第24話 しばらく私のターン
死にそうな羞恥心が一周回って振り切れ、開き直った私の目の前で、隔獣がさらに変化する。
巨体の側面に、小さな板状突起がずらりと生えてくる。
アンキロサウルスかな?
考察は後にして、宙を蹴って踏み込――
っとぉ!? やば、行き過ぎた!
隔獣の側面に張り付くつもりが、行き過ぎて尻尾の先まで身体が流れる。
ルミナ出力絞ってこれか! じゃじゃ馬ボディめ!
トンボを切って勢いを殺して上へ。
それを追いかけるように、さっき生えてきた隔獣側面の突起から、短い黒光弾を間断なく放ち続けてくる。
対空パルスレーザーかよ!
お前はどこの宇宙戦艦だ。瘴気クリーナー求めて宇宙の彼方へ旅立ってしまえ!
隔獣の側面上空で反転、もう一度、今度は強めに宙を蹴って勢いをつけ隔獣の胴目掛けて飛び蹴り。
当たる瞬間、足先にルミナを集中すれば、隔獣の巨体がややくの字になってから、再び横倒しになる。
この至近距離で見ても、体表に通常の隔獣のようなエネルギーラインが見えないから、体表に見えるのは装甲のようなものか。外から繰り返し叩いても、ダメージの通りは良くなさそう。
断続的に放たれる黒光弾が鬱陶しい。ルミナで強化された身体なら、当たったところで軽く小突かれる程度のダメージしかないが、かといって、延々と小突き回されればストレスは溜まる。
ほんの少しだけ、ルミナを乗せて宙を蹴り、倒れた隔獣に向かって飛び込んで板状突起の一つを蹴り潰す。そのまま一回転するように振った斧槍で、さらに六本の突起を斬り飛ばす。
うわ、回り過ぎたっ! 身体が流れる……!
思ったより手応えなく斬れたせいで身体が泳ぎかける。
初変身で初見の隔獣の相手、ちょいちょい私にも隙が出来る。
圧倒できてる間に早めに修正しないとマズい。
隔獣の体表でバランスを取り直す私の目の前で、転倒状態の隔獣が変形し始める。
空を蹴る脚がスルスル引っ込んでいき、地を踏める位置に生えてくる。
近くで見るとますますキモい。
キモいけど、今は気にしない!
斧槍を両手で握って力一杯、隔獣の装甲に叩きつける。
金属同士をぶつけたような衝撃音。
直後、隔獣の装甲表面に、ルミナの光が拡散しながら流れていく。
なるほど。
装甲表面に沿ってルミナを細かく分けるようにして流すことで、装甲内部に衝撃を通さない構造になってるのか。
どうりで、セラ様のアストラ・クラウンが直撃してもピンピンしてる訳だ。
装甲は……亀裂あり。だがジワジワ修復。
厄介!
再び生えてきた突起を斧槍で一掃……
っとお?!
思い切りのけぞった私の顔スレスレを、隔獣の体表から不意打ちで生えてきた人の身体ほどあるトゲが掠めていく。
と思ったら、スッ、と隔獣の中に引き込まれるトゲ。
嫌な予感がして全力で飛び退いたところに、今度は三方から交差するようにトゲが伸びてくる。
あっぶなー。
トゲが伸びきったところを斧槍で刈り取る。
黒光の連弾を蹴り弾いて斧槍を装甲に叩き込み、伸びてきたトゲを身体を捻って交わし、斧槍の反動を利用して回転し、柄で黒光弾を逸らしながら、トゲを刈り取る。
ついでに突起も数本巻き込み、飛んでくる黒光弾を減らす。
隔獣の反応のテンポが上がってきて、だんだんリズムゲームみたいになってきたな。
こっちが小手調べなら、あっちも小手調べか。やっぱり一筋縄ではいかなさそう。
変身したから渡り合えているとはいえ、慢心も油断もできない。
ミスを出さないように、しかし、深追いはしないように。うん、リズムゲームだな。
そうして数度装甲にダメージを入れると、不意に手応えが変わり、斧槍が強く弾かれる。
亀裂の入った装甲の下に、もう一枚装甲が出来ている。
装甲増やせるのかよー。
危険度上方修正だ。
けど……装甲が増えたところは、突起とトゲは出にくいのか。
こちらにダメージを与えられない攻撃手段を切り捨て、装甲を追加して受けるダメージを減らした?
持久戦に持ち込まれると、隔獣の臨界というタイムリミットがあるこちらが不利だ。厄介な。
学習が速いヤツ!
そこそこ拡げた亀裂が逆再生のように塞がっていくのを見つつ、宙を蹴って隔獣と距離をとる。
いつの間にか長く伸びた尻尾がしなりながら襲ってくるが、これは無理に受けず、さらに跳んでかわす。
大人2人でも抱えきれなそうな太さの尻尾に叩かれたら、痛いじゃ済まなそう。
いや、魔法少女ボディなら、痛いで済むのか?
試す気にはならないが、気にはなる。
ルミナ残量はまだ十分。
このまま続ければ、かなり削っていけるだろう。
転倒状態から、再度、起立状態に変化した隔獣が身体をやや傾け、背板をこちらに向けて放ってきた強めの黒光を斧槍で受け流して弾く。
削ってはいけるが、消耗戦は望ましくない。ギリギリの戦いは避けるべきだ。
ずっと私のターンは流石に無理なので、ここまでの情報から導ける勝ち筋を考える。
攻防にエネルギーを消費したか、隔獣から漏れ出ていた瘴気が薄れている。
臨界に近づくほど漏れる瘴気が増えるから、薄れてるなら臨界は少し遠のいた。
もう少し消耗させてやれば、セラ様が間に合うだろう。
間に合うよね?
お茶飲みながらモニター観戦して、あいつに任せておけばいいか、みたいな感じにはなってないよね?
なってたら、泣くぞ!
想像したら本気で泣けてきそうなので、頭から振り払い、隔獣の相手を続けることに。
一手ずつ、探りを入れるように手を替え品を替え、隔獣に攻撃を仕掛けていく。
要は、いつもやっていたエネルギーラインの観察と同じ。
どこにどんな攻撃をしたら、どう反応するか。
同じことを繰り返した場合、どれくらいで対応してくるか。
攻撃パターンは?
その変化は?
装甲増加のタイミングは?
増加した装甲はどこまで増える?
観察し、考え、試し、結果を確認してまた観察し、玉ねぎを一枚ずつ剥いていくように、謎だらけの巨大隔獣の謎を解いていく。
私は自分ができることを過信しない。
初見のこの隔獣をひとりで倒しきれるとは思わない。
出来ることを積み重ねていく。
初めて境界層に入った時もそうした。
初めて隔獣を倒すに至るまでは、ひたすら観察と考察に専念した。
そうして、ひとりで隔獣を駆除する方法を確立した。
魔法少女に変身しても同じ。
二年弱の境界層での活動で、ルミナをそれなりに上手に扱える、という自負はある。
けれど、ルミナ出力自体が飛びぬけて高いわけじゃない。
境界層で感知したことのある魔法少女のルミナ圧と比較しても、平均やや下くらいか。
繊細なルミナ制御に慣れ過ぎたせいで、魔法少女としてのルミナ出力にまだ慣れないが、それでも。
私に物語の主人公になるような、ものすごい力はない。
アストラ・クラウンから感じる、圧倒的なルミナ出力は逆立ちしたって出せないと分かる。
だから、セラ様が来るまで、状況を整える。
推しとしても。
アストラ・クラウンが通じませんでした、で終わらせる気はない。
そんなことには、セラ様最古参ファンを自負する私がさせない。
私情? 実益が乗ってるからセーフ!!
だから。
早く来てください、セラ様ー!




