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前世オタクの私が魔法少女は解釈違い!  作者: 天氷岐 久音
だからコソコソがんばります

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第21話 逡巡

見上げる空に、黒と白の線が交差し、絡み合い、互いに捻じ曲げ合う。


なんだこれ。なんだこれ。なんだこれ!


すごい! セラ様すごい!

巨大隔獣の黒い光線に対して、即座にルミナ干渉を強めたアストラ・クラウンを速射モードで連発して迎撃しつつ、隔獣本体への攻撃にもしている。

とっさの判断と魔法の選択がめちゃくちゃレベル高い!!


さっき十分なダメージを与えられなかったのはおそらく距離減衰のせいだ。

セラ様の初撃は、ヴァイセ・ブリューテよりさらに遠方からだった。正確な距離測定が難しかったことを考えると、隔獣の想定外の巨体に距離感を測り損ねたのは不思議でもなんでもない。


巨大隔獣の攻撃が変化した?

攻撃を放つ背板が特定の背板に偏ってきている。


セラ様の攻撃が効いてる? いや、そこまでダメージが通ってる様子もない。

どういうことだ?

攻撃をしていない背板も、わずかに動いているから、機能を失ってるわけでもない。

となると、何かを準備…… いけない!! セラ様!!


ひく、と喉が叫びを放ちそうになる。


隔獣は微かに動かしていた複数の背板から同時に黒光を放つ。

それは途中でまとまると、一際太い黒光となって突き進むが、それに応えるように同じかそれよりも太い白光が迎え撃つ。


どちらもルミナ密度が高くて干渉圧が強いからか、途中で大きくねじ曲がって、それぞれが明後日の方向に飛んでいく。


うひぃ。セラ様すごい、すご過ぎ!

攻撃の様子がわずかに変化したことから大技が来るのを読んだ?!


ふひぇー。

セラ様すごい。

アストラ・クラウンすごい。

星天杖スターレガリアすごい。便利棒呼ばわりしてすみませんでした!!


いやでも、アストラ・クラウンをかなり繊細に制御してるセラ様がそこまで判断を?


ふと、巨大隔獣の周囲にチラチラ光るものが見えた。ほんの一瞬。


そうか! ヴァイセ・ブリューテが観測してるのか!

すごい! すごい魔法少女だ! キルシュ・ツァウバーみたいだ!

あ。

ヴァイセ・ブリューテがキルシュ・ツァウバー推しなの、全部なんだ。

わー。わー! すごい!


いや、いけない。いけない。

少し冷静になろう。いや、冷静ではある。

間違っても余波で吹き飛ばされないように、周囲を慎重に確認しながら、距離を取っていっているから。


呆けた顔で脳内実況にかまけていたわけではない。

ないからね!


それは置いておいて。

戦況は拮抗している。


見た感じ、巨大隔獣は大きなダメージを受けていない。

あれは単に巨大なだけじゃない。何かある。


ただ大きいだけなら、魔法少女の攻撃で僅かなり削れていく。

まして威力を絞ってるとはいえアストラ・クラウンだ。

一発で隔獣一体分の瘴気を還元するだけのルミナ量がある。

十発も当たれば、あの巨体とはいえ二割弱は削れるはず。


けれど、普通の隔獣のような攻撃が当たった箇所が部分的にほつれる、という様子が全くない。

よく見ていると、命中したアストラ・クラウンの白光が、巨大隔獣の表面に沿って流れ、散っている。

なんとなく、毛細管現象みたいだな、と思った。水面に垂らしたタオルが水を吸い上げていく仕組みだ。

瘴気が凝縮して発生する隔獣にそんな精緻微細な構造があるとも思えないけれど、この違和感は覚えておいた方がいい気がする。


セラ様の砲撃は途切れることなく続いてる。

この状況が続くと、ルミナ残量を考えなければならないセラ様が不利になりかねない。


一瞬、ほんの一瞬。

私が変身して加勢すれば、と考えた。


バカすぎる。

初めて変身した魔法少女が飛び込んで? なにをする?

注意を引くことはできるかもしれない。

けれど、全く知らない魔法少女がいきなり現れて勝手なことを始めれば、セラ様やヴァイセ・ブリューテを混乱させるだけだ。

下手すれば、致命的なことが起きかねない。

そんなことは断じて許されない。


頭の片隅では、できることはないのだから撤退しろ、と言ってる私がいる。

一方で、セラ様で拮抗しているなら、予断は許されない状況だから安易に離脱すべきではない、と言っている私もいる。


優柔不断と自分でもそう思う。

推しがそこに居るから離れがたい、というオタク的心情もある。

今日、今に限っては私の判断力が仕事をしていない。


状況に変化が起きたのは、私が隔獣との距離を推定八百メートルまで取ったところだった。

私の感知範囲にルミナ反応が二つ増える。


魔法少女。複数! 増援!

一瞬テンションが上がりかけるが、すぐに、これはマズい、と反射的に考えてしまう。


増えた魔法少女の反応は、どちらもそれぞれ、セラ様とは別々の方角から接近してきてるからだ。

セラ様とヴァイセ・ブリューテが私から見て右手。

増援一人目は正面奥。増援二人目は私の左手斜め後ろ。

見事にばらけている。

巨大隔獣は、ヴァイセ・ブリューテと私を同時に攻撃してみせた。


増援の二人がこのまま戦域に入ったら、いい的になりかねない。

どうする? どうしたらいい? なにができる?


狙撃銃で気を引く?

無理! 無駄!

ヴァイセ・ブリューテの援護をした時とは、状況が何もかも違う。


私の目がぐるぐるしかけたところで、セラ様の砲撃パターンが変わった。

一撃の威力を下げ、攻撃頻度を上げた砲撃が、隔獣の背中に満遍なく命中し始める。


隔獣からの攻撃が増援の魔法少女に向かわないよう、牽制重視に切り替えた?

見る限り、隔獣の攻撃はセラ様の方角に集中している。


ただ、攻撃頻度を増やすために威力を下げた分、干渉圧も下がっているから、隔獣の黒光を迎撃できなくなっている。

だけれど、代わりにヴァイセ・ブリューテがカバーに入っていた。

セラ様がいる辺りを中心に、ルミナ感知にノイズのように無数のルミナ反応がちらつく。

観測、照準補助、攪乱防御、すごい。

セラ様のパートナーとして考えうる最高なのでは。


そう思うと同時に。


ずるい。

うらやましい。


そんな思いが心をよぎる。


何を考えてるんだ私は!

ヴァイセ・ブリューテは魔法少女だ。それも、するべきことをしている魔法少女だ。

対して私は何だ? 魔法少女に覚醒こそしてるものの、変身もせず、コソコソと魔法少女もどきの活動を非公認でやってるだけだ。

うらやむ? ちゃんとした魔法少女に失礼きわまりない。


増援の魔法少女二人から、隔獣に攻撃が飛ぶ。

次々とカラフルな爆発が隔獣を覆うが……


アストラ・クラウンですら流す相手だ。

爆発こそ派手だけど、ダメージを与えてる様子はない。


新たな攻撃に反応してか、背板が何枚か増援の魔法少女に向きかけるが、セラ様の砲撃圧力が一瞬上がってそれを許さない。


これで増援の二人の安全性は高くなった。

なったけど、攻撃の要であるセラ様が牽制役になってしまってはジリ貧だ。打開策がない。


隔獣の注意を引く前衛が一人、前衛を援護する遠距離が二人、遊撃が一人。それにセラ様。

セラ様以外で隔獣を抑え、セラ様が主火力として隔獣を削る。

それなら多分、あの隔獣をどうにかできる気がする。


感知範囲内でそれまで接近を続けていた魔法少女二人の進行方向が変わった。セラ様のいる方角に向かう。

それに合わせるように、セラ様とヴァイセ・ブリューテの反応も隔獣から距離を取り始める。


セラ様の攻撃が更に手数重視になり、ヴァイセ・ブリューテのジャミング範囲が広がっていく。


増援の二人をカバーしたのは分かる。

その後はどうなる? 撤退? 再編?


セラ様がいる方角の上空で、光る点が矢印を何度か描いて消えた。

同時に、魔法少女四人分のルミナ反応が遠ざかっていく。

やはり撤退と再編だろう。

矢印は撤退の合図かな?


ん? 誰に?

順当に考えて、撤退の合図を受け取るべき増援の魔法少女はもう合流してる。

え? 私に??


どうする?

どうもこうもなく、ここは撤退すべき。すべきなのだけれど。


巨大隔獣がいるあたりの瘴気密度がかなり高まっている。

臨界状態に近づいてる。

セラ様たちの再出撃は、多分、間に合わない。


隔獣が臨界状態に達してしまえば、現実世界にこんにちは、だ。


あれが現実世界に現れたらどうなる?

たった一度の攻撃で、何棟もの廃ビルがまとめて崩れ沈んだ光景が脳裏をちらつく。


あれが。

現実に。

私が住む街で起きる。


もしたった一発でも避難所の方向に逸れたら?


ゾッと血の気が引く。


さっきまでセラ様でいっぱいだった思考に、親友の、家族の姿が次々に浮かんでくる。

ずるずると決断を先延ばしにして、残り続けた理由に思い当たる。


昨日深夜に入った、境界層で決めたからだ。

なにかあったら、なんとかする、と。


美宙と杏奈の手を握って決意したからだ。

私は、私にできることをする、と。


あの巨大隔獣は、じきに臨界に達し現実世界に現れる。

そうなれば、あの黒光が街を、親友と家族がいる街を薙ぎ払う。


ふざけるな。

そんなこと、許せるものか!


決めた。

私は撤退しない。

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