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コンロボと黄金の朝  作者: 佐々木勇二


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25/26

第二十六話 明日、街が少しだけ壊れる日

翌朝。

 街の空気は、最初からおかしかった。

 通学路の途中で、僕は足を止めた。

「……うわ」

 空。

 銀色の点。

 一つや二つじゃない。

 十。

 二十。

 もっとだ。

 小型UFO群が、街全体の上空に広がっている。

 しかも今日は低い。

 かなり低い。

 道路の上。

 商店街。

 駅前ロータリー。

 公園。

 全部の上空だ。

 周囲の人たちがざわついている。

「ついに来た」

「本当に宇宙人だ」

「避難した方がいいんじゃ」

 テレビ局の中継車まで来ていた。

 完全に街全体が騒ぎになっている。

 その時。

「竹内様!」

 コンロボ型が道路脇から現れた。

 今日は胸ランプが赤。

 珍しく本気の警戒モードだ。

「何が起きてる」

「都市維持システム過負荷です!」

「……え?」

 ナールが後ろから追いついてくる。

「昨夜の予測通りです」

「だから何が」

「街全体の排水・交通・緑地維持ネットワークが同時に飽和しています」

「……何で」

 副部長も合流する。

 今村さん、七瀬も一緒だ。

 全員、珍しく朝から揃っている。

 七瀬が即答した。

「昨日の豪雨」

「……あ」

「雑草除去」

「……」

「排水補修」

「……」

「交通規制」

「……」

「全部が局所的応急処置だった」

 なるほど。

 つまり。

 街全体ではまだ歪みが残っている。

 それを小型UFO群が一斉に補修しようとしている。

 でも。

 市民から見れば。

 完全に宇宙人襲来だ。

 駅前へ着く。

 騒ぎはさらに大きい。

 人の流れが止まり、道路は渋滞。

 自動運転車両が一斉に停止している。

 その上空を、銀色の小型機が飛び交う。

 副部長が低く言う。

「最悪ね」

 ナールがモニター端末を見る。

「誤認識による社会的混乱」

「……エコーチャンバーか」

 僕がぽつりと言う。

 ナールが珍しく笑った。

「その通りです」

 コンロボ型が胸ランプを点滅させる。

「竹内様」

「何」

「市民誘導が必要です」

「……僕が?」

「はい」

「何で」

 七瀬がこちらを見る。

「あなたが言うと」

 一拍。

「人が動く」

 昨日の話が、ここでつながる。

 僕は思わず息を吐いた。

「……またそういう役回りか」

 副部長が小さく笑う。

「似合ってるわよ」

 その時。

 空の銀色の群れが、一斉に下降した。

「……来る」

 誰かが叫ぶ。

 街が一瞬でパニックになる。

 でも。

 次の瞬間。

 小型UFO群は駅前広場の植え込みへ降り立ち。

 雑草除去。

 排水溝の泥除去。

 街路樹根元の清掃。

 ベンチ下のゴミ回収。

 ものすごい速度で作業を始めた。

 沈黙。

 街全体が一瞬止まる。

 それから。

「……掃除してるだけ?」

 誰かが言った。

 空気が少し変わる。

 僕はその瞬間、前へ出た。

 駅前広場の段差へ上がる。

 思ったより、人がこっちを見る。

 深呼吸。

 思い出したのは、なぜかコンロボ型の言葉だった。

 完了して初めて透明になります。

 透明でいい。目立たなくていい。ただ、今だけ声が届けばいい。

「……大丈夫です!」

 自分でも少し驚くほど、声が出た。

「これ、たぶん」

「街の補修です!」

 人々がざわつく。

 でも、耳を傾けている。

「昨日の雨の後始末をしてるだけです!」

 副部長が少しだけ目を見開く。

 今村さんは静かに僕を見ている。

 七瀬は頷く。

 ナールは珍しく何も言わない。

 コンロボ型だけが誇らしげに光る。

「精神的安定に寄与しています!」

「お前は今は黙ってろ!」

 人の流れが、少しずつ戻り始める。

 誰かが言う。

「……そういえば昨日の雨すごかったな」

「排水溝詰まってたし」

「なら掃除か」

 最初は一人が止まった。

 次に、隣の人が足を止めて小型機を見た。

 それからじわじわと、「掃除してる」「昨日の雨か」という声が広がっていった。

 パニックは音が大きい。でも日常に戻る時は、こうして静かに伝わっていく。

 街の空気が、ほんの少しだけ日常へ戻る。

 その瞬間。

 モニター端末を見ていたナールが静かに言った。

「安定率上昇」

 コンロボ型が即座に続ける。

「システム安定化!」

 副部長が小さく笑う。

「ほんとに戻したわね」

 今村さんが、少しだけ柔らかい声で言う。

「……ちゃんと」

 七瀬は短く。

「適任」

 僕は駅前の広場を見渡した。

 空の銀色の群れ。

 金色の鳩。

 いつもの少し変な街。

 でも。

 それを日常だと思って動き始めた人たち。

 たぶん。

 これが、この街の答えなんだ。


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