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■■ 13 ■■
いっぽう、場所は再び日本時間へと戻る。
三重県の某所、海側の街にて――
場所こそ違えど先ほどの忍者集落と似ている山側の集落の、とある屋敷からレンタカーが出てきた。
「――まったく、ついでに人探しをしてくれとは」
助手席の綾羅木定祐がボヤいた。
先ほど怪奇調査機関の松本から頼まれたように、失踪した可能性のあるエージェントの碇賀元について、助手の上市理可と二人で調査しているところであった。
「でも、偶然でしたよね。その碇賀さんの実家が近くにあるなんて」
「近くにといっても、結構離れているだろに。まあ、東京から見れば近かろうが」
「てか、碇賀さんも忍びの末裔なんですよね」
「まあ、両親は忍びやくノ一の面影なんてとうになかったがな。腹の出たオッサンと母ちゃん化したオバちゃんだったがな」
「ちょっ、何てことを言うんですか……」
そのように話す定祐と上市であるが、先ほどは何をしてきたのかというと、碇賀元の実家を訪ね、両親から事情聴取のようなものをしてきたのである。
碇賀両親たちから話を聞くところによると、失踪したとされるその日の碇賀元の行動はこうである――
朝、碇賀元は切らした煙草を買いに車でコンビニに行ったとのことで、それからパチンコにでも行ってたのか、しばらく帰ってこず、戻ってきたのは昼前であった。それから、急に仕事が入ったと告げると、荷物を持って出ていったとのことである。
ゆえに、碇賀両親も怪調から連絡があって驚いたとのことであり、それは当然であろう。
ちなみにであるが、その際に怪調側は怪奇調査機関と名乗っておらず、架空の機関名を名乗っていた。これは怪奇調査機関自体が機密性や秘匿性の高い機関であり、その存在や名前を公にしていないためである。
「先生は、その碇賀さんと面識あるんですか? てか、碇賀って名前、何か発音が噛みそうなんですけど……」
上市は聞きながらも、“碇賀”との性について若干つっこみたかった。
“碇”とか“碇谷”ならわかる。
エヴァンゲリオンの碇シンジとかまさにそれであり、ちなみにオカルト文脈では“碇”が“石工の定規”――すなわちフリーメイソンとの暗号が込められているとのウンチクがあるのだが。
まあ、その脱線はおいておき、
「まあ、あることにはあるが、軽い面識は程度だのう……」
定祐が答えた。
仕事がら怪調とは協力関係にあることと、元妻の松本が室長であることから怪調には出入りしていることも多く、そこでの面識があるのも自然ではある。
そのように、定祐と上市はダラダラとレンタカーに乗って調査を続ける。
なお、一見すると闇雲に車でクルクル回っているようであるが、実はそうでもなく、現在進行的に怪調とも連携して調査を行っていた。
その怪調側では、VR室――正式には半仮想現実融合型大規模調査室にて、先日と同じく零泉円子が近未来的なVRギアやウェアラブルデバイスを駆使し、また同時に妖狐が貸し出している“葛葉”の力も借りて碇賀の追跡に奮闘していた。
膨大な監視カメラ、道路カメラの情報、それから“葛葉”によってハッキングしているドラレコの情報……、それらから碇賀もしくは碇賀の失踪に関わったと思しき者を追跡しているのである。
「ああ、ダルいのう……」
定祐が呟いた。
「いや、運転してる私のがダルいんですけど……。ちょっと、どっか停まって休憩しません?」
「うーむ……、そうだのう」
長時間の調査に、二人はダレてきていたところ、
――カランコロン♪ カランコロン♪
と、定祐のスマホが鳴った。
「あん? 何かねっちゃ、まったくのう……」
定祐は着信の主が松本清水子であることを確認して顔をしかめた。
仕方なしに、電話に出てやる。
「何かね?」
『何かねって、調査は何か進展あった?』
ぶっきらぼうな定祐に、松本も淡白な様子で聞く。
「いや、とくにこれといって進んではないな」
『ガーの実家で、何か有用な情報は得られなかった?』
「いや、何も。失踪した日の朝、煙草買いにコンビニ行って、昼に戻ってきたらしくてな。そっから急用ができたって出かけてから失踪したっ……て、くらいか」
『ふ~ん……。――で、そのコンビニは行ってみた?』
「いや、行っとらん」
定祐はダルそうに答える。
『は? 一応、行ってみるもんじゃね?』
「何かね? めんどいのう。そんな、コンビニに行ったところで何かあるんかね?」
『さあ。でも、とりあえず行ってみなさいよ。調査対象の行動を辿ってみるって、基本的なことじゃない』
「分かったっちゃ、行ってみるっちゃよ。(……まったく、だったら、アンタらが来いって話だっつんがぜ)」
『は? 何か言った?』
「いや、何も言っとらんちゃよ」
元妻にブーブー文句を言われ、定祐はムッとしながらもおとなしく従うことにした。
***
そういうわけで、綾羅木定祐と上市理可は少し車を走らせ、碇賀が利用した海沿いのコンビニへ立ち寄った。
缶コーヒーやエナジードリンクに菓子などと適当に買いものしたついで、定祐たちは“葛葉”の蔓を用い、駐車場カメラの記録などにハッキング調査を行っていた。
レンタカーの車内で、二人は確認する。
碇賀元の車が映っており、その隣に赤い車が停まった。
赤い車から出てきた女と思しき人物が、窓を開けて煙草を吸ってる碇賀に何やら話しているようにも見える。
「うむ……?」
「せ、先生、これって――」
定祐と上市の表情が険しくなる。
定祐はそのまま、「おい、清水子。この女の車、追跡できるかね?」とテレビ電話状態にしていた松本に頼んでみた。
『ああ。ちょっち、円子ぉー』
画面の中で、松本が映っていない零泉を呼ぶ声が響き、『ういっす』と音源遠く、零泉が応答する声が聞こえた。
「しかし、何で、碇賀さんはこの女の人と喋ってるんですかね?」
「さあな……。単に、かわいい女の子がいたから喋ってみただけなのかもしれんが……」
定祐は適当に答えつつも、“何か”の予感がしていたが……
*****
ここで場面は再び海と時差を超える。
ルーマニアの首都ブカレスト、国民の館の深淵にて――
妖狐・神楽坂文は超人ガーディアン部隊の長にして貴族の末裔の男、スタン・エミネスクと話していた。
「――礼を言う。この棍棒のデータさえあれば、調査は格段に進展するだろう」
「フフッ、礼を言うには及ばないさ」
妖狐とエミネスクは友好的に言葉を交わす。
二人の手にはワイングラスが――ルーマニアの貴腐ワインで満たされていた。
また同時に、妖狐がワイングラスを持つ手とは別に手をかける先には、“棍棒”があった。
古風の木製に、文様と龍の紋章によって装飾された棍棒――
それこそ、まさに『棍棒を投げる会』の指す棍棒、あるいは『スタン・ボロバン』の民話に伝承される棍棒の一つあった。
この棍棒は世にいくつかあるとされ、その秘密を当時の政権が知っていたのかどうか、東西冷戦の間も秘密裏にこの館の奥で保管され、守られていたのである。
「――どうだね? ルーマニアのワインも良いものだろう? まさに贅を蒐集、濃縮した貴腐ワインだ」
「ふむ……。悪くないな」
妖狐は答え、ともにワインを味わう。
「まったく。棍棒を投げる会、か……。面倒なことをしてくれるものだ」
「ロンギヌスの槍、ムーンショット……。君のいる国も、面倒なことが起きるものだ」
エミネスクが、ハスキーにもイケボで受け答える。
「しかし、ワインもよいが、私は少し疲れたぞ。妖力も少々使ったし、……どこか、よいところはないか?」
「うむ。それなら“ここ”が良いだろう──」
エミネスクはそう言いながら、タブレットを妖狐に見せた。
そこには、何やら温泉地のようでありながら、重油のような黒くドロドロの光景が――ルーマニアの秘境、“ノロイヨシ”が映し出されていた。
「――ここで、少し疲れを癒してくるといい。アヤ=フォックス君」
「……♪」
イングリッシュネームで呼ぶ貴公子エミネスクに、妖狐・神楽坂文はニッコリと微笑で答えた。
──続く




