第20話:【周囲視点】一口で疲労が消える「呪詛のパイ」
フォレスト領の首府と北の山裾を往復する山道は、秋の深まりとともにいっそう冷え込みを強めていた。
宿場町を牛耳る豪商ヴェロニカ・マイヤーは、自ら手綱を握る幌馬車を走らせながら、防寒用の毛皮の襟巻きに鼻先を埋めていた。
前回、領主ローラン・ド・フォレストからの特命を受け、国家機密級の蓄熱オーブンや最高級シーツを「処分品の二束三文」として山奥の古民家へ叩き売り――もとい納品してから、わずか三日。
本来ならば、これほど短いスパンで再訪するのは商人として不自然極まりない。だが、領主館の首脳陣の焦燥は限界に達していた。
『マノン様はオーブンを無事に設置できたのか』
『眷属たる神獣たちが、人間の作った道具の匂いに怒り狂ってはいないか』
『あの地獄の平屋で、何か不測の事態が起きてはいないか』
執務室で胃薬の瓶を握りしめながら顔色を青ざめさせていたローランの顔を思い出し、ヴェロニカは短く舌打ちを鳴らした。
「まったく、貴族の坊ちゃんってのは肝が小さくていけないねぇ。……まあ、あたしだって心臓が縮み上がる思いなのは同じだけどさ」
馬車が林を抜け、陽光の降り注ぐ開けた庭先へと滑り込んだ。
車輪が止まった瞬間、ヴェロニカの背筋を冷たい悪寒が駆け抜ける。
縁側の濃い影からこちらを射抜く白猫の金色の眼光。庭木の根元で低く身を構える黒猫の不穏な殺気。そして柿の木の枝先からチリチリと熱波を漂わせる黄色い小鳥。
三代天災の視線が、寸分の狂いもなくヴェロニカの急所を捉えている。
だが、その張り詰めた死の結界の真ん中から、パタパタと軽やかな足音を響かせて現れたのは――。
「あら、ヴェロニカさん! こんにちは!」
生成りのワンピースに白いエプロンをきゅっと締めた、あの素朴な娘――マノン・デュランだった。
マノンは竹籠を両手で大事そうに抱え、満面の笑顔で小走りに門柱へと駆け寄ってきた。その無防備で邪気のない姿を見た瞬間、背後の神獣たちの殺気があっさりと霧散する。
「お嬢さん、精が出るねぇ。通りがかりにちょいと様子を見に寄っただけなんだが……オーブンの使い心地はどうだい?」
ヴェロニカは努めて豪快な営業スマイルを張り付かせた。マノンは胸の前で両手を合わせ、頬を薔薇色に染めて目を輝かせた。
「もう、最高です! 火の回りが均一で、煙も全く逆流しなくて……本当に素晴らしいオーブンをありがとうございました! ……あ、そうだ、ヴェロニカさん、ちょうどよかった!」
マノンは抱えていた深型の竹籠を、おずおずとヴェロニカの前へと差し出した。
籠の上には、洗い立ての清潔な真っ白の麻布がふわりと掛けられている。隙間から漏れ出してくるのは――秋の冷気を一瞬で吹き飛ばすような、甘く香ばしい、凶悪なまでに食欲をそそる芳醇な熱気だった。
「先日はあんなにお安く譲っていただいたのに、お礼もできなくて申し訳なくて……。今朝、裏山のマルタおばあちゃんから貰ったリンゴで、タルトを焼いたんです。まだほんのり温かいので、もしよろしければ、道中のおやつにでも召し上がってくださいな」
「……え?」
ヴェロニカの思考が、一瞬停止した。
手渡された竹籠。
麻布越しに伝わってくるのは、確かなぬくもり。そして、鼻腔をくすぐる濃厚なバターと焦がしカラメル、そして極上シナモンの香り。
(※マノン視点:お世話になったご近所さんへの、素朴な手作りお裾分け)。
しかし――ヴェロニカの脳内では、まったく別の警報がけたたましく鳴り響いていた。
(ちょう……調停者様からの……手ずからの……直接の賜り物……ッ!?)
神獣を膝に乗せ、世界の理を司る絶対者が、下賤な商人に手渡した「謎の焼き菓子」。
それは慈悲の施しか、あるいは服従を試すための試練か。
ヴェロニカの額から、タラリと冷や汗が吹き出した。
「あ、ありがたく……いただくよ、お嬢さん」
「お口に合うといいのですけれど。道中、気をつけてお帰りくださいね!」
屈託のない笑顔で見送られながら、ヴェロニカは飛び乗った御者台で手綱を力任せに引き絞り、山道を転がり落ちるような猛スピードで領都へと馬車を走らせたのだった。
***
領主館の最上階、完全遮音結界が張り巡らされた領主代行執務室。
重厚な黒檀の執務机を囲んでいたのは、領主代行ローラン、辺境警備隊長ギルバート、副隊長セリア、そして息を切らして駆け込んできた商人ヴェロニカの四名だった。
机の中央に鎮座しているのは、先ほどマノンから手渡された、素朴な竹籠。
掛けられた白い麻布の隙間から立ち上る湯気を見つめ、男たちの顔は土気色に沈んでいた。
「……ヴェロニカ。もう一度言え」
ローランが、震える指先で眼鏡を押し上げながら低く問う。
「あのお方が……自らの手で、これを貴様に手渡したのだな?」
「ああ、そうだよ」
ヴェロニカは長椅子に腰を落とし、手拭いで額の汗を乱暴に拭った。
「『先日はお安くしていただいたので、焼き立てをどうぞ』ってね。……見た目はただのリンゴの菓子さ。だが、漂ってくるこの匂い……尋常じゃないよ。魔力を持たないあたしですら、嗅いだだけで頭の芯が痺れそうになる」
「調停者様からの賜り物……!」
ギルバートが、腰の長剣の鞘を握り締めながら唸った。その巨躯は、かつてない緊張にガチガチと震えている。
「ローラン様、これは一体何を意味する儀式なのでしょうか……!? 我らの献上品に対する返礼か? それとも……領主の忠誠を試すための『踏み絵』か……!?」
「あるいは、毒殺の宣告かもしれません……」
セリアが青白い唇を震わせ、胸ポケットの胃薬を握りしめた。
「あのお方の領域に踏み込みすぎた人間に対する、無言の警告……口に含んだ瞬間、全身が凍結するか、業火に焼かれて消滅するような、神話級の呪詛が込められているのでは……!」
「落ち着け、推測で動くな」
ローランは机に両肘をつき、鋭い藍色の双眸で竹籠を凝視した。
知性派として鳴らす彼の冷徹な頭脳が、あらゆる可能性を天秤にかける。
拒絶して破棄するなど論外だ。もし神獣たちの主の贈り物を冒涜したと知られれば、領都はその日のうちに地図から消える。受け取り、食さねばならない。
だが、安易に領主代行である自らが口にして倒れるわけにはいかなかった。
「……毒味を行う。ギルバート、誰か覚悟のある者を呼べ」
「はっ。すでに呼んでおります」
ギルバートが扉に向けて小さく合図を送ると、一人の老練な兵士が執務室へと静かに足を踏み入れてきた。
名を、バルツ。五十代半ばの古参兵だ。
かつて北方戦線で魔獣の奇襲を受け、右腕の筋肉を断ち切られて以来、慢性的な激痛と魔力毒の後遺症に苦しみ、前線を退いて衛兵の任に就いている男だった。
バルツは机の上の竹籠を見つめ、静かに膝を突いた。
「ローラン様。我が命、フォレスト領の盾となるならば、いささかの惜しみもございません」
「すまない、バルツ。領民のために、その忠義を頼む」
ローランが重々しく頷き、セリアが震える手で竹籠の麻布をそっと引き剥がした。
――ふわり。
その瞬間、執務室の空気が一変した。
立ち上ったのは、殺気でも毒気でもない。
黄金色に煮詰められた甘酸っぱい果実の芳香、サクサクに焼き上げられたバターの香ばしさ、そして鼻腔の奥を優雅に撫で上げる、気品あふれる極上シナモンの清涼感。
籠の中に並んでいたのは、見事なまでに美しい黄金色のリンゴタルトだった。
幾重にも重なったパイ生地は芸術品のように繊細で、薄切りにされたリンゴが薔薇の花びらのように整然と敷き詰められている。表面を覆う果汁シロップの照りは、まるで朝露を宿した宝石細工のようだった。
「な……なんて、美味そうな匂いだ……」
歴戦の兵士であるバルツの喉が、思わずごくりと鳴った。
セリアが銀のナイフでタルトの一切れを慎重に切り分ける。サクッ、と耳朶を打つ極上の破壊音。
銀の小皿に乗せられた一切れが、バルツの前に差し出された。
「……いただきます」
バルツは死を覚悟した眼差しで、フォークをタルトへと突き刺した。
ザクッと心地よい手応えとともに、リンゴの果肉とパイ生地をすくい上げ、口の中へと運ぶ。
執務室の全員が、息を止めてその瞬間を見守った。
ローランの指先が机に食い込み、ギルバートが抜剣の構えを取る。
倒れるか。血を吐くか。それとも氷漬けになるのか――。
しかし。
バルツの咀嚼が始まった瞬間、室内の空気が奇妙に歪んだ。
「――っ!?」
バルツの双眸が、限界まで見開かれた。
咀嚼の動きがピタリと止まり、次いで、狂ったような勢いで口元が動き始めた。
ハフッ、ハフッ、サクサクッ!
咀嚼音が部屋に響く。バルツの喉仏が大きく上下し、塊が胃の腑へと落ちていった。
その直後だった。
――ボワッ!
信じがたい光景が起きた。
バルツの全身から、淡く神聖な黄金色の光の粒子が、湯気のように噴き上がったのだ。
魔力光!? いや、それよりも遥かに純粋で清らかな、絶対的な浄化の波動。
光の粒子はバルツの右腕――長年、魔獣の毒に侵されて黒ずみ、固く強張っていた古傷の痕跡へと集束していく。
「あ……あ、あああ……っ!?」
バルツが掠れた悲鳴を上げた。
見れば、包帯の隙間から覗いていた黒ずんだ皮膚が、まるで朝日を浴びた残雪のように急速に元の健康的な肌色へと戻っていく。引き攣れていた筋肉が滑らかに解け、十数年間ピクリとも動かなかった右手の指先が、スッと自然に開閉した。
「う……動く……!? 痛みが……ない……!? 身体が、信じられないほど軽い……っ!!」
歴戦の老兵の目から、ボロボロと大粒の涙が零れ落ちた。
十数年ものあいだ、夜も眠れぬほどの激痛で彼を苛み続けていた魔力毒の後遺症が、たった一口の菓子によって、完全に、跡形もなく消滅したのだ。
「な……っ!?」
ローランが椅子を蹴立てて立ち上がった。
「バルツの古傷が……治っただと!? 教会の大司教が総出で儀式を行っても治せなかった、あの壊死毒が……!?」
「隊長……ローラン様……!」
バルツはその場に崩れ落ち、皿に向かって額を擦り付けた。
「美味い……美味すぎます……! こんな美味いものを食べたのは生まれて初めてだ……! 胃の底から、温かい光が全身を駆け巡っている……! 毒などではない、これは……これは神の奇跡だ……ッ!!」
部屋が、騒然となった。
セリアが呆然とフォークを見つめ、ギルバートが息を呑む。
ローランは震える手で、残りのタルトの一切れを自ら手に取った。
「ローラン様、危険です!」と止めるギルバートの声を、ローランは鋭い手振りで制した。
「毒ではないことは、バルツの身体が証明している。……確かめねばならん。我々が、何を相手にしているのかを!」
ローランは覚悟を決め、タルトの一片を口の中へ放り込んだ。
続いて、恐る恐るセリアが、ギルバートが、そしてヴェロニカが、それぞれ小皿からタルトを口へと運んだ。
――ッ!!!!
四人の脳天を、同時に雷光が貫いた。
(な……な、なんなのだ、この味は……っ!?)
ローランの理性が、一口目で粉々に粉砕された。
サクサク、ハラハラと舌の上でほどけていくパイ生地。その香ばしさとバターの芳醇なコクが広がった直後、紅玉リンゴの鮮烈な甘酸っぱさが津波のように口内を満たす。
下煮されたリンゴのとろけるような甘みと、上に並べられたリンゴのシャキシャキとした瑞々しい歯ごたえ。
そして、鼻腔を駆け抜けるシナモンの高貴な清涼感が、すべての甘味を完璧な気品へと昇華させていく。
暴力的なまでの美味。貴族として王宮のあらゆる豪華絢爛な料理を口にしてきたローランですら、これほどまでに細胞の一つ一つが震えるような美味を味わったことはなかった。
だが、真の衝撃はその直後に訪れた。
嚥下した瞬間――胃の腑に落ちたタルトのかけらから、清冽な波動が解き放たれた。
ドクンッ、とローランの心臓が跳ねる。
ここ数週間、連日の不眠不休の政務と心労で、鉛のように重く淀んでいた頭の奥の鈍痛。
胃の奥をキリキリと締め上げていたストレスの痙攣。
過剰な魔力操作によって体内の回路に蓄積していた澱のような魔力毒。
それらのすべてが――まるで初夏の清流に洗われるかのように、一瞬にして、跡形もなく消え去ったのだ。
「あ……」
隣で、セリアがトロンとした表情で息を漏らした。
彼女の土気色だった頬に、見る見るうちに瑞々しい桜色の赤みが差していく。常に胃を押さえていた左手がだらりと脱力し、濁っていたヘーゼル色の瞳が、生まれたての赤子のように澄み渡っていく。
「胃が……痛くない……? 首の凝りも、肩の重みも……全部消えている……!?」
「おおお……っ!」
ギルバートが自らの両腕を見つめ、唸り声を上げた。
歴戦の傷跡が疼いていた関節から、痛みが完全に引いている。それどころか、体内の魔力循環がかつてないほど滑らかに活性化し、全盛期以上の力が全身にみなぎっていた。
「全身の疲労が……跡形もなく消えている……!?」
ヴェロニカもまた、四十路の痛む腰を手でさすりながら、信じられないといった顔で叫んだ。
「なんだいこれ!? 羽が生えたみたいに体が軽いよ! 十歳若返ったんじゃないかい!?」
静寂が、再び執務室を支配した。
だが、それは先ほどまでの恐怖の静寂ではなかった。
人知を超えた圧倒的な奇跡を目の当たりにした者たちによる、絶対的な脱力と敬虔の沈黙だった。
ローランは震える指先で、空になった銀の小皿を見つめた。
皿の上には、きび砂糖とシナモンの琥珀色の粉が、微かに残っているだけだ。
だが、自分の体内には、確かに今、世界最高の活力と清らかな魔力が満ち満ちていた。
「……これは、菓子ではない」
ローランの口から、掠れた、畏怖に満ちた声が零れ落ちた。
「リンゴと小麦の皮を被った……国宝級の霊薬そのものだ……」
ローランは机に手をつき、ゆっくりと天を仰いだ。
眼鏡の奥の瞳には、かつてないほどの戦慄と、そして狂信に近い敬意が宿っていた。
「神獣を使役する調停者……いや、違う。あのお方は、ただ魔獣を従えるだけの存在ではない。触れるものすべてを浄化し、傷ついた魂を癒やし、万物をあるべき平穏へと還す……現世に降り立った『神託の巫女』そのものだ……!」
「巫女様……!」
ギルバートとセリアが、息を呑んでその言葉を反芻した。
もはや疑う余地などなかった。
凶悪な神獣たちが牙を抜かれ、膝の上で喉を鳴らす理由。
あの平屋に足を踏み入れた者が、誰も傷つくことなく生還する理由。
あのお方は、世界を滅ぼす災厄たちすら自らの神徳によって包み込み、癒やしている至高の存在なのだ。
「ヴェロニカ」
ローランが、研ぎ澄まされた視線を女商人へと向けた。
「あのお方は……マノン様は、この奇跡の霊薬を何と言って渡されたのだ?」
「え、ええと……」
ヴェロニカは冷汗を拭いながら、記憶を絞り出した。
「『オーブンをお安く譲っていただいたお礼に』って……。道中のおやつにどうぞ、と……」
「なんと無欲な……! 金貨数百枚を積んでも手に入らぬ奇跡の神薬を、中古オーブンの礼として気安く下賜されるとは……!」
ローランは感動に打ち震え、胸元を強く握りしめた。
「我々の誠意は通じたのだ。あのお方は、我らが差し出したオーブンを快く受け入れ、その返礼として、この領地に計り知れぬ神徳をお分けくださった……!」
ローランの胸の中で、調停者マノンに対する認識は、もはや「恐るべき爆弾」から「絶対に怒らせてはならぬ至高の守護聖女」へと、完全に昇格を遂げていた。
あのお方の望むものは何か。あのお方が次に求める平穏とは何か。
領主として、領民すべての総力を挙げて、あのお方のスローライフを完璧に支え抜かねばならない。
ローランは毅然とした表情で机の書類を整え、ヴェロニカに向き直った。
「ヴェロニカ。マノン様は、何か他に仰っていなかったか? どんな些細な独り言でも構わない。あのお方が日々の生活で不便を感じておられるような兆候はなかったか!?」
領主のあまりの気迫に圧されながら、ヴェロニカは顎に指を当て、去り際のマノンの姿を必死に思い出した。
そして――ふと、ある一言が脳裏に蘇った。
「……そういえば」
ヴェロニカが呟いた瞬間、室内の全員の視線が彼女へと突き刺さった。
「帰りがけにね、お嬢さんが縁側に戻る時、板を踏むたびに『ギシッ、ギシッ』と音が鳴っていたんだよ。それで、お嬢さんが苦笑いしながら言ってたのさ。『縁側の板がギシギシ鳴るから、踏むたびに猫たちが起きちゃうのよねぇ』ってね……」
その瞬間。
領主代行執務室の空気が、再び凍りついた。
「……何、だと……?」
ローランの眼鏡の奥の瞳が、見開かれた。
神獣たちの安眠が。
調停者様の静寂が。
床板の軋みという、あまりにも俗世的で、そして致命的な欠陥によって脅かされている――!?
「一大事だ……!!」
ローランは机を力任せに叩いて立ち上がった。その顔には、領地の存亡を賭けた新たな戦いへの、凄まじい決意が漲っていた。
「神獣フェンリルとキマイラの安眠が妨げられているだと!? もし床の軋み音で眷属たちが神経を尖らせ、あのお方の睡眠が妨げられでもしたらどうする気だ!! すぐに領内最高の職人を派遣しろ! 寸分の狂いもない、絶対に軋まない最高の床を作れる者を、今すぐ連れてくるのだ!!」
「「ははっ……!!」」
領主館の首脳陣が新たな「忖度任務」へと狂奔し始めたことなど、露知らず。
秋晴れの山奥の平屋では、マノンが縁側に腰掛け、残りのタルトを食べながら、足元で丸くなる猫たちを優しく撫でていた。
「ふふ、やっぱり自分で焼いたタルトは美味しいわねぇ。ヴェロニカさん、喜んでくれたかしら」
穏やかな木漏れ日の中、マノンの呑気な呟きが、どこまでも長閑に青空へと溶けていくのだった。




