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前世オタクの私が魔法少女は解釈違い!  作者: 天氷岐 久音
だからコソコソがんばります

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10/17

第10話 セラ様は、今日もセラ様

予定通りに宿題を終わらせ、お風呂を済ませ、髪を乾かしながら肌の手入れをする。

明日の登校準備まで終えて、スマホをワイヤレス充電スタンドに置く。


パソコンのブラウザを立ち上げると、ブックマークからセラ様の配信チャンネルを開く。

紺色からブルーにグラデーションする星座模様が散らばる背景に、セラ様のミニキャラのコミカルなアニメーションが流れる配信待機画面が表示される。

金色のエレガントな装飾が全体を引き締める、セラ様っぽさが見事に表現された待機画面だ。

この待機画面は三代目で、親しみやすさと、エレガントさのバランスが絶妙な傑作だ。


下校時は、アーカイブ配信の見直しでセラ様を摂取するつもりだったが、帰宅後にスマホを開いたら、幸運なことにライブの雑談配信が予告されていた。

ので、配信開始に間に合うよう、予定を少しずつ前倒しに終わらせ、こうして正座待機をしている次第。


見ているだけでも、エネルギーが回復する待機画面。

ルミナの巡りもいいので、実際にいい効果があるのかもしれない。

その待機画面を表示しているブラウザの横には、情報検索用の別ブラウザと、ノートアプリ。

セラ様の雑談配信には、魔法少女でしか得られない貴重な現場の空気感、情報が出ることがしばしばあるので、メモと考察のためにも、検索用ブラウザとノートは必須。

昔は、そうした考察メモを清書してネットに置いていたこともある。

タスクトレイには、ワンボタンでスクショの取得・保存・分類タグ付けを行うエージェントアプリが起動済。

推しの表情は、何枚あっても、どんな表情であっても良い。

コメント下書き用のメモ帳アプリ。これもエージェントアプリが連動していて、誤字チェックとコメント投稿がワンボタンだ。

古参ファンとして、出しゃばり過ぎない範囲での応援コメント投稿はサボれない。

コメント用アカウント名は灰星。安直だがアカウント作成当時は小学生だったのだ。今はこの配信専用のアカウントにしてるので気にしない。

間違って別アカウントで入ってないかも確認済み。


小さく深呼吸。

推しは良い。万病に効くとかそんな荒唐無稽なことは言わないが、生活に欠かせないインフラなのは間違いない。

電気、水道、ガス、セラ様。


机に置いたマグカップから麦茶をひと口。

水分補給、ヨシ。

体調、ヨシ。

メンタル、ヨシ。


まだ待機画面状態だが、コメント欄の流れは既に速い。


―― セラ様待機

―― 灰星:今日も連続出動お疲れさまです

―― 待機画面のBGM好き

―― 三件対応って聞いたけどマ?

―― セラ様の三件は実質平常運転

―― 過酷

―― 警報対応出動三件、その他駆除出動四件

―― ブラックすぎない?

―― 灰星:休めるときに休んでほしい

―― トレンド #セラ様寝てる? は伝説なんよ

―― 最近は睡眠時間確保できてるらしいね

―― あーね


セラ様はすごい。

日常の平穏はセラ様でもっている。そう言っても、決して過言ではないほどだ。

けど、休めるときに休んでほしいのも、心からの本音だ。


わたわた動いていた配信待機画面のミニキャラが一礼し、幕が下りる。

BGMの音量が絞られ、ジングルが流れると、幕が開いてセラ様のお顔が今日も眩しい。


『はいはーい。今日避難あった人、避難お疲れさま。私もお疲れさま。はい。拍手ー』


コメント欄に怒涛の拍手が流れる。


『拍手止め。ということで、セレスティアル・スターの雑談配信開始ね。メッセージボックスの方に送ってくれたお便りもちょいちょい読んでいこうか』


耳に沁み渡る、心地よい声。聞きやすい活舌の良さ。

ふわりと広がるロングの金髪、黒を基調に青の差し色が入ったバトルドレス、スラリとした印象の中に優美さと柔らかさが調和する絶妙なシルエット、全てが完璧に調和した美と言うべきか。

連戦の気怠さは抜けきらずとも、背筋はピンと伸び、アンティークっぽい椅子に浅く腰掛ける姿はエレガントの極み。


魔法少女と聞いて十人中十人が思い浮かべる姿(私調べ)で降臨なされたセラ様。

私の中で魔法少女といったらセラ様。


今日も推しがうるわしい。


コメント欄の流れも加速する。


―― お疲れさまです!

―― 今日も顔がいい

―― 今日も声がいい

―― お疲れさまです!

―― 今日も雑

―― 開幕拍手要求たすかる

―― セラ様連勤しすぎです。休んで。


『休めるなら休んでますー、先週は休みましたー。アストラ・クラウン撃つだけの簡単な仕事じゃないんですー』


―― 簡単そうに見えるんだよなー

―― 星天杖構えてドーン

―― あいてはしぬ

―― 遠距離からアストラ・クラウン連発するだけの簡単な仕事だと思ってました!

―― ルミナあほほど消費するって結構前に言ってたね

―― 灰星:アストラ・クラウンほどの大技を連射できるのは、ルミナ配分管理がずば抜けてるセラ様だから

―― ルミナ残量ほんと重要だよ

―― 大技持ちの子、デビューしても続かないんだよね


『そうなんですー、ルミナ残量ってものがあってねー。あと撃って倒してハイおしまい、じゃないからねー』


セラ様とコメントの掛け合いで進む、雑談配信のいつもの形式。

奇をてらわない、距離感を大事にする、つかみは柔らかく。

対隔獣の実績でトップながら、配信もうまい。

容姿が良い、顔が良い、声が良い。


ちょっと気の抜けたセラ様が、魔法少女セレスティアル・スターの顔になる。


『万天に輝く天の星、セレスティアル・スターの配信へようこそ。ここは、みんなが明日への輝きを見つける場所。約束はひとつ。魔法少女という星のもとへ、直接行こうとしないこと。遠くから見上げて、明日も変わらず生きていくこと』


んくぅうー! 効く。


『ま、つまり、避難区域では避難しろ。セラ様には会えません』


―― イエス、マム! セラ様

―― 魔法少女は配信で推すもの

―― 現場突撃ダメ絶対

―― たまに避難区域でうろうろして、拘留されるやつ出るよな

―― 迷惑系は許されない


口煩いくらいに毎回これを言うセラ様、尊敬します。

魔法少女の鑑!

私だったら、日和って、こんなに強く注意を繰り返せないと思う。

セラ様の言ってる通り、魔法少女は魔法撃っておしまいとはいかない。

その責任から逃れてる私はやっぱり魔法少女には相応しくない。


『じゃ、いつも通りメッセージボックスに来てるお手紙ね』


最初は配信の最後のおまけみたいに始まったこのコーナーは、今や雑談配信のメインコンテンツだ。

事務所が設置しているオンラインのメッセージボックスに、ファンネームだけで気軽にファンレターを送れる仕組みがある。

そこで公開を承認してファンレターを送り運良く採用されると、セラ様が配信で直接コメントを返してくれるという神コーナー。


私はまだ、メッセージボックスの送信ボタンを押せたことが無い。

セラ様、ファンレター全部読むっていうし、ファンとして認知されたいわけじゃないし、下書きはたくさんあるからいつか厳選した一通を送ろうとは思ってるけど、今じゃない。


『最初はこれね』


ティロン、とメール着信音みたいな効果音とともに、画面の半分にテキストが表示される。

ファンレターの文面は読みやすいフォントがチョイスされてるのもさすがです。


『「セラ様、いつも応援しております」はいどうも「今回気になったことがありメッセージ送りました。セラ様の星天杖スター・レガリア、何か愛称とかありますか?」確かに、毎回全部言ってるわけじゃないからね、だいたいは「天杖」て略すことが多いけど、キルシュ先輩は「セラの便利棒」って言ってたね。もうね、先輩までアストラ・クラウン撃っておけばいいんじゃね? その便利棒で、とかいうからね。そんな便利なものじゃありませんー。はい次』


―― 便利棒

―― しょうげきのじじつ

―― スターレガリアさんに謝って

―― 星天杖、便利棒だった

―― もう便利棒にしか見えない


衝撃の事実。

星天杖スター・レガリア。親しい身内は便利棒と呼ぶ。

セラ様メモがまた一つ増えた。


『「セラ様いつもお疲れさまです」どういたしましてー「セラ様、他の先輩魔法少女のことは、名前+さんで呼びますが」そうだねー。無意識レベルだけどー。「キルシェ先生のことはキルシュ先輩と呼んでます。なぜキルシェ先生のことだけ先輩と呼んでるのですか?」あれ、これ言ったことなかったっけ?』


―― 灰星:ありません!新情報です!

―― 確かに聞いたことないな

―― 気になる

―― セラ様有識者が初耳いうなら、初やな


有識者さんも初めてなのか。ライブ配信の醍醐味を味わえる喜び! くう!


『事務所に入ったときに面倒みてくれた先輩だから、深い理由なくてごめんねー。魔法少女としてのあれこれを教えてもらったけど、一緒の現場に立ったことは無いんだよね。先輩、私が入ったときはすごい忙しそうだったし、そのあと割とすぐに引退状態になってしまって』


なるほどなるほど。通称のキルシェ先生じゃなく、魔法少女名のキルシュ・ツァウバーからくるキルシュ先輩呼び。同じ事務所所属の魔法少女としての先輩・後輩。

尊い。


―― へー

―― 人に歴史ありやな

―― キルシェ先生の配信とか見るんですか?

―― セラ様、キルシェ先生の配信見ました?

―― キルシェ先生、今は配信専だものな


『君ら先輩のこと好きだね。面倒見がいいから、懐くの分かるけど。言ってることは確かに、てなることばかりだし』


―― ランキングの話はためになった

―― ランキングサイト、あんま好きじゃなかったけど見方変わったし

―― 先生マジ先生


『私に言ってどうすんのよ。先輩に言ってあげなよ。ランキングには振り回されるな。以上おしまい。この話はここまで』


―― 早い

―― 終わらせ方が雑

―― 魔法少女側からは触れにくい話題だからね

―― スター・ホワイトの評価が高かったのも意外だった

―― セラ様らしい

―― 雑に終わった

―― 話題外の魔法少女出すなー

―― 初見は配信注意事項読め定期


一瞬で流れていったコメントに指が止まった。

そのせいで。

画面の中のセラ様の瞳が一瞬だけ考えるようにわずかに動いたことに気付けた。


表情が崩れたわけではない。

声が震えたわけでもない。

ただ、視線が一瞬だけそのコメントを読んだような気がしたのだ。


背中に嫌な汗が流れる。


『スター・ホワイト、ね』


気だるげだったセラ様が、画面の向こうで少しだけ姿勢を正した。


私の指は凍り付いたように動かない。

やめて。

どうして。

なんでその名前が、セラ様の声で聞こえるの。

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