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同じころ、怪調こと怪奇調査機関ではひと騒動が起きていた。
「――は? ガーのヤツと連絡が取れないって?」
思わず声を荒げそうになったのは、室長の松本清水子だった。
何が起きたのか簡単にいうと、機関のエージェントが失踪したのである。
そのエージェントというのは横溝調査室に所属する碇賀元という男であり、休暇をとって地元に数日帰省していたのであるが、今回の棍棒を投げる会の件で急遽招集をかけたところ、連絡がとれなくなっていた、すなわち失踪した可能性があるのである。
「まった、何でこんな時に……」
バックレたのか? いや、ブラック企業じゃあるまいに。そもそも、ガーのヤツもダレたテンションで仕事をしているヤツとはいえ、そんな人間ではない。今までもそのようなこともなかったし……
松本は苛立ちながらも考えた。調査室こそ違えど長く面識のあるエージェントであり、その実力や実績、それから人格も知っているには知っている。
「本当に、碇賀さんどうしたんですかね?」
黒桐廉太郎も碇賀のことを心配していた。
「ガーさん、あのローテーション具合と適当さと、あと、ヘビースモーカーに定評があったのに……」
「知らん、そんな定評」
零泉が思い出して身を案じるのを松本はバッサリ切り捨てつつ、「ともかく、どうしてこのタイミングで……」と頭を抱えた。
「まさか、何か事件に巻き込まれたとかですか……」
「まあ、ウチら――“怪調の人間だからこそ”の、その可能性は無きにしもあらずだけどな。ただ、アイツもそれなりに実力のあるエージェントなのは間違いないわけで、その可能性は低いと思うけど……」
黒桐と松本は、できたら口にしたくない懸念をしながら少し気が重くなる。
「うーん……」
松本は無言になる。
若干の、嫌な予感……
そうして、気がつくと松本は綾羅木定祐に電話していた。
数コール待つと、定祐は電話に出た。
「ねえ定祐、――」
『何かね? 今こっちも電話しようと思ってたとこだ。ダメだった、というよりも棍棒を何者かが入れ替えた形跡があってな――、とりあえず、今あの化け狐がルーマニアに行っている』
「それは分かった。それより、アンタたち今どこにいるの? もう戻ろうとしてる?」
定祐の話はあまり聞かずに、松本は急かすように尋ねる。
『ん? ああ、もうちょいで駅だ。レンタカー返して、そっから名古屋まで出ようと思ってな』
「そしたらさ、そのままそっちにいてよ。レンタカーは借りたままで」
『うむ? ……どうしてかね?』
定祐が一瞬間を置いて聞き返した。電話越しでも、怪訝な顔をしているのが分かるように。
「ウチのエージェントに、碇賀っていたじゃん?」
『ん? ああ、まあ、確かにいたような。それがどうしたんかね?』
「その碇賀のヤツがさ、失踪したのよ」
『はぃぃ? 何だって――?』
定祐の声は、電話越しからでも顔をしかめているのが分かる声であった。
──続く




