第59話:玄関前の大収穫祭、過剰すぎる「お礼の品」
チチッ、チチチッ――ピピィ♪
透き通るような小鳥たちの囀りが、静まり返った寝室の薄暗がりを、清涼な鈴の音のようにくすぐっていた。
深い眠りの底から意識がゆっくりと浮上してきたマノン・デュランは、まぶたの裏に朝の光の気配を感じながら、ふう、と小さく幸せな吐息を漏らした。
顔を覆う綿シーツからは、昨日天日干しにしたばかりの、お日様と乾いた冬風の香ばしい匂いがふんわりと立ち上っている。
そして何より、掛け布団の上と脇腹に、ずっしりとした、けれど極上の幸福を運んでくる「重み」があった。
右脇腹には、中型犬ほどもある白猫のタマが、丸太のように太い体をぴったりと寄り添わせ、規則正しい寝息を立てていた。その純白の毛並みは、昨日ぬるま湯タオルで丹念に拭き清められ、スリッカーブラシで梳き上げられたおかげで、生まれたての羊毛のようにふわふわで柔らかい。マノンの体温を吸い込み、まるで生きている湯たんぽのようにじんわりと温かい熱を放っている。
左足のふくらはぎのあたりには、黒猫のクロが、前足をきっちりと胸元にしまい込んだ香箱座りの体勢で、どっしりと陣取っていた。マノンが寝返りを打たないよう重石の役目を果たしているかのような、程よい圧迫感。
そして枕のすぐ横、シーツの窪みには、黄色い小鳥のピピが、ふっくらと羽毛を丸めて眠っていた。時折、寝言のように「ピ……」と小さく喉を鳴らし、マノンの頬に柔らかな胸毛を擦り寄せてくる。
「……んん……おはよう、みんな」
マノンは掛け布団の隙間からそっと手を伸ばし、タマの額のあたりを指の腹で優しく撫でた。
タマは目を閉じたまま、喉の奥から「グルルルル……」と心地よさそうな地鳴りのような喉鳴らしを響かせる。クロも耳の先をピクリと動かし、甘えるように足元に体重を預けてきた。
昨日までの、あの不気味な悪天候と、愛する家族たちの体調不良が嘘のようであった。
大鍋いっぱいに炊き上げた特製おじやの生姜と出汁の力が効いたのか、三匹ともすっかり熱が下がり、泥だらけになって裏山を駆け回るほどに元気を回復してくれたのだ。
健康で、暖かくて、お腹がいっぱいで、大好きなモフモフたちに囲まれて迎える朝。
これ以上の贅沢が、この世のどこにあるだろうか。
「よし……今日も一日、頑張りましょうね」
マノンは名残惜しそうに温かい寝床から抜け出し、猫たちを起こさないよう静かに足先を床に下ろした。
冷えた板張りの床の感触が、素足の裏を心地よく引き締める。
動きやすい生成りの木綿シャツに袖を通し、藍染めの厚手のスカートを履き、腰には清潔な白い麻のエプロンをキュッとしめ直す。
土間へと降り、まずは寝室と居間を閉ざしていた重厚な雨戸の閂を外した。
ガタ、ゴトトトト……。
木製の引き戸が戸袋へと滑り込み、朝の光が一気に室内の土間へと雪崩れ込んでくる。
マノンは大きく息を吸い込み、冷たい朝の空気を胸いっぱいに満たしながら、庭先へと視線を向けた。
――そして。
「………………え?」
マノンの動きが、完全に停止した。
深呼吸の途中で肺腑に吸い込まれかけた空気が、喉仏の奥でヒュッと詰まる。
丸い栗色の瞳が、これ以上ないほど見開かれ、パチクリ、パチクリと激しく瞬きを繰り返した。
「え……? あ……れ……?」
マノンは思わず自分の目をこすった。
寝ぼけているのか? それとも、まだ夢の続きを見ているのだろうか?
もう一度、しっかりと目を見開いて庭先を眺める。
しかし――目の前に広がる光景は、一ミリたりとも変化しなかった。
そこは、見慣れた素朴な古民家の庭先ではなかった。
まるで、王都の大規模な中央市場の倉庫街か、あるいはどこかの大国境を越えてきた巨大商隊の物資集積所が、夜の間にそのまま敷地内へテレポートしてきたかのような――あり得ない、圧倒的なまでの「大収穫祭」の様相を呈していたのである。
柊の生垣の門扉から、ウッドデッキの正面に至るまでの敷石のアプローチ。
その両脇、さらには庭の飛び石の隙間や、山柿の木の根元に至るまでの空間が、寸分の隙もなく、積み上げられた物資の山によって完全に埋め尽くされていたのだ。
「な、なに……これ……!?」
マノンの口から、掠れた悲鳴のような呟きが漏れ出た。
まず目に飛び込んできたのは、高く聳え立つように整然と積み上げられた、麻袋のピラミッドであった。
大人の背丈を超えるほどに積まれたその麻袋には、王室の直轄穀物庫が使用する特級品質を示す、鮮やかな青い紋章が捺されている。麻の網目の隙間から微かにこぼれ出ているのは、今年収穫されたばかりの、まるで真珠のように透き通った最高級の新米の粒であった。一袋で大人の男性が抱えるのも一苦労な大袋が、二十袋以上。
その隣には、重厚な樫の木の樽が、十数個もずらりと並んでいた。
分厚い鉄のタガで頑丈に締め上げられた樽の表面には、冷気遮断の魔導式封蝋が施され、隙間からは、極上の塩漬け熟成肉とスモークの芳醇な燻煙香が、食欲を激しく刺激するように漂っている。見事な霜降りの最高級牛肉の塊が、樽の中にぎっしりと塩漬けにされているのだ。
さらに、木箱の列。
丁寧に組まれた杉の木箱の蓋はあえて少しだけずらされており、朝露を浴びて瑞々しく輝く冬野菜が、溢れんばかりに顔を覗かせていた。
大人の太ももほどもある見事な丸々と太った聖護院カブ、葉先までピンと張った甘みたっぷりの縮緬白菜、太い一本ネギの束、さらには雪の下で甘みを蓄えた寒冷地特産の泥つき人参が、木箱に何十箱と山積みになっている。
それだけではない。
屋根付きのウッドデッキのすぐ脇、雨風の当たらない特等席には、豪奢な桐箱に収められた最高級の茶葉の缶が数十個。
さらには、フォレスト領の腕利きの織物職人たちが、冬の訪れを前に何ヶ月もかけて手作業で織り上げたという、羽毛のように軽くて温かい極上のウール毛布が、美しい麻布に包まれて十枚以上も整然と積まれていた。
荷馬車にして、ゆうに三台、いや四台分。
小さな村の全住民が、一冬を贅沢に食いつなぐことができるほどの莫大な物資が、朝露に濡れながら、神聖な静寂の中でマノンの玄関前を占拠していたのである。
「ど、どういうこと……? 泥棒……? 違うわよね、泥棒なら物を盗んでいくものね……。誰かが、荷馬車をひっくり返しちゃったのかしら……!?」
パニックに陥りかけたマノンの視線が、物資の山の最前列――ちょうど門柱のすぐ脇に置かれていた、一番大きな木箱の天板へと吸い寄せられた。
そこには、朝日に照らされて眩い黄金の光を放つ、一巻の巻物が鎮座していた。
最高級の厚手の羊皮紙。
その端には、フォレスト領主家の正式な印章である「双頭の銀鹿」が紫色の封蝋で押され、さらには辺境警備隊の最高指揮官の証である「交差する大剣」の金印が、これ見よがしに刻まれていた。
巻物の中央には、驚くほど流麗で、祈りを込めるように一画一画が力強く記された、見事な金文字の文面が広がっていた。
『――至高なる調停者、マノン・デュラン様
此度の霊峰における未曾有の厄災、神代の古代瘴気炉の暴走に際し、あのお庭より放たれし至高の神徳と、眷属たる三代神獣様の圧倒的なる御威光を以て、領地の破滅を瞬時に救い給うた深き慈悲に、領主フォレスト家、辺境警備隊、ならびにフォレスト領の全領民一同、魂の底よりの涙と感謝を捧げます。
我ら無力なる人間の身では、あのお庭の平穏を守る盾となることすら叶わず、ただあのお方の広大無辺なる救済の奇跡に平伏するのみでございました。
此度の品々は、領民一同が命を救われたことへの、言葉にもならぬ感謝の誠を形にした、極めてささやかなる【心ばかりの粗品】にございます。
どうか、あのお庭の慎ましき日向ぼっこと、神獣様方の安息の日々が、未来永劫、誰にも乱されることなく続きますよう、領民総出でお守りすることを、ここに誓約いたします――
フォレスト領主代行 ローラン・ド・フォレスト
辺境警備隊長 ギルバート・アルノー 拝』
「……………………」
マノンは巻物を両手で持ち上げ、眉を八の字に下げて、その金文字をじっくりと読み直した。
古代瘴気炉?
三代神獣?
領地の破滅を瞬時に救い給うた深き慈悲……?
難解で大袈裟な貴族言葉の羅列に、マノンの頭の中の「善良な田舎の常識フィルター」が、猛烈な勢いで回転を始めた。
(……ええと? どういうことかしら?)
マノンは記憶の糸を手繰り寄せた。
昨日、何か特別なことをしただろうか?
朝起きて、洗濯物を干した。
山から変な風が吹いてきて、タマたちが体調を崩した。
特製おじやを作って食べさせたら、元気になって裏山へ駆け出していった。
泥だらけになって帰ってきたので、ぬるま湯タオルで足を拭いてあげた。
自分もおじやを食べて、美味しかった。
――それだけである。
世界を救った覚えも、神獣を解き放った覚えも、爪の先ほども存在しない。
だが、手紙にははっきりと書いてある。
『此度の霊峰における未曾有の厄災……あのお庭の平穏……領民一同からの心ばかりの粗品』
(……あ!)
マノンの脳内で、電球がピカリと音を立てて点灯した。
(そうか! 分かったわ!!)
すべてのピースが、またしても完璧に(そして決定的に斜め上の方向へ)噛み合ってしまった。
(昨日、タマたちが裏山を駆け回っていた時……! あの子たち、裏山の山道に落ちていた枯れ枝や、詰まっていた排水溝のゴミでも、お散歩ついでに蹴っ飛ばして掃除してくれたんだわ!)
マノンの脳裏に、足先を泥だらけにし、背中に枯葉をくっつけて満足そうに帰ってきたタマとクロの姿が浮かんだ。
山あいの小道は、初冬になると落葉や枯れ枝が側溝に詰まり、大雨が降ればすぐに道が崩れてしまう。
きっと、領主館の警備隊の人たちが、冬の山林整備(ボランティア活動)で山に入っていたのだ。
そこへ、元気があり余ったうちの大きな猫たちが突撃していき、じゃれつくついでに、倒木をどかしたり、落ち葉の山を散らしたりして、結果的に整備作業を手伝う形になったに違いない。
(手紙にある『神獣様方の御威光』っていうのは……うちのタマが中型犬並みに大きくて立派だから、警備隊の皆さんが冗談交じりに大袈裟に褒めてくれたのね! 都会のエリート貴族様なのに、なんてユーモアのある丁寧な手紙を書く方たちなのかしら!)
そして、『心ばかりの粗品』という言葉。
(田舎のご近所付き合いって、本当に手厚すぎるわ……! ちょっと山道の落ち葉拾いを手伝ったくらいで、こんなにトラック何台分ものお野菜やお米を届けてくれちゃうなんて……! 顔を合わせるとお礼に気を遣わせるからって、早朝に置いていっちゃうシャイなところも、相変わらず田舎の人らしくて温かいわねぇ)
マノンは巻物を胸に抱きしめ、じわりと温かな感動に目を潤ませた。
王都のブラック薬舗時代には、どれだけ身を削って残業しても、誰からも感謝されることなどなかった。
それに比べ、この辺境の土地のなんと情に厚いことか。
些細な親切を、何倍もの真心で返してくれる。この温かな人々に囲まれて暮らせることが、心底から誇らしく、ありがたかった。
「……よう、お嬢さん。朝っぱらから、すごい景色だねぇ」
ふいに、門柱の向こうから、聞き慣れた豪快な声が響いてきた。
見れば、宿場町を取り仕切る商人・ヴェロニカが、空になった大型幌馬車の前で、額の汗を手拭いで拭いながら立っていた。
普段ならパリッとした仕立ての良い上着を着込んでいる敏腕オバサマ商人が、今朝は袖をまくり、泥のついた革前掛けを締め、全身から湯気を立ち上らせている。
「あら、ヴェロニカさん! おはようございます! ……えっ、もしかしてこの物資を運んでくださったの、ヴェロニカさんなんですか!?」
「まあね……」
ヴェロニカは引きつった笑いを浮かべ、肩をすくめた。
(運んだどころの騒ぎじゃないよ……!)
ヴェロニカの内心は、いまなお冷汗でびっしょりと濡れそぼっていた。
昨晩の領主館からの緊急招集。
領主代行ローランが、普段の冷静沈着さを完全にかなぐり捨て、血走った目で「領内最高の品を、すべての蔵を開放して今夜中に集めろ! 調停者様への返礼だ!」と叫んだのだ。
ギルバート隊長は「俺の給金を全額前借りしてでも最高級の肉樽を用意しろ」と怒鳴り散らし、令嬢レオノール様は泣きながら「私の部屋の極上ウール毛布をお持ちして!」と自ら荷造りを手伝い、セリア副隊長は胃薬を握りしめながら領内中の商人や農家を夜通し叩き起こして回った。
ヴェロニカ自身、一睡もすることなく、夜明け前までかかって馬車三台に物資を積み込み、山道を登ってきたのだ。
山奥の調停者様が、古代の超兵器を一撃で消滅させ、領地を救った。
その現場を目撃した騎士たちの狂乱の報告を聞いた時、ヴェロニカの商人としての心臓は、恐怖と畏怖で完全に縮み上がっていた。
怒らせたら国が滅びる。だが、誠意を尽くせば、世界の神をも動かす慈悲が与えられる。
この納品は、フォレスト領の存亡を賭けた、最大最強の「祈りの儀式」そのものだったのだ。
「ヴェロニカさん、こんなに朝早くから……本当にありがとうございます!」
マノンは駆け寄り、ヴェロニカの手をぎゅっと両手で握りしめた。
「ご近所の皆さん、本当に親切すぎて……私、どうお礼を言っていいか分からないくらいです! タマたちがちょっと裏山の落ち葉を散らかしちゃっただけなのに、こんなに立派なお野菜やお米までいただいちゃって……」
「……は?」
ヴェロニカの動きが止まった。
おちば?
ちらかした……?
「手紙を読んだんです。『山林浄化の慈悲』って、警備隊の皆さんが山道の整備をしていたのをお手伝いしたことですよね? うちの猫たち、元気があり余って暴れ回っちゃったみたいで、かえってご迷惑をおかけしたんじゃないかって心配していたんですけれど……こんなに温かいお礼をいただけて、本当に嬉しいです!」
「…………あ、ああ。……そ、そうだねぇ」
ヴェロニカは、痙攣しそうになる口角を必死に抑え込み、プロの営業スマイルを力ずくで顔に張り付けた。
(出たよ……! このお嬢さんの、底知れぬ天然勘違いフィルター……!!)
古代の超兵器を粉砕し、数千トンの瘴気泥流を蒸発させた神話の最終決戦が。
この娘の頭の中では、「猫が裏山の散歩コースで落ち葉拾いをお手伝いした」ことになっている。
だが、ヴェロニカは百戦錬磨の商人だ。ここで「いや、お宅の猫が古代兵器を粉々に砕いて領地を救ったんですよ」などと野暮な真実を口にすれば、神の不興を買いかねない。
あのお方が「落ち葉拾い」だと仰るのなら、あれは歴史上最も大規模な落ち葉拾いだったのだ。それでいい。それが正解なのだ。
「ま、まあね! 田舎のご近所付き合いってのは、そういうもんだよ! お互い様さね! ……あの大根の葉っぱのふりかけの恩もあるし、領主様も『美味いもんを腹いっぱい食ってほしい』って仰ってたからさ!」
「ふふ、領主様って、本当に気さくで優しい方なんですねぇ」
マノンは嬉しそうに目を細めた。
その時、ウッドデッキの引き戸がからりと開き、居間から三つの影が姿を現した。
「にゃ〜ん」
タマが、ふかふかの純白の体を揺らしながらのっそりと進み出てきた。
続いてクロが、静かな足取りで縁側の端へ。
ピピがパタパタと飛んできて、物干し竿の上へと着地する。
三匹の視線が、庭を埋め尽くす物資の山へと注がれた。
タマは、霜降りの極上肉樽の前へ歩み寄ると、湿った鼻先を寄せてスンスンと匂いを嗅ぎ、「グルル……(悪くない肉だ)」と満足そうに喉を鳴らした。
クロは、麻布に包まれた極上ウール毛布の上に前足を乗せ、リズミカルに「ふみふみ」を繰り返しながら、その柔らかさを厳しく吟味している。
ピピは最高級茶葉の木箱の上にとまり、「ピピッ♪」と上機嫌に囀った。
三匹の神獣たちの瞳には、「ふん、昨日のゴミ掃除の対価としては、最低限の誠意は見せたようだな」という、尊大な納得の光が宿っていた。
だが、マノンが振り返った瞬間――。
「にゃあん♪」
タマは瞬時にコロンと横倒しになり、マノンの足元で甘えたように腹を見せた。
クロもエプロンの裾に頭突きをし、ピピはマノンの肩へと飛び移って首筋に甘えてくる。
完全なる、愛玩動物への擬態。
「あらあら、タマたちも新しい毛布が気に入ったのね? よかったわねぇ」
マノンはタマのお腹を撫でながら、ヴェロニカに向き直った。
「ヴェロニカさん、朝早くから運んでくださって、喉が渇いたでしょう? 今、温かいお茶を淹れますね! 昨日作ったおじやの残りを少し温め直してもいいですし、マルタおばあちゃんの大根で作ったきんぴらもありますよ!」
「えっ!? あ、いや、あたしは仕事が……」
辞退しようとしたヴェロニカの鼻先を、土間から漂ってきた香ばしい香りがかすめた。
昨日マノンが作ったという、神獣たちを全盛期へと押し上げたあの伝説のおじやの残り香。
ごくり、と喉が鳴る。
「……あ、あの、じゃあ、お茶の一杯だけでも、ありがたくいただこうかねぇ……」
「はい! すぐ準備しますね!」
マノンは満面の笑みを浮かべ、腕まくりをして土間へと駆け込んでいった。
残された庭先。
ヴェロニカは、ウッドデッキの上から冷ややかに自分を見下ろす白猫と黒猫の金色の眼光に背筋を凍りつかせながら、必死に背筋を伸ばして借りてきた猫のように直立不動で待機した。
やがて、マノンが湯気を立てるお茶と、素朴なきんぴらの小鉢を運んできた。
縁側に腰掛け、温かいお茶をすするヴェロニカの顔に、じんわりと疲労が溶け去る至福の表情が広がる。
「美味しい……。生き返るよ、本当にお嬢さんのご飯は……」
「ふふ、良かったです! さあ、お茶を飲んだら、このお野菜やお米を土間へ運び入れなくちゃ!」
マノンはエプロンを整え、意気揚々と腕を回した。
庭いっぱいに広がる、大地の恵みと、人々の温かな真心の結晶。
こんなにたくさんの食材があれば、冬の間、どんなに雪が降ってもへっちゃらだ。
大根と干し肉のポトフ、カブと地鶏のとろとろ煮、お米の炊き込みご飯、そして極上のウール毛布にくるまって猫たちと楽しむ優雅なティータイム。
やりたいこと、作りたい料理が、頭の中に次から次へと溢れ出して止まらない。
「田舎の暮らしって、本当にあったかくて、最高だわ……!」
マノンは澄み切った初冬の青空を見上げ、胸いっぱいに幸せを噛み締めながら、最初の米袋へと力強く手を伸ばすのであった。




