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26

   ■■ 26 ■■ 



 再び、場面は駅前の地上の方に戻る。


「――くっ! と、通してくれんかねっちゃ!」


「と、通してください!」


 綾羅木定祐と上市理可の二人は碇賀たちを追いかけようとするも、野次馬に阻まれて進めなかった。


 そんな彼らを嘲るように、 


「はっ! じゃあ、先行かせてもらうぜ!」 


「元、私たちも急ぐわよ」


 碇賀元と賽賀忍は人ごみなどものともせず、颯爽と駈け出していた。


 そんな中、



「――ちっ、仕方がない」



 と、妖狐・神楽坂文がしびれを切らしたように舌打ちし、妖狐らしく軽く宙に浮いた。


「き、狐!」


「ふ、文さん!」


「ふむ、後は私に任せておけ。いちおう、貴様たち低級動物なりに頑張った方であろう」


 妖狐は定祐と上市の二人にそう答えると、そのまま宙を舞って碇賀と賽賀を追う。


 その先では、 


「――あっりゃ? おいおい! 狐さん追っかけてきてるぜい!?」


 と当然、碇賀も追ってくる妖狐に気がつき、その速さに焦った。


「まあ、そうでしょうね――」


 賽賀が焦る碇賀に冷静に答えつつ、二人は走り続ける。


 大名古屋ビルヂング、名古屋駅のツインタワーが見え、二人の目の前には駅前の大きな道路の横断歩道が広がりながらも、赤の歩行者信号が阻んでいた。


 このまま、“普通”であれば妖狐が追いついて彼らを捕まえるであろう、その時、



 ――ザッ……!!!  



 と、なんとあろうことか! 碇賀元と賽賀忍は跳躍とともに宙を舞っていたのである! それも、忍者のように華麗に。


 そして、それも束の間、


 ――シュタッ……


 と、騒ぐ群衆鑑賞の中、碇賀と賽賀は何でもないように静かに着地し、再び超人的に駅前を駆け跳ねる。


 さらに続いて、


「元、行くよ!」


「うっげ!? マジで!? まだ台湾ラーメン、この辺にあんだけど」


 消化しきれてないアピールをして嫌がる碇賀を前に、賽賀が“何か”の合図をした。


 次の瞬間、

 


 ――シュッ……!!! …………スタッ……



「――!?」


 と、彼らが再び跳躍した先に、妖狐もさすがに驚かされた。


 再び信じがたいことに! なんと彼らが足をつけたのはビルの壁面――それもツインタワーの壁面であったのだ!


 そのまま、二人はビルの壁面をまるで100メートル走でもするかのように、人間離れしたように駆け出した!


 すぐ下の名古屋駅前では、


「え?え……!? 何アレ!?」


「ちょっ! ハロウィンの演出か何か!?」


「めっちゃ登ってるし!!! 映画か!!!」


 などと、映画顔負けの光景に当然のごとく雑踏が騒いでいたが。



   ***



 ここで、碇賀と賽賀の方に視点を変える。


 碇賀は“走り”ながらチラッと振り向くと、やはり、自分たちの“後ろ”には追いかけてくる妖狐の姿があった。


「おいおい! 追っかけてくるねい、狐さん! ああちかれた、ヒイ~、ヒイ~ッ……!」


 まさに垂直200メートル走というべきか、碇賀は音(ね)を上げたかった。


 その隣では、何ともない表情で賽賀が“走って”おり、


「あともう少しよ。頑張りなさいよ」


「だってよ? 考えても見ろって話よ? 200メートル走だぞ? それも重力に逆らっての、ヒィヒィ……! お、俺たちオッサン、オバサンには、キツ過ぎる運動じゃなくないか?」


「ちょっと、私までオッサン、オバサン扱いしないでくれる」


「い、いいじゃねえか。オバサンヒロインで、ヒィヒィッ……!」


 疲れたという割には碇賀はダラダラ喋る。


 そのように走っていた時、


「――うっぷぅ……!」


 タイミング悪く、碇賀がゲップをした。


「どうしたの?」


「ああ、やっぱりさっきの台湾ラーメンと餃子な! すっさまじいニンニク臭とニラ臭だわ……! アンタも大丈夫か?」


「まあ、多分私もヤバいかもね」


「ほっほう……! ロリエロセーラー服の賽賀忍ちゃんから漂うニラ臭、ニンニク臭か……。ちょっとした匂いフェチやプレイだぜ」


「やめなさいって」


 冗談を言う碇賀を賽賀は小突く。


 そうしながらも、


「――てか、ちゃんと走って。狐さんに追い付かれるよ」


「んあ? そうだな」


 と、後ろから――いや、下からは妖狐・神楽坂文が追いついてきており、その距離はどんどん縮まる。


 そんな碇賀と賽賀の二人は、屋上まであと30メートルほどの所まで迫る。


 その最中には特に気に留めなかったが、この高さまで来ると、見えてくる“世界”は実に爽快なものだ。

“前方”を見るに、都市の灯りにぼやかされながらも澄んだ秋の夜空、そして、真ん丸とした満月が視界に入ってくる。


 また、そのまま顔をひねって“後ろ”を、すなわち普通の平衡感覚でいうところの下を眺めるなら、地上約200メートルからの――高所恐怖症なら卒倒してしまうような景色が広がっていた。駅前を行き交う雑踏や駅前道路、ロータリーを行き交う車のランプが豆粒のように見えるほどの高さであり、常人であれば死の恐怖を感じるだろう。


「あ、名古屋城だ!」


「おいおい、アンタも、そんなもんどうでもいいだが! ヒィ、ヒィッ……! ああ、きっつ! 死んじまう!」


 ライトアップされた名古屋城に気がつく賽賀と、“そんなもん”呼ばわりしながらゼェゼェ息を切らしかける碇賀。


 二人は何とか、ツインタワーの屋上まで登り切った。




──続く

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