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第47話:行き倒れへの施しは、冷たい井戸水と自家製梅干し

がらりと土間の引き戸が閉まる乾いた音が響いた後、庭先には、静まり返った秋の木枯らしの音だけが残されていた。


泥濘(ぬかるみ)の中に這いつくばったまま、主席宮廷魔術師エティエンヌ・ボワイエは、指先一つ動かすことができずにいた。

動けないのではない。動くことが許されていないのだ。

彼を取り囲むように泥水へへたり込んでいる五十名の魔術兵と重装歩兵たちもまた、誰一人として身じろぎすらできず、息を殺して硬直していた。


視線の先――出来立ての真新しい防腐香木のウッドデッキの上。

先ほどマノンが置いていった泥つき大根のすぐ脇に、三つの神話の天災が、寸分の隙もない完璧な監視の陣を敷いていた。


中型犬ほどもある白猫のタマ(霜狼神フェンリル)は、前足を綺麗に揃えてウッドデッキの端に腰を下ろし、細めた金色の瞳でじっと人間たちを見下ろしていた。その純白の毛並みからは、先ほどまでの荒れ狂う氷嵐こそ収まっているものの、「我が主の言いつけを破って勝手に立ち上がれば、即座に氷像にして砕く」という無言の圧力が、針のような冷気となって庭の空気をチリチリと張り詰めさせている。

その隣では、黒猫のクロ(冥界獣キマイラ)が、太い鍵尻尾の先をパタン、パタンと一定のリズムで香木の床に打ち付けながら、鋭い琥珀色の双眸で兵士たちの首筋を一人ずつ値踏みするように睨み据えていた。

そして、手すりの角にとまった黄色い小鳥のピピ(幻鳥フェニックス)は、時折パサリと金糸の羽を震わせ、その小さなくちばしから、大気を陽炎のように揺らす微細な熱気を漏らし続けている。


『我が主が「そこでじっとしていろ」と仰ったのだ』

『一歩でも逃げようとしてみろ、塵も残さず消し去る』


言葉はなくとも、三対の瞳が放つ絶対強者の意志が、兵士たちの頭蓋骨を直接押し潰さんばかりに圧迫していた。

兵士たちは恐怖で青ざめ、マノンに言われた通り、泥水の中で両手足を投げ出し、「手足を伸ばして楽な姿勢」を必死に保っていた。逃亡など論外、くしゃみ一つすることすら命懸けの状況であった。


(……我が輩は……生きているのか……?)


エティエンヌは、泥まみれになった自らの震える掌を見つめた。

右目のレンズが割れた銀縁眼鏡の奥で、視界が涙と泥水で歪んでいる。

体内の魔力回路は完全に焼き切れ、かつて誇っていた強大な魔力の残滓は欠片も残っていない。三十一年間積み上げてきたプライドも、権力も、魔術師としての尊厳も、すべてが粉々に砕け散った。

だが、殺されなかった。

あの大根を抱えて現れた小柄な娘――神話の厄災どもを従える絶対の調停者マノンは、自分たちを処刑するどころか、あろうことか「熱中症で行き倒れた旅人」と誤認し、心底から心配そうな顔で駆け寄ってきたのだ。


(熱中症……行き倒れ……。我が輩たちが……?)


屈辱だった。本来ならば、宮廷魔術師としての矜持が激昂の炎を吹き上げるはずの屈辱的な扱い。

だが、今のエティエンヌの胸中にあったのは、怒りなどでは断じてなかった。

あの娘が去り際に額に当ててくれた、温かな手の感触。

触れられた瞬間、焼き切れた魔力回路の激痛がスーッと引いていった、あの信じがたい浄化の温もり。

あの底知れぬ慈愛と深淵の質量に、エティエンヌの魂は、ただただ打ちのめされていた。


***


その頃、古民家の土間では、マノンが腕まくりをして猛烈な勢いで応急処置の準備を進めていた。


「もう! あんなに顔色を悪くして、唇まで紫色になっちゃって……! 王都の人たちは本当に無茶ばかりするんだから!」


マノンは独り言を口走りながら、土間の隅にある井戸の滑車へと駆け寄った。

王都の大手調剤薬舗で十年間、ブラック労働に耐えながら数々の急患を診てきたマノンの臨床経験が、頭の中で警報を乱打していた。


(あの症状は、典型的な重度の熱中症と脱水症状よ! 無理な山登りで体温調節機能が破綻して、冷たい汗をかきながら手足が痙攣しているわ。……急激に冷たいものを胃に流し込んじゃダメ。胃痙攣を起こして吐き戻しちゃうから、まずは常温に近い水で口を湿らせて、何より失われた塩分とミネラルを補給しなくちゃ!)


ガラガラと音を立てて木製の滑車を回し、深い井戸の底から、手押しポンプで汲み上げたばかりの地下水を湛えた木桶を引き上げる。

秋の冷気を含んだ井戸水は、水晶のように澄み渡り、桶の縁からパシャリと零れた飛沫が、土間の踏み石を黒く濡らした。


マノンは棚から、使い込まれた大きな赤銅のやかんを取り出した。

容量にして五リットルは入る頑丈なやかんの口へ、木桶の水を一気に注ぎ込む。

ジャァァァッ、と心地よい水音が土間に反響する。

水汲みを終えると、続いて茶箪笥の最下段、ひんやりとした暗がりへと手を伸ばした。


取り出したのは、深い飴色の釉薬がかけられた、重厚な信楽焼の陶器壺であった。

両手で抱え上げると、ずっしりとした重みが腕にかかる。

木製の重たい蓋を開けた瞬間――。


――フワァァァァン……ッ!


土間の空気を一瞬にして塗り替えるような、息を呑むほど鮮烈で、甘酸っぱく芳醇な香気が立ち上った。


(うん、いい塩梅に漬かっているわね)


壺の中にぎっしりと敷き詰められていたのは、マノンが昨年、この平屋を購入した直後に手仕込みした「自家製の完熟梅干し」であった。

庭の隅にある樹齢数十年の古木の梅から、初夏に自然落果寸前まで熟した黄色い大粒の完熟梅だけを手摘みし、一粒ずつ丁寧に竹串でヘタを取り除いたものだ。

ミネラルをたっぷり含んだ天然の粗塩を梅の重量の二割きっちりと量り、呼び水となる極上のホワイトリカーを霧吹きで吹きかけ、重石をかけて一ヶ月。

梅酢がたっぷりと上がったところで、裏山で摘んできた採れたての新鮮な赤紫蘇(あかしそ)を塩もみしてアクを抜き、真っ赤な紫蘇液とともに壺へ投入。

そして夏の土用の晴天に、竹ざるの上に一粒ずつ並べ、三日三晩、真夏の太陽と夜露を交互に浴びせる「土用干し」を丹念に施したものだ。

一年間の熟成を経たその梅干しは、皮が破れそうなほどふっくらと柔らかく、表面には塩の結晶が粉を吹き、深いルビー色と赤紫蘇の鮮やかな紅が混ざり合って、まるで宝石のように艶やかに輝いていた。


「これなら、一粒で十分な塩分とクエン酸が摂れるはずだわ」


マノンは清潔な木箸を使い、大粒の梅干しを十数粒、素焼きの深皿の上へと丁寧に取り分けた。

さらに、来客用にと揃えておいた木削りの小椀を重ね、赤銅のやかんの取っ手を握りしめる。


「よし! 待っててくださいね、すぐ行きますから!」


マノンは両手に救護物資を抱え、再び庭先へと駆け出していった。


***


バタバタバタッ、と。

軽やかな足音がウッドデッキを踏み鳴らし、再び庭へと戻ってきた。


「お待たせしました! 今、お水と塩分を持ってきましたからね!」


駆け寄ってきたマノンの姿を認め、泥濘の中のエティエンヌはビクリと肩を跳ねさせた。

マノンは泥の上に躊躇なく膝をつくと、手元の大きな赤銅のやかんを置き、木削りの椀にトクトクトクと澄んだ井戸水を注ぎ満たした。

水面からは、微かな冷気と、清冽な大地の匂いが立ち上っている。


「ほら、まずはこのお水を飲んで。でも、急にゴクゴク飲んじゃダメですよ。一口ずつ、ゆっくり、口の中を湿らせるようにして喉を通してくださいね」


差し出された木の器。

エティエンヌは、震える両手を泥の中から引き上げ、恐る恐るその器を受け取った。

器越しに伝わってくるのは、ひんやりとした井戸水の心地よい冷たさ。

そして――。


(……な、なんだ……この水は……!?)


エティエンヌの灰褐色の瞳が、驚愕に見開かれた。

器の中の水から放たれていたのは、ただの地下水の匂いではなかった。

触れた瞬間、器を持つエティエンヌの指先の毛細血管を通じて、体内に溜まっていたドス黒い魔力酔いの熱気が、スーッと引いていくような感覚。

マノンの『波長ゼロの無害気質』が、井戸水という媒体を通じて、高純度の浄化液へと昇華されていたのだ。


「あ……あ……」


乾き切り、血の味がしていたエティエンヌの唇が、器の縁へと触れた。

一口、含む。


――スゥッ……。


その瞬間、エティエンヌの全身を、未曾有の清涼感が貫いた。

水が、甘い。

砂糖の甘さではない。大地のミネラルが完全に溶け込んだ、どこまでも清らかで、細胞の一つ一つが歓喜の悲鳴を上げて吸収していくような、究極の滋味。

喉を通り、食道を滑り落ち、胃の腑へと届いた瞬間、過呼吸で痙攣していた横隔膜が、まるで温かい毛布で包まれたかのように穏やかに鎮静化していった。


「う……美味い……。水が……こんなに……」


「ふふ、いい飲みっぷり。でも焦っちゃダメよ」

マノンは優しく微笑むと、続いて素焼きの深皿をエティエンヌの目の前へと差し出した。


「お水だけじゃダメなんです。汗をいっぱいかいた時は、塩分を補給しないと身体が痙攣しちゃいますからね。……はい、この塩っぱいのを一粒、お口に含んでくださいな。酸っぱいけれど、我慢してゆっくり舐めるのよ」


皿の上に鎮座していたのは、大人の親指の先ほどもある、真っ赤な大粒の丸い果実――マノン特製の自家製梅干しであった。

表面には細かな塩の結晶が白く浮き、赤紫蘇の深い真紅に染まった果皮は、秋の木漏れ日を浴びてしっとりと瑞々しい光沢を放っている。

顔を近づけただけで、ツンとした刺激的なクエン酸の酸味と、赤紫蘇の爽快な芳香、そして天日干しされた大地の香りが、鼻腔を強烈に突き抜けた。


(こ……これは……?)


エティエンヌは唾を呑み込んだ。

王都の宮廷料理でも、地方の特産品としても、こんな禍々しいまでに鮮やかな紅を湛えた食物など見たことがなかった。

毒か? あるいは、罪人を処刑するための呪詛の塊か?

だが、皿を持つマノンの眼差しには、悪意など微塵も存在しなかった。あるのは、ただただ行き倒れの病人を救いたいという、純粋極まりない祈りと慈悲だけ。


エティエンヌは覚悟を決め、震える指先でその赤い果実をつまみ上げた。

指先に伝わるのは、信じられないほど柔らかく、吸い付くような果肉の弾力。

そして、意を決して――それを口の中へと放り込んだ。


――クチュリ。


前歯が、柔らかな果皮を破った、その瞬間であった。


「――っっっ!?!?!?!?」


エティエンヌの全身の筋肉が、一瞬にして硬直した。

口いっぱいに爆発したのは、人生でかつて経験したことのない、暴力的なまでの「酸味」と「塩気」であった。


す、酸っぱいッ!!

そして、猛烈に塩辛い!!

舌の根元がキューッと激しく引き絞られ、耳の下の唾液腺から、滝のような唾液がドッと噴き出してくる。

あまりの刺激に、エティエンヌの背筋がピンと直立し、ヒビの入った眼鏡がズレ落ちそうになる。


しかし――。

その強烈な刺激の直後、舌の上に広がってきたのは、言葉を絶するほどの「旨味の深淵」であった。


一年間、甕の底でじっくりと熟成された梅の果肉は、トロリと舌の上でとろけるように崩れ、天日塩の角が取れた円やかな塩気と、完熟梅本来のフルーティーで濃厚な甘みが、幾重にも重なって押し寄せてくる。

そこへ、赤紫蘇の清涼感あふれるハーブのような香気が重なり、口の中に残っていた泥と血の不快な後味を、一瞬にして爽やかに洗い流していった。


酸っぱい。だが、猛烈に美味い。

噛み締めるたびに、果肉から溢れ出す濃厚な果汁が、乾き切っていた口腔の隅々を潤していく。


だが――真の奇跡は、その味覚の向こう側で、静かに、そして爆発的に幕を開けた。


ゴクリ、と。

濃厚な梅の果汁を喉の奥へと嚥下した、まさにその刹那であった。


――ドクンッ!!


エティエンヌの胸の奥底で、何かが激しく脈打った。

梅干しの果汁が胃壁に触れた瞬間、そこから放たれたのは、人間の魔導理論など遥か彼方に超越した、眩いばかりの「絶対浄化の光の奔流」であった。


(な……なんだ……これは……!? 身体の奥が……熱い……!?)


エティエンヌは両手で自らの胸元をかき抱いた。

熱い。だが、先ほどの神鳥の業火のような破壊の熱ではない。

まるで、凍てつく冬の夜に、燃え盛る暖炉の前で極上の毛布にくるまれたかのような、細胞の芯まで温め解きほぐす、生命の光。


その光の奔流が、エティエンヌの全身の血管と神経網を駆け巡り始めた。

先ほど、禁呪の暴走と神鳥の威光によって、内側からバチバチと焼き切られ、黒焦げの廃墟と化していたはずのエティエンヌの全魔力回路。

二度と繋がることはなく、魔術師としての生命を永遠に失ったはずのその回路の残骸へと、マノンの梅干しから溢れ出た浄化の光が、染み渡っていく。


ジジジ……シュゥゥゥ……。


焦げ付いていた魔力の神経線維が、まるで枯れ木が春の恵みの雨を吸い上げるかのように、瑞々しい弾力を取り戻していく。

切断されていた回路の端と端が、光の糸となって伸び、再びカチリ、カチリと寸分の狂いもなく結び合わされていく。

過負荷で裂けていた皮膚の毛穴が塞がり、鬱血していた血液がサラサラと澄んだ流れを取り戻し、全身の細胞の一つ一つに、生まれたてのような純粋な活力が満ち満ちていく。


修復。

完全なる、魔力回路の再生。

王都の最高峰の神聖治癒術師が十人がかりで儀式を行っても、数ヶ月の療養を要するはずの致命的な魔力損壊が――。

たった一粒の、庭先で手渡された赤い果実によって、わずか数秒の間に、跡形もなく完治してしまったのだ。


「あ……あ、ああ……っ……」


エティエンヌの口から、掠れた声が零れ落ちた。

指先を動かしてみる。

指先の先端に、再び、清らかな魔力の燐光がパチパチと灯る。

治っている。

失われたはずの力が、それどころか、以前の濁った魔力よりも遥かに純度を増した、澄み切った魔力の奔流が、自らの体内を静かに巡っている。


奇跡。

神徳。

人知を超越した、絶対の救済。


「……よかった、少し血色が戻ってきましたね」


目の前で、マノンが心底から安堵したように、ふわりと柔らかく目を細めて微笑んでいた。

エプロンを泥で汚しながら、額の汗を拭い、慈愛に満ちた瞳で自分を見つめてくれている。

この娘は。

この至高の調停者は。

軍勢を率いて自らの聖域を侵し、神獣たちを捕縛しようとした無礼極まりない侵入者である自分を――。

処刑するどころか。

怒りをぶつけることすらなく。

ただ、道端で行き倒れた哀れな人間として抱き起こし、清らかな水を与え、失われた魂の力を修復してくれたのだ。


敵を討ち滅ぼすのは、強者の力だ。

だが――己に仇なす愚者を、笑顔で許し、その傷を無償で手当てすることなど、真なる神の如き慈悲を持つ者にしかできるはずがない。


(我が輩は……なんという愚か者だったのだ……)


エティエンヌの胸の奥底で、三十年間抱き続けてきた傲慢な自尊心が、音を立てて完全に崩壊した。

権力欲。出世欲。他者を見下す選民思想。

そんなものが、この娘の前にあって、一体何の価値があるというのか。

この娘こそが、世界の均衡を司り、傷ついた万物を救済する、現世に降り立った唯一無二の生ける神威そのものではないか。


「う……っ、うわああああああああっっっ……!!」


エティエンヌの両目から、大粒の涙が滝のように溢れ出した。

泥水に濡れた地面へ、再び額を力任せに擦り付ける。

先ほどの恐怖の平伏ではない。

魂の底からの、言葉にならない感謝と、悔悟と、崇拝の涙であった。


「な……なんという慈悲……! なんという神徳……ッ!! 我が輩のような無知蒙昧なる罪人を、お赦しくださるばかりか、このような至高の恵みをお与えくださるとは……っ!!」


肩を激しく震わせ、子供のようにしゃくりあげながら、エティエンヌは泥水を涙で濡らし続けた。


「あらあらまあまあ! そんなに泣くほど酸っぱかったのねぇ!」


マノンはポンと両手を叩き、心底から納得したように笑った。


「ごめんなさいね、うちの梅干し、昔ながらの塩分二割で漬けているから、王都の甘い梅干しに慣れている人には刺激が強すぎちゃったわね! でも、ほら、涙が出るくらい刺激があった方が、熱中症のボーッとした頭には一番効くのよ!」


マノンはエティエンヌの背中を、まるで駄々をこねる子供をあやすかのように、トントンと優しく叩いてくれた。

その温かい手のひらが背中に触れるたび、エティエンヌの目からは、さらにとめどなく涙が溢れ出していった。


「さ、他の旅の方たちにもお水を配らなくちゃね!」


マノンはやかんと梅干しの皿を持ち上げると、泥水の中で座り込んでいた五十名の兵士たちの方へと、パタパタと小走りに向かっていった。


「皆さん、大丈夫ですかー!? 順番にお水と梅干しを配りますからね! 無理して立っちゃダメですよー!」


兵士たちの前に置かれる、冷たい井戸水と、真っ赤な梅干し。

兵士たちもまた、震える手でそれを受け取り、口に含んだ瞬間、全身の疲労と凍傷の痛みが一瞬で消滅する奇跡を体験し、全員が泥水に額を擦り付けて号泣し始めた。

庭のあちこちから、「ありがたや……」「神よ……」「生き返った……」という嗚咽と祈りの声が響き渡る。


ウッドデッキの上では、白猫のタマと黒猫のクロが、そんな人間たちの狂乱の光景を一瞥し、「フン……我が主のお手製梅干しを食わせてもらえるとは、身に余る果報者どもめ」とでも言いたげに、揃って前足を畳んで目を細めていた。

ピピも手すりの上で、満足そうに「ピピッ♪」と鈴の音のような声を鳴らしている。


秋の爽やかな木漏れ日が、静かに庭先を照らし出していた。

王都から意気揚々と乗り込んできた五十一名の軍勢は、いまや武器を捨て、鎧を脱ぎ捨て、たった一人の前掛け姿の娘の足元で、涙を流しながら魂の救済を噛み締めていたのであった。

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