしまい、ちょっと安直すぎるかな、と心の中で没にした魔法少女名。
没にしたけど、そこは悲しきオタクのサガ。思い浮かべた妄想を忘れることはできずにいた。
そして、偶然なのか運命のイタズラなのか魔法少女になった。
ここで、なっちゃった、とは口が裂けても言わない。
魔法少女になったのは、少なくとも、私の意志だ。
もっともその実態は変身をためらった挙句にジャージ芋砂魔法少女だ。
なのになのに、その狙撃スタイルが巡りに巡って、スター・ホワイトという名を呼び起こして私を撃ち抜いてきた。
ナイススナイプ! て歓声をあげたくなるほどだ。
他人ごとなら。
ビルの森に隠れた白雪姫。誰がうまいこと言えと言った。
どういう因果だ、これは。
そのうち七人の小人でも出てくるのか?
そういえばトップ魔法少女の代名詞、円卓のメンバーが七人だったな。
「それでね、セラ様が出撃した時の隣接区域でも何度かスター・ホワイトらしき討伐痕跡があって、セラ様もスター・ホワイトに注目してるんじゃないかという噂が」
「まってまってまってまって」
思わず声が出た。上ずった。
「さすがあーちゃん、セラ様の話題には秒でリアクション」
「え、セラ様が? そんなこと配信では一言も」
杏奈と私の会話、いや、杏奈の怒涛のおしゃべりを聞きながら、スマホで避難関連の情報を見てた美宙の視線がこちらに向く。
杏奈が一方的にしゃべり倒すのは、いつものことだ。
でも、それにここまで私が振り回されているのは珍しいから、美宙が少し不思議そうに私を見るのも分かる。
分かるけど、じっと観察されると、隠し事が増えてる身にはつらい。
もう私はいっぱいいっぱいだ。
「当たり前のように配信全部抑えてる前提の発言するあーちゃん、さすあーちゃん」
「そういう話じゃなくて」
「だから噂だって、噂。ファンの間での噂。あーちゃん、そっちはあんまり見ないもんね」
私は魔法少女のオタクであって、他の魔法少女ファンのファン活動には正直興味がない。
よそはよそ、うちはうち、だ。
私のスタンスが独特な自覚はある。
現実にいるのに、現実と結びつけていなかったから、のめり込めた。
今は違う。自分がそうなって初めて現実と接続された。
もっとも、それで魔法少女オタクをやめるほど浅いのめり込み方ではなかったわけで。
だからなおのこと、推しは画面の向こうにいてほしいと思っている。
オタクとしてだいぶ複雑骨折してると、自分でも思う。
けれど、だからこそ、デビュー時からずっと推している最推しのセラ様に関しては断言する。
「セラ様が、事実かどうかもあやしい噂レベルのものに言及することはないよ」
「言いきるじゃん、あーちゃん」
「セラ様のことはずっと見てきたからね!」
「自信満々のあーちゃんの言うことはだいたい外れるの法則」
「ぇ、なにそれ」
「ね? 美宙」
不意に振った杏奈に美宙が頷く。
あれー? 自信満々に断言した私の立場は?
「そうね、よくわからないくらい自信満々のあーちゃんはやらかすから」
「ええ!? そ、そんなことあったっけ」
「小学校の遠足で自信満々に班の先頭を歩いて、班のみんなで迷子になりかけた事件」
「ぐう」
「あーちゃん。その、ぐうの音は出る、てギャグはちょっと」
「解説しないでこころがしぬ」
ふと、クラスメイトのざわめきが大きくなる。
どうやら、避難指示が解除されたみたいだ。
担任の先生が、点呼とるぞ、と声を張り上げている。
みんなの動きにあわせて、私たちも整列するべく移動する。
「あーちゃん、あーちゃん。続きは帰りながらね」
続かなくていいから!




