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再び、場面は駅前の地上の方に戻る。
「――くっ! と、通してくれんかねっちゃ!」
「と、通してください!」
綾羅木定祐と上市理可の二人は碇賀たちを追いかけようとするも、野次馬に阻まれて進めなかった。
そんな彼らを嘲るように、
「はっ! じゃあ、先行かせてもらうぜ!」
「元、私たちも急ぐわよ」
碇賀元と賽賀忍は人ごみなどものともせず、颯爽と駈け出していた。
そんな中、
「――ちっ、仕方がない」
と、妖狐・神楽坂文がしびれを切らしたように舌打ちし、妖狐らしく軽く宙に浮いた。
「き、狐!」
「ふ、文さん!」
「ふむ、後は私に任せておけ。いちおう、貴様たち低級動物なりに頑張った方であろう」
妖狐は定祐と上市の二人にそう答えると、そのまま宙を舞って碇賀と賽賀を追う。
その先では、
「――あっりゃ? おいおい! 狐さん追っかけてきてるぜい!?」
と当然、碇賀も追ってくる妖狐に気がつき、その速さに焦った。
「まあ、そうでしょうね――」
賽賀が焦る碇賀に冷静に答えつつ、二人は走り続ける。
大名古屋ビルヂング、名古屋駅のツインタワーが見え、二人の目の前には駅前の大きな道路の横断歩道が広がりながらも、赤の歩行者信号が阻んでいた。
このまま、“普通”であれば妖狐が追いついて彼らを捕まえるであろう、その時、
――ザッ……!!!
と、なんとあろうことか! 碇賀元と賽賀忍は跳躍とともに宙を舞っていたのである! それも、忍者のように華麗に。
そして、それも束の間、
――シュタッ……
と、騒ぐ群衆鑑賞の中、碇賀と賽賀は何でもないように静かに着地し、再び超人的に駅前を駆け跳ねる。
さらに続いて、
「元、行くよ!」
「うっげ!? マジで!? まだ台湾ラーメン、この辺にあんだけど」
消化しきれてないアピールをして嫌がる碇賀を前に、賽賀が“何か”の合図をした。
次の瞬間、
――シュッ……!!! …………スタッ……
「――!?」
と、彼らが再び跳躍した先に、妖狐もさすがに驚かされた。
再び信じがたいことに! なんと彼らが足をつけたのはビルの壁面――それもツインタワーの壁面であったのだ!
そのまま、二人はビルの壁面をまるで100メートル走でもするかのように、人間離れしたように駆け出した!
すぐ下の名古屋駅前では、
「え?え……!? 何アレ!?」
「ちょっ! ハロウィンの演出か何か!?」
「めっちゃ登ってるし!!! 映画か!!!」
などと、映画顔負けの光景に当然のごとく雑踏が騒いでいたが。
***
ここで、碇賀と賽賀の方に視点を変える。
碇賀は“走り”ながらチラッと振り向くと、やはり、自分たちの“後ろ”には追いかけてくる妖狐の姿があった。
「おいおい! 追っかけてくるねい、狐さん! ああちかれた、ヒイ~、ヒイ~ッ……!」
まさに垂直200メートル走というべきか、碇賀は音を上げたかった。
その隣では、何ともない表情で賽賀が“走って”おり、
「あともう少しよ。頑張りなさいよ」
「だってよ? 考えても見ろって話よ? 200メートル走だぞ? それも重力に逆らっての、ヒィヒィ……! お、俺たちオッサン、オバサンには、キツ過ぎる運動じゃなくないか?」
「ちょっと、私までオッサン、オバサン扱いしないでくれる」
「い、いいじゃねえか。オバサンヒロインで、ヒィヒィッ……!」
疲れたという割には碇賀はダラダラ喋る。
そのように走っていた時、
「――うっぷぅ……!」
タイミング悪く、碇賀がゲップをした。
「どうしたの?」
「ああ、やっぱりさっきの台湾ラーメンと餃子な! すっさまじいニンニク臭とニラ臭だわ……! アンタも大丈夫か?」
「まあ、多分私もヤバいかもね」
「ほっほう……! ロリエロセーラー服の賽賀忍ちゃんから漂うニラ臭、ニンニク臭か……。ちょっとした匂いフェチやプレイだぜ」
「やめなさいって」
冗談を言う碇賀を賽賀は小突く。
そうしながらも、
「――てか、ちゃんと走って。狐さんに追い付かれるよ」
「んあ? そうだな」
と、後ろから――いや、下からは妖狐・神楽坂文が追いついてきており、その距離はどんどん縮まる。
そんな碇賀と賽賀の二人は、屋上まであと30メートルほどの所まで迫る。
その最中には特に気に留めなかったが、この高さまで来ると、見えてくる“世界”は実に爽快なものだ。
“前方”を見るに、都市の灯りにぼやかされながらも澄んだ秋の夜空、そして、真ん丸とした満月が視界に入ってくる。
また、そのまま顔をひねって“後ろ”を、すなわち普通の平衡感覚でいうところの下を眺めるなら、地上約200メートルからの――高所恐怖症なら卒倒してしまうような景色が広がっていた。駅前を行き交う雑踏や駅前道路、ロータリーを行き交う車のランプが豆粒のように見えるほどの高さであり、常人であれば死の恐怖を感じるだろう。
「あ、名古屋城だ!」
「おいおい、アンタも、そんなもんどうでもいいだが! ヒィ、ヒィッ……! ああ、きっつ! 死んじまう!」
ライトアップされた名古屋城に気がつく賽賀と、“そんなもん”呼ばわりしながらゼェゼェ息を切らしかける碇賀。
二人は何とか、ツインタワーの屋上まで登り切った。
──続く




