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■■ 27 ■■
時刻は23時を過ぎて、名古屋駅はツインタワーの屋上にて――
碇賀元と賽賀忍の二人の姿があった。
「元、ちょうど時間よ」
エロセーラー服姿の賽賀忍が告げる。
「おう、いいねい。物事、何でもそうさ。早すぎてもダメ、遅すぎてもダメってこった! 優秀だねい、僕ちゃんたち」
「ごめん。その僕ちゃん、ウザい」
「はい、しぃましぇん」
学ラン姿の碇賀元は呑気そうに、御用達の煙草、アイスマウンテンに火をつけた。その片手にはもちろん、“棍棒”を構えながらであるが。
「ほんで、狐さんは……?」
「うん……。来るわよ」
二人が察したように交わした、その時、
「――追いついた、でござるよ♪」
と、どこからか声がした。
「――ござる?」
ござる言葉に反応する賽賀。
その横で、
「あ~あ……。狐さん、来ちゃったよ」
「元、いいから、準備しよっか?」
ヘラヘラと苦笑いする碇賀に、賽賀が無表情で催促する。
二人が見た先――そこには、いつ着替えたのか、青い猫型ロボット風のワンピースを着た安っぽい仮装姿に、ゴルゴ13愛用のライフルを持った妖狐・神楽坂文の姿があった。
「――さて、どうする? 投げるのか? 碇賀、そして賽賀とやらよ……?」
美しい女の、しかしシュールな仮装姿の妖狐・神楽坂文が二人に問う。
「プッ! おいおい! 笑っちまうじゃねえか、狐さん!」
碇賀は咥えた煙草を落としかける。その横からは、「元――」と一言、ちゃんとしろと言わんかのごとく、賽賀にポンポンと肩を叩かれるながらであるが。
気を取り直して、
「――まあね、せっかくここまで来ちまったからさ。どっちにしろ、俺が投げたところでさ、たいしたことじゃないっしょ?」
碇賀は再びアイスマウンテンを咥えながら答えた。
「ふむ。月に棍棒を投げ、その挙句、破壊することが大したことではないとは? ……なかなか言うではないか、貴様」
「まあねい、たかだか人間ってのもクソ袋でさ。ことあるごとに物語をつけて無理くり意味づけしてるだけで、大した意味もないのよ? 社会や、文明、宗教に歴史、……それから人生ってヤツもな」
「……」
話す碇賀に、妖狐はジッと対峙する。
「――ようはさ、ただのエンタメよ? 狐さん。ハリウッドの脳筋エンタメ映画に大した意味なんかないしょ? 主人公どうしの愛とか、敵への憎しみつったって、んなもん、ハンバーガーのピクルスやソーセージのザワークラウト程度っしょ」
「あらん? ワタシ、ザワクラだけでイケるけど」
「はひっ――!?」
ここで、会話に入ってきた賽賀に碇賀はガクッ――と、調子を狂わさせられる。
「ちょっ、賽賀たん……」
「めんごめんご♪ てか、あんまし悠長なことできないわよ、元」
「うい。そうだったねい――」
呑気な話はそこそこに、再び賽賀が仕切りなおす。
「――てなわけでよ、狐。俺にとっては、この世はエンタメ程度のものって考えてっからさ……、この馬鹿げたエンタメの極みのハロウィンにちなみ、棍棒は投げさせてもらうぜ」
「ふむ。投げる理由など、人間たちのことなど私にとってどうでもよいが、依頼であるかぎりは阻止させてもらおう」
対峙する妖狐と碇賀。
両者の間に漂う、静かな緊迫感――
碇賀は煙草を咥えつつ棍棒を構え、その碇賀の前には賽賀が日本刀を持って出て、妖狐との間に入って碇賀を守る。
「元、準備して」
「ういっしゅ」
指示する賽賀に、碇賀はスッと棍棒を構える。
その表情は、「ういっしゅ」などとふざけた返事をしながらも、先ほどとのヘラヘラ顔とは打って変わっており、ただならぬ気配がしていた。
「まったく。――では、仕方ないか」
妖狐・神楽坂文はそう言いながら、オーラとともに魔界植物を発動する。
縦横無尽に伸びる蔓たちが碇賀と賽賀を捕縛しにかかるが、しかし、
――ザンッ……!!!
と、一瞬のことか――! なんと、それら全てを電光石火のごとく! 賽賀が日本刀で切り落としてしまった!
さらには、その日本刀はただの日本刀ではなく、その切った先には時空のゆがみか――まるで泥交じりのタールのように黒いドロドロの空間が生じており、その中に飲み込まれる形で、魔界植物は消失してしまう。
同時に、賽賀の一刀両断が妖狐に襲い掛かり、
――キィン……!!!
ぶつかり合う金属音の中、妖狐はライフルで受け止めるも、黒いドロドロの空間に包まれてしまう。
「くっ!?」
妖狐は思わず声が出た。
魔力か呪術か、思った以上の力である。
押され気味ながらも、何とか賽賀の術に抗おうとした、その時、
「――ガハッ……!?」
と、妖狐は再び吐血してしまった。
頭髪はすでに銀色と灰色交じりになり、顔にもヒビが走り、妖力の消費のダメージが大きいことが分かる。
その間も、妖力は緩み、妖狐は黒いドロドロに取り込まれて行ってしまう。
「ぐっ……! 貴様……!」
「めんごね、狐さん……。いくらアナタでも、その弱体化した状態じゃ、この術は解けないわ」
「ほんと、狐さん、あんま無理しなさんなって! 何でもそうさ、無理すんのは体に悪いぜ?」
「元、アナタはちゃんと集中しなさい」
「う、うい……。もう、僕ちゃん怒られるの怖いよぅ……」
賽賀に怒られ、おふざけ半分に縮こまる碇賀。
しかし、
「――さて。おふざけもここまでだ……」
碇賀はスッ――と姿勢を正し、ふりかぶる動作に入った。
過去の記憶が――子供時代、学生時代から、怪調で働いてた時のシーンなどがまるで安くさい走馬灯のように過りながらも、それら余計なものは煙草の煙に流す……
「うっし……」
碇賀元は、いざ投てきしようとした――
その時、
――バリンッ……!!!
「えっ――?」
と、まさかのことか――、妖狐の身体をすでに半分飲み込んでいた黒いドロドロがガラスのごとく割れ、破られていた。
「なっ……? 術を破っただと……!?」
動作を止め、碇賀も思わず驚いてしまう。
その間も、
「棍棒を捨てろ! 碇賀!」
「させないわ! 狐さん!」
突破しにかかる妖狐とそれを阻止する賽賀の日本刀がぶつかり合う。
日本刀とライフルがつばぜり合いになった状態で、賽賀が叫ぶ。
「元! 投げて!」
「しゃあないね……。じゃ、行きますかい――」
碇賀元は煙草を咥えなおし、よっこらしょっと構える。
そして、
「うぅぅーらぁぁああああああ!!!!!」
と割れんばかりに叫び、振りかぶって棍棒を夜空に、満月に目がけて放った。
*****
同じころ、駅前周辺の地上にて――
ツインタワーの屋上から、ICBM(大陸間弾道弾)のように――いや、それよりもはるかに超高速で月へと伸びる軌跡が見えていた。
ついに棍棒が投げられた光景に、騒いでいたハロウィンの群衆も静まっていた。
「う、嘘だろ……?」
「せ、先生……、ふ、文さんは、大丈夫なんですか……?」
眺めながら、定祐と上市は愕然とした。
投げられた=(イコール)棍棒の投てきの阻止に失敗してしまった可能性が、限りなく高い。
周りにいる野次馬たち――警官の仮装のビッチ風女子たちや、ゾンビ武将姿の男たち、それからシロ〇ワールを頭に載っけたオッサンも、「ありゃぁ……」などと、ポカンとしていた。
そうしているうちに、上空より、
――ボワッ……!!!
と、音はしなくも、強烈な閃光にその衝撃が伝わってくる感触がした。
「せ、先生……!?」
「なっ……!? 何だありゃ……」
二人が驚いた先――
そこには満月のあったはずの空に、青い薔薇のごとき閃光が広がり、輝いていた。
──続く




