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前世オタクの私が魔法少女は解釈違い!  作者: 天氷岐 久音
だからコソコソがんばります

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第11話 セラ様から見たスター・ホワイト

配信画面の中の推し、セラ様はいつもと変わらない包み込むような柔らかさと、少しの気怠さをまとっている。

いつも通りじゃないのは、私の心臓。

じっとりと汗がにじむ。

配信終わったらもう一度シャワー浴びなきゃ。


推しの配信中にあり得ぬ、逃避じみた思考がよぎる。


『前提の認識合わせからねー。世間でちょっと話題になってる、隔獣駆除している未確認・未公認の魔法少女、仮称スター・ホワイト、ね』


―― 雑みが消えた

―― この切り替えがまたセラ様

―― 重要情報 魔法少女扱い

―― 断言してる

―― 謎現象じゃないのか

―― 謎の魔法少女は存在する


『それでね、スター・ホワイトに会ったことはないし、それらしき存在が感知範囲に入ったこともないんだ』


―― セラ様が感知できないて

―― でも戦域近かったって話あるよね


境界層内で直接会ってないのは確かだ。

ただ、境界層内で拾った魔法少女の反応、個人識別はできてなかったから、そのどれかがセラ様だったなら……

それは会ったうちに入るのだろうか?

いや、遠くをすれ違っただけのことを、会ったとは言わない。

ダメだ、集中できてない。

よくない。


『ただね、私が入った区域の隔獣が、私の目の前で消失したことは確かにあるのよ』


ひゅ。


『小さな白い光が、コアだけ撃ち抜いておしまいー。正直、嫉妬するレベルの正確さだねー』


―― ファー

―― セラ様公認キター

―― え、そんなことできるの?

―― スター・ホワイト実在派勝利じゃん

―― キルシェ先生の言ってたやつじゃん

―― 理論上は可能

―― デビュー秒読み?

―― トップ勢に理不尽言われるセラ様が嫉妬??

―― ありえんて

―― セラ様の発言じゃなければ実在疑うレベル


怒涛のように流れるコメント欄は、もはやひとつひとつの識別が不能なレベルになっている。

私の全身がセラ様の発言の理解を拒んでいる。


『けど、こっちはそれが常に正確かどうかわからないんだなー』


―― それはそう

―― 味方至近の標的を狙撃は確かに

―― お、流れ変わった?


『わたしの感知範囲外から狙撃する技術は確かにすごいよー。だからね。ひとりで戦わないで欲しいな』


―― 孤高のスナイパーは後ろに立っちゃいけない人だけでいい

―― セラ様の優しさがにじむ

―― ひとりはほんと良くない


『これ、けっこうねー、ギリギリの発言なんだけどー』


―― お?

―― 傾聴

―― 珍しい

―― セラ様が予防線張った?!


『未公認で、ひとりで境界層に入ってる子を、面白おかしく持ち上げたり、賞賛したり、持てはやしたりするの、嫌いですー。まだ名指しまではしないけどー。本当に腹立たしい』


―― ひぇ

―― 急にガチトーン

―― マム!イエス!マム!

―― ルミナ圧やば。背筋伸びた

―― うお、さっそくトレンド入ってる

―― これは燃えるやつ


『んでー。本人見てないと思うけどー。一人でがんばらないで欲しい。魔法少女を支援する大人を頼って欲しい。特災庁アプリから簡単に申告できるから。申告したからって、即座に活動禁止です、みたいな話にはならないから。何かあっても助けられるところに居てほしい』


息が詰まる。

どう息していいかわからない。

どうしたらいいかわからない。

どう考えたらいいかもわからない。


セラ様を心配させた。

推しを困らせてる。


あってはならない事態だ。


名乗り出るの?

私がスター・ホワイトです、と?


私がやりたいことは何?


流れていくコメントも、全然目に入らない。

いつもはびっしりと書き込むノートアプリはほとんど余白。


キーボードに軽く乗せた指が、ピクリとも動かない。

スクショ取得用のショートカットはどこだっけ。


セラ様の顔を見ることもできない。


喉がカラカラになってひりつく。


推しの配信を見られない。

セラ様の声が遠い。

画面もぼやけて見える。


そんなこと、今まで一度もなかった。


どのくらいそうしていたのか。


気が付くと配信は終わっていた。


あれだけ動かなかった指が、ピク、と震える。


それにつられるようにスマホが震える。


着信したメッセージが通知欄に現れる。


『見た? 見た? 見てたよね。セラ様がスター・ホワイトに呼びかけたよ!』


見てた。見てました、杏奈。

杏奈、私はどうしたらいいの?


推しを困らせてしまった私はどうすればいいの?


セラ様の配信を、最後まできちんと見られなかった。

そのことが、後悔とともに胸の奥に落ちてくる。


『杏奈、どうしよう』


『どうもこうもなくない? すごいよね。ひとりでずっと戦って守って! セラ様に認められて!』


杏奈からのメッセージに返信したのはほとんど無意識だった。


『すごい?』


『すごいじゃん! くー、推せる! 断然推せる! スター・ホワイト』


推さないでいい。


だって、推されても、その、困る。

杏奈だって、その魂の叫び、推し対象が聞いてるって知ったら困らない?

困らないか、杏奈なら。


くすり、と笑いが漏れた。


杏奈なら、そうだね、まっすぐ喜ぶね。


『スター・ホワイト、応えると思う?』


『思わない。たぶん、セラ様も思わないんじゃないかな。セラ様の反応予想はあーちゃんのほうが正確だし、あーちゃんどう思う?』


『セラ様は……名乗り出てくれたらラッキー、くらいの感じだった。むしろ、まとめサイトに怒ってた』


『だよね、あーちゃんもそう思うよね。あのルミナ圧やばかったなー』


『スター・ホワイトが名乗り出ない理由わかるの?』


『セラ様に言われて名乗り出るくらいなら、とっくに公認になってるでしょ。こんな話題になるほどの数を黙々と討伐し続けてる魔法少女が、セラ様に呼ばれてきました、とか言って出てくるの、解釈が違う』


『えー、そこまで言う』


『なんか今日のあーちゃん、リアクション変だけど眠い? ごめん、また明日はなそう! おやすみ!』


あ、いや、そうじゃなくて、そうだけどそうじゃなくて。

杏奈、なんかごめん。


解釈が違う。

そう、そうだよ!


推しに言われて出ていく。それはつまり、名乗り出る判断を推しの責任にするっていうことだ。

そっちの方が、推しを心配させるより遥かに罪深い。ギルティ。


名乗り出ない。

ちゃんと自分で考えてどうするか決めるまでは。

けど、今夜はそれも考えない。


これまで通りコソコソ活動を続けるかどうかも、狙撃というスタイルを続けるかどうかも、考えない。


たぶん、考えてもぐるぐる同じところを回るだけだ。

それか、斜め上の変なことを考える。


美宙の呆れ顔が思い浮かぶ。


はい。寝ます。今日は寝ます。

明日のことは、明日考えます。


パソコンをシャットダウンしてベッドに入る。


……セラ様の配信を最後まで見られなかったことがくやしい。

くやしいと思えるくらいには、持ちなおせた。


ありがとう、杏奈。

明日、ちゃんと、ありがとうを言おう……

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