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「――ああっ……げっふぅ! うっめ……!」
名古屋某所のラーメン屋にて、碇賀元の感嘆の声が響いた。
「台湾ラーメンってさ、名古屋が発祥だってよ」
「ふ~ん」
碇賀の対面、賽賀忍も同じく台湾ラーメンに餃子を食っている。
まさに、ニラの饗宴。
「これで俺たち、ニラ臭くなっちまったな……、げっふぅ」
ゲップをする碇賀。
そのまま、賽賀と目が合った。
「……」
「……」
互いに、見つめ合う形になる碇賀元と賽賀忍。
すると、
「――じゃあ、ニラ臭いキスしてみる……?」
「おっほ、……ニラと煙草のブレンドだぜ?」
誘うような賽賀に、碇賀はクールな顔で交わす。
そのまま、碇賀は変顔のように唇を突き出すと、
「――どぅふっ?」
と、跳ね除けの手を食らって奇声を出した。
「……まあ、投げるまでの、おあずけよ」
「ふぅ……。つれねぇなぁ……」
何がつれねぇのか、やれやれと碇賀はため息した。
煙草の煙を追いながら、
「……快晴だったはずなのに、東京と大阪の方は雲が出てんのな」
「少し、……不自然なところがあるわね。あの、狐さんの仕業かな?」
と、碇賀と賽賀はすでに、今回の天候の変化が妖狐の妖術によるものだと察していた。
「まっ、こっちにとどまって正解だったな」
「ええ……」
グラスを置き、吸い終えた煙草を灰皿に寝かし、二人は椅子から腰を上げる。
「――さって、行きますかね? げっふ……!」
「さっきから、げっぷすんのやめなさい。汚い」
「まあ、勘弁してちょ。屁も我慢してっと体に悪いだろ? げっぷも同じさ、体から出てくるもんは何でも、出すってもんよ」
*****
いっぽう、場面は変わって――
妖狐たち神楽坂事務所の三人は新幹線から何とか脱出し、碇賀たちを追跡して名古屋へと入っていた。
その名古屋は中心部、某コ〇ダコーヒーにて。
「ふぅ……。まったく、大変だったな」
「ほんと、死ぬかと思いましたよ」
コーヒーカップをテーブルに下ろし、綾羅木定祐と上市理可が一息ついた。
先ほどは、妖狐が補助していたとはいえ、走行中の新幹線から飛び降りるという、ジャッキーチェンも恐らく拒否する映画顔負けのアクションをやってのけたのだから、無理もない。
「――ふむ。まったく呑気なこと言いおって、低級動物ども。私の妖力で誤魔化したからよかったものの、本来なら国交省&鉄道会社ブチ切れの激おこプンプン案件だぞ」
「「何だよ、激おこプンプンって。鬱陶しい」」
やれやれと呆れ顔する妖狐・神楽坂文に二人はつっこみつつ、
「……というか、やらせたのお前だろうに?」
「そっすよ。てか、何だろう? 文さんが妖力ケチらなかったら、わざわざ飛び降りて脱出しなくてもよかったんじゃないですか?」
「文句ばかりいうヤツらだ。まあいい、本来なら新幹線から飛び降るなど、厳罰ものの行為だが、事の緊急性が緊急性だ。今回は勘弁してもらおう」
妖狐はそう言って、とりあえずこの話題はここで置いておくことにした。
また、スマホでニュースを、『棍棒を投げる会』についての世間の情報を収集しておく。特に必要はないかもしれないが。
「まったく、呑気に騒ぎおって。仮に月に棍棒が投げられても、大多数にとってはお祭り程度のものなんだろう」
「ふむ。まあ、“死者の祭り”にふさわしいと言えばふさわしいだろうな」
中継を見ながらつぶやく定祐に、妖狐が言った。
「……」
無言ながら上市も、何となくそのような響きは分かるような気がした。
社会というのは――人びとは一見、平和で秩序のある状態を望みながら日々を過ごしているのだが、どこかにタナトス的な要素を内包しているのだろう。
心のどこか、脳の深淵が希求するカタストロフ……
“月に棍棒を投げる”という馬鹿げたイベントでありながらも、そのカタストロフが実現される可能性は、幾ばくかあるのだ。
そのように、コーヒーと、パンにソフトクリームをのっけた某シロ〇ワールをお供に一服している中、
「……ほう」
と、妖狐が“何か”に気がついた。
狐耳をヒョコヒョコさせる妖狐の傍から出てきたもの……、それは緑の蔓植物の形をした、妖術“葛葉”の一部であった。
葛葉の蔓は定祐のノートPCに伸びる。
「ふむ。……やはり、そろそろ絞れ出してきたな」
妖狐はノートPCを開いてやった。
怪調や警察のコンピュータや情報網とリンクしながら、そこには名古屋近辺のマップと、碇賀たちがいる可能性のある予想エリアがいくつか表示されていた。
「――さて、ずいぶん近づいたようだな。ここまで近づいたら、“アレ”を使える」
妖狐はそう言いながら、両手を軽く構えて“何か”を持った。
それは、鉄筋を90度にまげて持ちてを作っただけの単純な道具――地中の水道管から埋蔵金、地下遺跡まで探知することの“できるとされる”、半ばオカルト臭のプンプンするアイテム――ダウンジンであった。
「へ? な、何ですか? その道具?」
「おい、何をしているのだ? そんなダウンジングみたいなものを持って?」
上市はパッと出てこなかったが、さすがに定祐は知っていた。
「ふむ。そのダウンジングみたいなものだ……」
妖狐は答えながら、ダウンジン棒からは水色がかった虹色のオーラが生じ、そのまま床に向かって垂れて言った。
垂れた先にはオーラと同じ色の魔法陣が広がり、水面のように細かく波立っていた。
「な、何かね? これは?」
「ウェーブレット解析……というべきか、産業や研究に応用される信号、波動解析技術があってな、それと同じく、この道具は世に存在するすべての振動情報をとらえ、膨大に重なりあった波を解析、分解して抽出することができる。すなわち、この名古屋と周辺のすべての人間の動きをとらえ、その中から碇賀たちと思しきものをキャッチすることもできなくない」
「「っ――!」」
定祐、上市は声にならず驚いた。
“葛葉”もそうであるが、思った以上にチートな妖術――
ただ、その代償なのか、妖狐の頭髪が金と銀髪まじりになっているようにも見えていたが。
「しかし、だ……。ここまでして、もし碇賀たちを捕まえることができなかったら、あるいは棍棒が投げられたらどうするのだ?」
定祐が、最悪なパターンを聞いてみた。
「ふむ。その時はな……」
妖狐は答えかけながら何やら取り出し、ガチャガチャと組み立てる。
武骨で黒い金属製の各パーツ、それから内部の機械的な機構、そしてスコープと持ち手と、
そう――
「――コイツで叩き落す」
と、妖狐はスナイパーライフルを組み立て、カシャッ! と構えてみせた。
なお、その妖狐の顔を見てみるに、眉毛に海苔のようなものを貼ったかと思うと、眉間を寄せて目をキリっとさせていた、――すなわち、13のつく某劇画スナイパーの“それ”であった。
「プッ……! ちょっ、ふ、文さん、その顔て……」
「何を笑っておるのだ、貴様? せっかくのハロウィンだ。某13のつくスナイパーのマネでもしてみただけだ」
「ったく。何をやっているんだか……」
ふざける妖狐に、思わず軽く吹き出しそうになる上市という、何とも緊張感の抜けた構図に定祐は呆れる。
気を取り直して、
「さて、飲み終えたか。――では、いよいよ対決に向かうか」
妖狐は顔に軽くヒビ割れが生じながらも、健気にドヤ顔をしてみせて言った。
──続く




