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第55話:奇跡の滋養、立ち上がる三つの神威

鼻孔をくすぐるその匂いは、あまりにも暴力的であり、同時にこの上なく優美であった。


居間の薄暗がりの中、畳の上に置かれた三つの素焼きの深鉢。

人肌に温められた黄金色のとろみスープからは、すりおろしたばかりの生姜が放つ目の覚めるような清涼感と、じっくりと時間をかけて引き出された昆布・干し椎茸の芳醇な旨味、そして平飼い地鶏の骨髄から溶け出した濃厚な甘い湯気が、ふわりと細い糸のように立ち上っていた。


「……グル……」


毛布にくるまり、座布団の上で丸くなっていた白猫のタマ――古代神獣『霜狼神フェンリル』は、重たい瞼をわずかに押し上げた。

金色の双眸は、いまだ濁った鈍い光を宿している。

頭蓋の奥底で、何千本の錆びた釘を打ち込まれたかのような激痛がズキズキと脈打っていた。


神話の時代より極北の永久凍土に君臨し、万物を絶対零度で凍結させてきた孤高の神獣フェンリル。

その霊格の高さゆえに、いま彼を苛んでいたのは、常人には決して理解できぬ「魂の窒息」であった。

北の霊峰の頂から漏れ出したあの『古代瘴気炉』の濃縮怨念毒。

それは、神代の人類が飽くなき欲望の果てに大地を切り裂き、無理やり地殻から汲み上げて暴走させた、極めて下劣で濁りきった人工の魔力毒素であった。

大気中に溶け込んだその微粒子は、澄み切った大気のマナと同調して呼吸する神獣の体内に、微細なガラス粉とコールタールを同時に流し込むが如き劇毒として作用していたのだ。


呼吸をするたびに、体内の透き通った氷結魔力流がヘドロのように茶褐色に濁っていく。

血管が軋み、関節が軋み、内臓が冷たい泥で満たされていくような圧倒的な倦怠感。

マノンの側にいれば、彼女が自然と放つ『波長ゼロの無害気質』によって辛うじて致死的な汚染は免れていたものの、それでも換気のために開け放たれた窓から吹き込んできた悪臭は、フェンリルの誇り高き感覚器官を完全に麻痺させていた。

胃の腑は鉛のように固まり、とてもではないが食事など受け付けられる状態ではなかったのだ。


――だが。


「はい、タマ。……無理して全部食べなくていいからね。一口だけでも、スープを舐めてみて?」


目の前にしゃがみ込んだマノンの、どこまでも穏やかで、慈愛に満ちた声。

優しく背中の毛並みを撫でてくれる、温かな手のひら。

そこから注ぎ込まれる、一切の打算も、畏怖も、要求もない、ただ純粋に「元気になってほしい」という無償の祈りの波動。


タマは、喉の奥をヒクヒクと震わせた。

素焼きの小鉢の中に揺れる、淡い琥珀色の世界。

出汁をたっぷりと吸い込み、ふっくらと丸く花開いた米粒。

その上を、まるで天女の羽衣のように優しく覆う、半熟の黄金色の卵。

細かく散りばめられた生姜の繊維と、ふくよかに戻った赤いナツメの実。

そして――何よりも。

その料理の湯気そのものから立ち上っていたのは、マノンの魂から直接染み出したかのような、混じり気のない「絶対浄化の気配」であった。


(……主が……我のために……作ってくれた……)


フェンリルの誇りが、そして猫としての抗いがたい本能が、麻痺していた四肢を突き動かした。

タマは重たい前足を一歩、座布団から畳へと踏み出した。

ペタリと伏せていた白い耳をわずかに持ち上げ、器の縁へと顔を近づける。

熱くない。

マノンが唇を尖らせ、丹念に息を吹きかけて冷ましてくれた、完璧な「人肌」の温もり。


タマは、ピンク色の小さな舌先を――チョン、と。

黄金色のとろみスープの表面へと、恐る恐る触れさせた。


――ジュワッ……。


その瞬間であった。


「――ッッッ!?!?!?!?」


タマの全身の毛並みが、見えない雷光に打たれたかのように、バチッと一斉に逆立った。

金色の瞳孔が、真円にまで極限まで見開かれる。


舌先から口腔へ、そして食道へと流れ込んだ液体。

それは、単なる「美味い料理」などという言葉では到底言い表せない、生命の根源を揺るがす奇跡の奔流であった。


まず舌を包み込んだのは、昆布と干し椎茸、そして丁寧にアクを抜かれた鶏ガラ出汁の、圧倒的なまでに澄み切った重層的な旨味。

塩分は極限まで控えめであるにもかかわらず、天日塩のわずかな角の取れた塩気が、出汁の持つ素材本来の甘みを極限まで引き出している。

続いて訪れたのは、すりおろし生姜がもたらす、鮮烈にして爽快な刺激。

だが、その辛味は尖っておらず、大根おろしの優しいジアスターゼの酵素と、半熟卵のまろやかな脂によって、まるで丸い綿の玉のように柔らかく包み込まれていた。


そして――真の衝撃は、その液体が胃の腑へと落ちた瞬間に炸裂した。


ドクンッ――!!


タマの体内で、凍りついていた心臓が、力強い鐘の音のように鳴り響いた。

胃壁に触れたスープから、眩いばかりの純白の光粒子が、無数に弾け飛んだのだ。


マノンの『波長ゼロの無害気質』が、煮出された生薬と出汁の分子の隅々にまで完全に定着していた。

冷やご飯を流水で洗い、余分なデンプンを落としたことで、米粒は胃壁に一切の負担をかけることなく、その奥深くに蓄えられた出汁の滋養を、スポンジのように体組織へとダイレクトに放出したのだ。


カッ……!!


タマの全身の毛穴という毛穴が、一斉に開いた。

内臓の奥底で燻っていた、あのドス黒い古代瘴気の毒ヘドロ。

フェンリルの氷結魔力流にこびりつき、悪寒と頭痛を引き起こしていたあの怨念の残滓が――マノンのおじやが放つ絶対浄化の光に触れた瞬間、まるで熱湯をかけられた霜のように、ジュウジュウと音を立てて跡形もなく蒸発していったのである。


(な……なんだ……これは……!? 身体が……軽い……!?)


内臓が温かい。

冷え切っていた胃の腑から、春の太陽のようなポカポカとした熱波がドクドクと全身へ送り出されていく。

血液がサラサラと巡り、濁っていた魔力循環は、極北のダイヤモンドダストよりも透明な、至高の輝きを取り戻していく。

頭痛が消えた。

吐き気が消えた。

節々の痛みが、霧が晴れるように消え去った。


そして――何よりも。


(う……美味い……ッ! 猛烈に……美味いぞ、これは……ッ!!)


理性など、一瞬で消し飛んだ。

タマは器の縁に前足をかけ、顔を小鉢の中へと突っ込んだ。


ハフッ、ハフッ、ジュルルルルッ!


舌を高速で動かし、黄金色のスープを貪るように啜り上げる。

ふっくらと煮込まれた米粒が、噛む必要すらないほど滑らかに喉の奥へと滑り落ちていく。

時折プチッと弾ける丸麦の心地よい歯ごたえ。

ふんわりとした卵の柔らかな舌触り。

ナツメの甘酸っぱいアクセントが、食欲の火に油を注ぎ、止まらない。

椀の底に頭を押し込み、ガツガツ、ハフハフと、まるで数日ぶりの獲物に食らいつく野生の獣のように、無我夢中でおじやを胃袋へと流し込んでいく。


そのタマの狂乱の食事風景を、横から呆然と見つめていた影があった。


「……フ……フニャ……?」


茶箪笥の隙間から、這い出るようにして顔を覗かせていた黒猫のクロ――『冥界獣キマイラ』であった。

普段ならば、タマの無様な姿を「さもしい奴め」と鼻で笑い飛ばすはずの誇り高き冥府の凶獣。

だが、タマの全身から立ち上る、あの濁りきった瘴気毒が一瞬にして純白のオーラへと昇華されていく様を目の当たりにし、クロの琥珀色の瞳は驚愕に見開かれていた。


クロ自身、体内の苦痛は限界に達していたのだ。

冥界の毒を操るキマイラであっても、古代文明が歪に生み出したあの腐敗のヘドロは、内臓を腐食させる劇薬に他ならなかった。喉はカラカラに乾き、四肢は麻痺し、自慢の漆黒の毛並みは艶を失い、動くことすら億劫だった。


だが――目の前に置かれた、クロ用の小鉢。

生姜と大根おろしが均等に散りばめられ、琥珀色に透き通るそのおじやから漂ってくるのは、かつて西の山脈で怪我をして倒れていた時、マノンが塗ってくれたあの特製カレンデュラ軟膏と同じ、魂の傷を癒やす絶対の慈悲の匂いであった。


(……我も……耐えられん……ッ!)


クロは音もなく箪笥の隙間から躍り出ると、素焼きの小鉢の前へと滑り込んだ。

前足を揃え、乾き切っていた黒い鼻先を近づける。

ツンと鼻腔をくすぐる生姜の清涼感。

クロは迷うことなく、その小さな舌をスープへと浸した。


――ジュワリ。


「――っ!!」


クロの背筋が、弓のようにピンと反り返った。

美味い。

暴力的なまでに、身体の隅々まで染み渡る美味。

大根おろしの柔らかな水分が、乾き切っていた口腔を優しく潤し、生姜の刺激が胃の粘膜を心地よく刺激して、停滞していた消化液を一気に呼び覚ます。

そして、マノンの浄化の光が体内へ雪崩れ込んだ瞬間、キマイラの三つの魂――獅子の剛力、山羊の魔力、毒蛇の猛毒を濁らせていた古代の澱みが、シューッと音を立てて完全中和されていく。


(力が……戻る……! いや、戻るどころではない……毒の純度が……極限まで研ぎ澄まされていく……ッ!!)


クロは喉の奥から「ゴロゴロゴロゴロ……ッ」と、地鳴りのような重低音を響かせながら、器に顔を埋めた。

ペロペロ、ハフハフ。

先ほどまでのツンとした態度など跡形もない。

太い鍵尻尾をピンと垂直に立て、小刻みにプルプルと歓喜に震わせながら、猛烈な勢いでおじやを平らげていく。


そして――梁の上。


「ピ……ピピッ!?」


黄色い小鳥のピピ――『幻鳥フェニックス』は、止まり木からパタパタと短い翼を羽ばたかせ、マノンの足元へと直接滑空してきた。

風船のように膨らませていた羽毛はすっかり萎み、小さなくちばしをピピ用のおじや小鉢へと躊躇なく突き刺す。


ちゅるり、ちゅるり。


滑らかな半熟卵のスープと、出汁を吸って柔らかく煮崩れた米粒の破片が、細いくちばしを通じてピピの小さな喉を滑り落ちていく。

その瞬間、フェニックスの体内で、暴走しかけていた原初の浄化の炎が、完璧な調和を取り戻した。

濁った大気を焼き払おうとして無駄に消耗していた体内の火種が、マノンの滋養スープという最高の薪を得て、眩いばかりの神聖なる黄金の光へと燃え上がったのだ。


「ピピピピィ♪ チチッ、ピピッ♪」


歓喜の囀りが、居間に響き渡る。

ピピは器の縁にちょこんと止まり、頭を上下に激しく振るわせながら、スープの一滴、米の一粒まで残さず、一心不乱についばみ続けた。


***


――ペロ、ペロ、ペロ。

――カラン、カラン。


居間に響くのは、陶器の底を舌で舐め上げる、無心にして規則正しい音だけであった。


最初にあれほど山盛りに盛られていたおじやは、わずか三分と経たずに、三つの器から完全に姿を消していた。

それどころか。

タマは、大きな頭を深鉢の中に突っ込み、器の内側にわずかに残った出汁の膜すら逃すまいと、隅から隅まで丁寧に舌を這わせていた。

クロも負けじと、前足で器をしっかりと押さえつけ、底の凹凸に入り込んだ卵の欠片を綺麗に舐め取っている。

ピピに至っては、器の底をくちばしで突いて、米粒のひとかけらも残っていないことを確認しながら、器の縁についた出汁を丹念に吸い上げていた。


ピカピカ。

まさに、新品の陶器を洗い上げたかのように、三つの器は寸分の汚れも残さず、美しく磨き上げられていたのである。


「まあ……! 全部食べてくれたのねぇ!」


畳の上に正座して見守っていたマノンが、両手を胸の前で合わせ、心底から嬉しそうに目を細めた。

その瞳には、先ほどまでの痛ましい心配の色は消え去り、母親のような誇らしげな笑みが満ち溢れていた。


「あんなに食欲がなかったのに、お皿までピカピカにしてくれちゃって……! やっぱり、お腹が冷えていただけなのね。温かい出汁を飲んだら、胃腸が動き出してくれたんだわ」


マノンは嬉しそうに身を乗り出すと、おじやを平らげて満足そうに息を吐くタマの分厚い首筋を、両手でワシャワシャと豪快に撫で回した。

タマは目を細め、マノンの膝の上にドスンと重たい頭を乗せて甘えてくる。

続いてクロの顎の下をコチョコチョと掻いてやると、クロは目をトロンと細め、マノンの足首に前足を重ねて喉を鳴らした。

ピピはパタパタと飛び上がり、マノンの肩の上へと着地すると、くちばしをマノンの耳たぶに擦り寄せて甘えた声を上げた。


「ふふ、みんな偉かったわねぇ。お利口さんね」


マノンは空になった三つの器をお盆へと回収し、立ち上がった。

「さ、少し身体を休めていなさいね。私はお鍋を片付けて、残ったおじやを自分のお昼ご飯にするからね」


パタパタと軽やかな足音を立てて、マノンが居間を出て土間へと向かう。

引き戸が静かに閉ざされ、居間の中に、再び静寂が戻ってきた。


――その、瞬間であった。


スッ……。


マノンの姿が見えなくなったコンマ一秒後。

畳の上で甘えていた三匹の毛玉たちの空気が、劇的な、完全なる一変を遂げた。


「グルルルルル……ッ」


タマが、ゆっくりと立ち上がった。

先ほどまでの、座布団の上で丸くなって震えていた弱々しい白猫の姿など、どこにもなかった。

前足を力強く畳の上に踏みしめ、背筋をピンと伸ばす。

その全身の純白の毛並みからは――先ほどまでの濁りきった微熱など欠片もなく、極北の絶対零度を遥かに凌駕する、神聖にして清冽な白銀の冷気が、オーロラの陽炎となって立ち上り始めていた。


全盛期。

いや、全盛期どころではない。

数千年前、神話の時代に世界を凍結させた時すら上回るほどの、純度百パーセントの神威が、全身の毛細血管から細胞の隅々に至るまで、ドクドクと恐ろしい勢いで満ち満ちていた。

マノンのあの『波長ゼロの無害気質』と、大地の滋養を極限まで濃縮した特製おじや。

それは、神獣たちの体内に溜まっていた数千年分の微細な澱みすらも完全に洗い流し、その霊格を、神代の頂点へと一気に押し上げていたのだ。


「フニャ……」


クロが、漆黒の四肢を低く沈めた。

琥珀色の双眸が、鋭い刃のように細く引き絞られる。

パサついていた黒い毛並みは、濡れた黒曜石のように妖しい光沢を取り戻し、足元の影からは、触れるものすべてを虚無へと還元する冥界の神気が、ドス黒い炎となって静かに渦を巻き始めていた。


「ピピッ」


梁の上へと音もなく舞い戻ったピピの全身から、眩いばかりの紅蓮と黄金の光粒子が、粉雪のようにサラサラと零れ落ちていく。

太陽の熱核を宿した神鳥の炎は、いまや一欠片の濁りもなく、大気中のあらゆる穢れを焼き清める原初の炎となって、その双翼の奥底で静かに胎動していた。


三匹の視線が、室内の空気の中で交錯した。

言葉など不要であった。

古代の戦場を共に駆け抜けた神獣たちの意志が、無言のテレパシーとなって、雷光のように結びつく。


『……満ちたな、フェンリル』

『ああ。満ちたどころではない。我が主の至高の滋養……我が肉体は、天地創造の瞬間すら超えて滾っておる』

『クク……あの温かさ、あの旨味……。我が生涯において、これほどの至福は存在せなんだ』


三匹の神獣の瞳に、蕩けるような主への感謝と崇拝が宿る。

だが――次の瞬間。

その瞳の奥底に宿ったのは、現世のあらゆる悪意を焼き尽くすほどの、絶対強者の冷徹な激怒であった。


『――だが、だ』


タマの金色の瞳が、居間の北側の壁――あの赤紫色の暗雲が渦巻く、裏山の頂へと向けて突き刺さった。


『我が主が、丹精込めて組み上げたあのウッドデッキ。……今朝、気持ちよさそうに干しておられた、あの純白のシーツ』

『……ああ。知っておるぞ。あのシーツに、山から吹き下ろす下劣な煤煙が触れ、我が主は心底から悲しそうに眉を下げておられた』

『許しがたい。……我が主が丹精込めて作ったあの穏やかな生活を、どこの骨馬鹿が汚しているのだ?』


キマイラの喉の奥から、低く、地を裂くような殺意の唸りが漏れた。

フェニックスの冠羽が、怒りの熱波でチリチリと空気を焦がす。


主が心を痛めた。

主の洗濯物に、汚らわしい煙が吹きかかった。

そればかりか――自分たちが体調を崩したことで、あの心優しき主は、お昼ご飯も食べずに大鍋にかじりつき、必死に看病をしてくれたのだ。

主のあの温かい手を煩わせ、眉を曇らせた元凶。


生かしておく理由など、天地の理のどこを探しても、一欠片すら存在しなかった。


『……おい、白狼』

『なんだ、キマイラ』

『我が主は今、台所で鍋の片付けをしておられる。……自分のお昼ご飯を温め直すまで、あとどれほどの時間があると思う?』


タマは、台所から聞こえてくる、マノンが木べらでおじやを小鍋に取り分ける「コト、コト」という長閑な音に耳を澄ませた。

そして、冷酷無比な笑みを浮かべた。


『……五分だ。我が主が席につき、匙を手に取るまで、およそ五分』

『十分すぎるな』

『ああ。……散歩がてら、裏山のゴミ掃除といこうか』


ピタリと、三匹の呼吸が揃った。


タマは音もなくウッドデッキの引き戸の隙間へと滑り込み、前足で器用に数センチだけ隙間を開けた。

台所へ向けて、「にゃあ〜ん(ちょっとお庭のパトロールに行ってくるね)」と、完璧に猫の甘えた鳴き声を一つだけ残す。

台所から「はーい、あんまり遠くへ行っちゃダメよー」というマノンの呑気な声が返ってきた、そのコンマ一秒後。


――シュパッ!!


庭先の敷石を踏み抜くことすらなく。

純白の影、漆黒の影、そして黄金の閃光が、矢よりも速く、雷よりも鋭く、裏山の雑木林へと向けて一直線に弾け飛んだ。


極上の朝食を邪魔された、世界の守護神たち。

その絶対の怒りを乗せた三つの神威が、いま、絶望の防衛線を切り裂かんと、裏山へと向けて殺到していったのであった。

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