表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コンロボと黄金の朝  作者: 佐々木勇二


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/26

第六話 朝の光は、たいてい三人分ある

いつもより三十分早く家を出た。

 理由は明確だった。

 副部長と撮影。

 しかも早朝。

 これをイベントと言わずに何と言うのか。

 校門前に着くと、朝の空気はまだ少し冷たかった。

 人も少ない。

 グラウンドの向こうに、金色の鳩が三羽。

 昨日より増えている気もするが、もう少し感覚が麻痺してきていた。

「早いじゃない」

 振り向く。

 副部長――桐島先輩が立っていた。

 制服の上に薄いカーディガン。

 カメラを肩から下げている。

 朝の光のせいか、いつもより少し柔らかく見えた。

「先輩こそ」

「誘ったの私だし」

 その言い方が妙に自然で、僕は笑ってしまう。

「何」

「いえ」

「変なやつ」

 そう言いながら、先輩も笑っていた。

 並んで歩く。

 朝の校庭。

 人のいない廊下。

 まだ静かな学校。

 この時間の学校は、いつもとまるで別物だ。

「ここ」

 先輩が立ち止まる。

 旧校舎と新校舎をつなぐ渡り廊下。

 窓から朝日が斜めに差し込んでいる。

「光、綺麗ですね」

「でしょ」

 先輩が満足そうに頷く。

「この時間しか撮れない」

 カメラを構える。

 シャッター音。

 静かな廊下に、乾いた音だけが響く。

 僕もカメラを向けた。

 その時だった。

 窓の外に、金色の鳩が一羽降りた。

 朝日に照らされて、やけに綺麗だった。

「……あ」

 思わず、そちらへカメラを向ける。

 その瞬間。

「竹内」

「はい?」

「そっちじゃない」

 副部長が僕の肩を軽く引いた。

 距離が近い。

 近すぎる。

「え」

「こっち」

 彼女が指さしたのは、窓ガラスだった。

 そこに映っていた。

 朝日。

 鳩。

 そして。

 並んで立つ、僕と副部長の姿。

「……あ」

「こういうの、好きでしょ」

「……はい」

 たぶん、顔に出ていたと思う。

 副部長が少しだけ目を細める。

「素直でよろしい」

 その時、廊下の向こうから足音がした。

 静かな、一定の歩幅。

 振り向く。

 今村さんだった。

 窓際の席でいつも外を見ている、あの今村さん。

 彼女は一瞬だけ立ち止まり、僕たちを見る。

 沈黙。

 妙に長い一秒。

 僕は変に慌てた。

「お、おはよう」

「……おはよう」

 短い返事。

 でも昨日より少しだけ声が柔らかい気がした。

 副部長が自然に言う。

「今村さんも早いのね」

「……少し」

 今村さんの視線が、僕と副部長の間を一瞬だけ通る。

 その意味を考えた瞬間、心臓に悪い。

 副部長が、何でもない顔で聞く。

「写真?」

「え?」

 今村さんが少し目を丸くする。

「この時間の光、綺麗だから」

 副部長はそう言って、僕を見る。

「でしょ?」

「え、あ、はい」

 副部長は完全に面白がっている。

 今村さんは窓の外を見た。

 朝日。

 鳩。

 校庭。

「……綺麗」

 小さな声だった。

 その瞬間。

 窓の外の空に、銀色の小さな点が三つ現れた。

 またUFOっぽいやつだ。

 僕が思わず見上げる。

「またか」

 副部長が呆れたように息を吐く。

 でも今村さんは、空ではなく、僕の方を見ていた。

「……」

「え?」

「昨日」

「はい?」

「返信、早かった」

 僕は一瞬理解できなかった。

 昨日?

 返信?

 あ。

 昨夜のメッセージ。

 初めてのやり取り。

「あ……うん」

 それだけしか言えない。

 今村さんは視線を外した。

「……別に」

 何が別になのか、全然わからない。

 でも。

 昨日までより、話せている気がした。

 その時、後ろから声。

「竹内さん」

 ナールだった。

 今日も完璧な制服と、無駄に整った眼鏡。

「朝から修羅場ですね」

「お前は言葉を選べ」

 ナールは窓の外を見た。

「UFO群、現在五機」

「増えてるじゃん」

「ですが」

 一拍。

「公園方向へ移動中です」

「……また雑草取りか」

 副部長が吹き出した。

 今村さんも、ほんの少しだけ笑った気がした。

 その笑顔を見た瞬間。

 僕はシャッターを切っていた。

 朝日。

 鳩。

 窓。

 そして、笑った横顔。

 たぶん、今日一番の写真だった。

 その日の放課後。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ