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■■ 28 ■■
場面は再び摩天楼の屋上にて。
夜空に薔薇のごとく咲いた青い閃光に照らされながら、見上げること……、しばらくすると、スッ――と閃光は消え始めた。
すると、そこには、
――フワァッ……
と、夜空に浮かぶように、真ん丸とした月の姿があった。
「え? う、ウソ……?」
日本刀を手にしたままキョトンとする賽賀忍と、
「は、外れちまった……?」
投てきを終え、煙草を咥えながら碇賀元もポカンとしていた。
そんな彼らの前――、そこには、投てきの瞬間まで賽賀から妨害を受けながらも、ライフルを月に向かって構えていた妖狐・神楽坂文の姿があった。
すなわち、寸でのところで妖狐の放った弾丸が――どうせ妖力を用いた弾丸ではあろうが――棍棒に命中し、その弾道を逸らすとともに起爆させたのだろう。
碇賀元の投てき能力もとんでもないものであるが、光速の3分の1ほどという凄まじい速度で月を目がけて飛翔する棍棒に命中させた妖狐も、神がかった狙撃である。
そのようにしていると、
「――がはっ!!」
と、吐血とともに、仰向けに崩れ落ちたのは碇賀元であった。
「元!」
「あ、ああ……、ゴフッ!! ……分かってるって」
駆け寄った賽賀に、碇賀が再び吐血し、答える。
「貴様たち、これは、もしかして――」
「あ、ああ……、想像の通り、さ……、狐……ガハッ!!」
何が起きたか悟った妖狐に、碇賀の代わりに賽賀が答える。
「ええ……。投げ手以外には伝えてなかったけど、今回の遊興、もう一つ条件があってね、狐さん」
「……」
ゆるりと賽賀の方を見る妖狐。
賽賀は続けて話す。
「棍棒を投げる投てきに成功――、つまり、月に命中させた場合は、“投げる会”が発表したように、投げ手には賞金が当たるだけですむ。その逆に―「――外した場合は、“こうなる”……ということ、か……」
賽賀の話す途中の言葉に、妖狐が被せて言った。
「……ええ。そのとおり。棍棒は、このハロウィンに強力な魔動力を発動する代わり、投げ手の命か、月のどちらかを消費する……。――だから、アナタの狙撃によって外した元は、……このまま死ぬことになるわ」
「……」
賽賀の目がジッ……と、こちらを、妖狐の方を見た。
重い空気が漂う中、
「――まっ、そういうことさ……、ヒィ、ヒィ……! いちおう、俺も、そいつは承知の助の上だわっ……、ヒィ、きっつ……!」
息を苦しそうに、碇賀が答えた。
そのようにしていると、
「――おい、ガー!! てめ、何やって――」
との声とともに、怪奇調査機関室長の松本清水子と、
「が、ガーさん!?」
「い、碇賀さん!? だ、大丈夫ですか!?」
松本の部下の零泉円子と黒桐廉太郎も、駆けつけるように現れた。
また、慌ただしくも、
「おい! 化け物、棍棒はどうしたのだ!?」
「ふ、文さん! い、碇賀さんも、大丈夫ですか!?」
と、綾羅木定祐と上市理可の二人もやって来た。
「こ、これはどういうことなの? それに、棍棒は、――」
状況を問おうとした松本に、
「――ああ、棍棒のことなら、大丈夫だ……。見て分かるとおり、月は無事だ。寸でのところで棍棒を破壊――、投てきは阻止させてもらった」
妖狐が夜空に浮かぶ満月を指し、とりあえずのところ報告した。
そんな中、
「ごめんね、元……」
「ん、あ……?」
賽賀忍が、倒れていた碇賀元の半身を少し抱えて起こし、スッ……と口を寄せて接吻を交わしていた。
「……ありゃ? 月に当てんの、失敗しちまったけど、いいの……?」
「ま、いいわ」
キョトンとする碇賀に、賽賀は少し微笑して答えた。
そのまま、賽賀は立ち上がって妖狐たちの方を見た。
「アンタは、何者なの? 碇賀に棍棒を投げさせるように仕向けたのは、アンタなの……?」
松本が賽賀に尋ねるも、その賽賀は「……」と無言で一瞥したかと思うと、ゆっくりと宙に浮いた。
「お、おい!」
松本が呼びかける中、
「ちょっち、めんごね♪ 狐さん、あとで港の方に来て――」
「ふむ?」
「そこで、委員会より、“月に棍棒を投げる会”より、少し話をさせていただきます。それでは――」
賽賀はそのように告げるとともに、忍術のごとくか――煙幕に紛れるがごとく、超現実的に夜の空に消えてしまった。
その様子を、「……」と、妖狐・神楽坂文もただ無言で見るより他なかったが……
そのように賽賀忍が消えてしまったあと、松本たちは倒れた碇賀元のそばに寄り添った。
「おい、ガー! 何やってんだ、てめえ?」
「ちょっ!? 怪我人すよ、室長」
胸倉を掴まんとする勢いの松本に、黒桐が慌てる。
「おっほ……! いやぁ、何つうかさ? ちょっち、そのまんまのノリでさ、ゲフッ……! こ、棍棒の投げ手を頼まれちまったもんだからさ……ヒィ、ヒィ……。ま、人間、何でもやってみるもんだと思っちまってな……、ヒィ、ヒィ……」
「は? てっめ、ふざけん―「――そうだ、クズめ。貴様のおかげでな、我々、大変だったのだぞ? この低級ヘビースモーカー」
松本が怒鳴りかけたところに妖狐が割り込み、碇賀の頬をペチペチと叩いた。
「「だから、怪我人だっつの!」」
定祐、上市のつっこみが入りながらも、
「ハッ……! そ、そいつは、スマンねい……、ヒィ、ヒィ……」
「スマンで済むか。貴様には、月に代わってお仕置きだ、この悪いヤツめ。そうだな、さしづめ、この松本清水子の尻で貴様の顔面を押しつぶしてやる。ハ〇キルーペのようにな」
「何言ってんだ? てめ?」
「ゴッフ!! な、何だい、そりゃ? まぁ、松もっちゃんのケツか……。微妙だな、ヒィ、ヒィ……」
「は? 何つった? おっま、ぶちころ―「「ちょっ、室長! 怪我人すよ! 怪我人!」
碇賀にキレる松本を、黒桐と零泉の二人は制止した。
「まっ、とにかくよ……ゴッフ!! わりぃけど、俺、もうちょいで死ぬわ……ヒィ、ヒィ……。たぶん、事情聴取とかしたいとこ、申し訳ねえけどさ……」
「碇賀……」
定祐と碇賀は目が合い、また、
「が、ガーさん……!」
零泉が心配するように寄り添った。
「……すまんけど、誰かさ? 最後に火つけてくれよ……、煙草」
「は、はい」
碇賀の頼みに、黒桐が煙草に火をつけてやった。
そのまま碇賀は愛用のアイスマウンテンを咥え、煙が漂う。
「ふぅ……ゴッフ!! ……ヒィ、ヒィ……、と、とりあえず、死ぬ前に最後の一服させてもらうわ」
「ああ……」
むせる碇賀に、松本が頷いた。
その横で、また狐のヤツが言った。
「おお……! そしたら、ついでに冥途の土産だ、碇賀元よ。せっかくだから、そこの更年期の尻で顔面騎乗でもしてもらえ。遠慮などせずに」
「だ・か・ら、マジで殺すぞ? 狐、てめぇ? てか、しつけーよ、何のこだわりだよ?」
妖狐の提案に松本がキレつっこみする中、「は、ハハ……」と碇賀は苦笑いした。
そうして、煙草の煙が漂う夜空――、眺めると、真ん丸とした月が浮かんでいた。
「ふぅ……」
碇賀元は煙を吐きながら、ふと手を伸ばしてみた。
指先でつまんで見た月は、確かにミニチュアのように小さかった。
もしかすると、世界の創造者たちにとって、この世界もミニチュアのようなものなのかもしれない……
そのように最後思いながら、ゆるりと腕を下ろし、碇賀元は息を引き取ってしまった――
──続く




