第27話 アストラ・クラウン
なおもセラ様のいる方向に、背板から黒光を放ち続ける巨大隔獣に、黒光を霞ませる圧倒的な白金の光が突き刺さる。
それは雷撃に穿たれて大きく拡がった装甲の亀裂を貫き、その内側にもう一つある装甲に達する。
外側の装甲が傷ついた際に現れる、二次装甲。
だが、それはもう解析済みだ。
全身を覆う外側の装甲とは異なり、傷ついた部分を穴埋めするピンポイントなものに過ぎない。
私の斧槍による攻撃であれば十二分に防げるそれも、奔流のように流れ込むルミナを拡散しきるには小さすぎた。
あっという間に飽和し、金色のスパークをまとう光の中で蒸発する。
そうして、外側の装甲を貫き、予備装甲を蒸発させ、遮るものの無くなったアストラ・クラウンが、隔獣の巨体を内側から灼き尽くしていく。
これまでアストラ・クラウンを阻んできた装甲が、皮肉なことに、アストラ・クラウンの破壊力を隔獣の体内へと繰り返し反射させる。
遮られることなく貫通していれば、威力の大半はただ通り抜けるだけとなっていただろう。
しかし、隔獣の強固な装甲は、アストラ・クラウンの破壊力を余すことなく、隔獣の内に留める檻と化していた。
ひび割れだらけになってなお強固な装甲により辛うじて外形を保っていた巨大隔獣は、最深部のコアが白金の光に呑まれた瞬間、支えるものを失った砂山のように音もなく崩れ始める。
直後、崩壊していく黒い巨体は、爆発するように立ち昇った金色の光の柱に呑みこまれる。
高く高く立ち昇る光の柱を見上げれば、上空で金色の粒子となって境界層に広がっていく様子が見えた。
勝った。
勝ったはず。
金色の粒子が周囲にゆっくりと降ってくる。
隔獣を呑み込んだ金色の光の柱は揺るぐことなく輝いている。
勝利を言葉にするのが少し怖い。
リンクはさっきからずっと沈黙している。
これまで何度も、アストラ・クラウンの爆光のあとに無傷の姿を見せてきた隔獣だ。
なにか言葉を発することで、またそうなることを恐れるように――
『やったか!?』
そうでもない人がいた?!
『ノワ、わざと?』
『敢えてフラグをたてることで、フラグを倒す高等テクニックだよ。セラ』
唐突に供給される推し成分。なんだこれ。なかよしか。
なんとなく、空気が少し緩む。
油断まではいかないけど、過度な緊張はほぐれた。
ノワ様、狙ってやったのか。すごいな。
周囲を見ると、降り注ぐ金色の粒子が瘴気と反応し、微かにその光を強めて消えていく。
隔獣の崩壊に伴う瘴気の還元反応だけど、私の知っているそれとは異なり、周囲一帯の瘴気までもが還元されていく。
そのせいだろう。周囲の瘴気濃度が肌で感じて分かるほどに下がっていった。
もしかしたら、巨大隔獣が瘴気を供給していたのか、あるいは、瘴気濃度を維持するような何かがあったために、周囲の瘴気も隔獣に連なる要素としてルミナに還元されたのかもしれない。
ルミナについても、瘴気についても、私の知る限りで、わかっていることはそう多くない。
何にしろ、境界層の異常も終息しそうで少し安堵する。
『ふわぁ。アストラ・クラウンを間近で見るの初めてですけど、すごいですね』
『ね! 光がズバッてきて、ドーン! て』
プリズム・ティンカーの、次いでミント・スパークの感心した声がリンクにのる。
『だろう?』
『なぜ、あなたが自慢げなのですか、ノワ』
『え? セラを持ち上げて、ボクの点数稼ぎをしようかと』
『誰に何の点数稼ぎですか』
『そりゃ、見るからに君のファンであるチェネステの』
ちぇね……?
『は?』
ひえ。なんか周囲の温度下がった?!
え? 今の「は?」てセラ様??
『ノワ。常々、思っておりましたがあなたという人は――』
なかよしか??
トップ配信者同士、色々あるのだろうか。
あと、チェネステってもしかして私のことか??
ノワ様、距離感近いな。ぐいぐい来そう。こう、適切な距離感を保っていただけると、こちらも心置きなく推せるのだが。
チェネステ。なんか収まりよくて定着しそう……
いや、それよりもだ。
しばらく揺らめいていた金色の光の柱が、ゆっくりと薄れ、消える。
隔獣の姿なし。
残存瘴気なし。
ヨシ。
短く息を吸って吐く。
『チェネレントラ・ステラです。巨大隔獣の駆除を確認。対応終了のため、臨時指揮権を返上します』
『特災庁の志島だ。こちらでも駆除を確認した。対応感謝する』
『おつかれ! ありがとう、チェネステ』
チェネステで決まりなんですか、ノワ様。
『プリズム・ティンカーです! チェネステさん、ありがとうございました!!』
『ミント・スパークだよー。チェネステさん、配信やるの? 是非見に行くから!』
ノワ様ー?! 一瞬で感染してます!
あと配信の予定はありません!
『見事な指揮でした。チェネレントラ・ステラさん』
セラ様!! 推しが! 推しがほめてくれた!!!
『うんうん! すごかったです! わたしの鈴魔法であんなことできるなんて! どうやって分かったんですか?』
『チェネレントラ・ステラさんは、魔法少女にとても詳しいのですよ。プリズム・ティンカーさんのことも、ミント・スパークさんのことも、事前に知っていたのでしょう?』
『ぇぁ、あ、はい。二人とも単体では華がある魔法というわけではありませんが、使い方次第で化ける余地は大きくて、ミント・スパークさんの雷魔法は、それそのものを攻撃として当てるのではなく――』
『灰星さん』
『はい!』
『……飼いならしてる』
条件反射で!
それが飼いならされているというのか? いや、ファンは推しに飼いならされるものでは?
『チェネレントラ・ステラさん、お疲れさまでした。的確な指示出し、ありがとうございます』
『ぁ、ぃぇ。ヴァイセ・ブリューテさんこそ、ありがとうございます。色々助けてもらいました』
『チェネレントラ・ステラさん、魔法少女にお詳しいのですか?』
『く、詳しいというほどでは、ないです。公認魔法少女百五十二人全員のプロフィールを押さえているくらいで』
『全……員……?』
『あれ、ボクの耳、壊れた?』
『詳しいのですね! でしたらスター・ホワイトさんの件で是非お話を』
墓穴ぅ!!
『みなさんありがとうございました!! お疲れさまでした!! それでは!!』
『あ――』
リンク解除! 宙を蹴ってフル加速!!
ここは戦術的離脱行動が最適!!
なんとなく流されかけた!
私はあちら側ではなく、あくまで、推しを推す側!!
そもそも私が魔法少女なのが解釈違い!!




