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コンロボと黄金の朝  作者: 佐々木勇二


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第二十五話 普通であることは、案外いちばん難しい

旧設備室の空気は、妙に静かだった。

 古い配電盤の低い唸り。

 モニターの光。

 そして。

 壁いっぱいに映る街の映像。

 その中心で点滅する表示。

TAKEUCHI / LOCAL RESPONSE CORRELATION

 全員の視線が僕に集まっている。

 正直、かなり居心地が悪い。

「……何で僕なんだよ」

 僕は素直にそう言った。

 コンロボ型は少しだけ間を置いた。

「解析中です」

「今さらかよ」

 ナールが前へ出る。

 モニターに映るマップを見て、静かに言った。

「……動線」

「え?」

「竹内さんの行動範囲」

 一拍。

「問題発生地点と高確率で重なる」

 副部長が腕を組む。

「偶然?」

「最初は」

 ナールが答える。

「しかし」

 モニターが切り替わる。

 校庭。

 川沿い。

 駅前。

 商店街。

 全部の地点に、小さな時系列ログ。

TAKEUCHI ARRIVAL → RESPONSE STABILIZATION

「……は?」

 僕は思わず画面に近づいた。

 昨日の雨。

 排水事故。

 コンロボ型の応急修復。

 その時刻の少し前。

 僕が現場に着いたログ。

 その後。

 七瀬が動き。

 副部長が教師へ連絡し。

 今村さんが鍵を持ってきて。

 ナールが解析し。

 コンロボ型が復旧した。

 その流れが、全部記録されている。

「……あ」

 副部長が小さく言った。

「人を動かしてる」

 部屋が少し静かになる。

 今村さんが僕を見る。

「……集まる」

「え?」

「あなたの周りに」

 一拍。

「人が」

 その言葉が、妙に胸に落ちた。

 七瀬が淡々と続ける。

「あなた自身の能力ではなく」

「あなたを中心に人間と機械が連携している」

 コンロボ型が胸ランプを少しだけ明るくした。

「相関効率上昇!」

「つまり」

 僕は少し考える。

「僕がすごいっていうより」

 一拍。

「みんなが勝手に集まって勝手に解決してる?」

 副部長が笑った。

「身も蓋もないけど、だいたいそう」

 ナールが珍しく少しだけ柔らかい声で言った。

「竹内さん」

「何」

「あなたは、問題の中心にいるのではなく」

「人を繋ぐ中心にいます」

 その言い方が、妙にナールらしくなかった。

 少しだけ本気に聞こえた。

 今村さんが窓の外――いや、モニターの街を見る。

「……普通」

「え?」

「あなた」

 一拍。

「普通だから」

 副部長も頷く。

「そうね」

「……何でそれが理由になるんですか」

 副部長が少しだけ笑った。

「だって」

「私には私の見方がある」

「……」

「今村さんには、静かな見方がある」

「……」

「七瀬さんは合理性」

「……」

「ナールは分析」

「……」

「コンロボは、まあ壊れてる」

「そこは否定できません!」

 コンロボ型が即答する。

 部屋の空気が少し和らぐ。

 副部長は僕を見る。

「でも、あんたは」

 一拍。

「まず人を見る」

 言葉が出なかった。

「景色も」

「……」

「人も」

「……」

「ロボットも」

「……」

「全部ひっくるめて“普通”に扱う」

 その言葉で。

 いくつかの場面が頭をよぎった。

 コンロボ型。

 七瀬。

 ナール。

 今村さん。

 副部長。

 黄金の鳩。

 UFO。

 全部に対して。

 僕は、驚きはしても、最後は普通に話していた。

 人間相手みたいに。

 あるいは、日常の一部みたいに。

 ナールが静かに言う。

「都市維持システムは異常検知に優れています」

「しかし」

「……しかし?」

「異常を“日常へ戻す”のは」

 一拍。

「人間側の役割です」

 コンロボ型が胸ランプを一度だけ強く光らせる。

「竹内様は、その中心です!」

 僕はしばらく何も言えなかった。

 すごい能力があるわけじゃない。

 世界を救う選ばれた存在でもない。

 ただ。

 周りの人やロボットや街の異常を。

 異常のまま切り離さずに。

 普通に隣へ置いていた。

 それだけ。

 この街では、それが案外いちばん難しいのかもしれなかった。

 その時。

 黄金の鳩が一羽、設備室の制御盤に降りた。

 僕を見る。

 首をかしげる。

 そして。

 モニターに新しい表示が浮かんだ。

SYSTEM STABILITY : 82%

PREDICTED LARGE-SCALE EVENT : TOMORROW

 部屋の空気が、一瞬で変わった。

「……明日?」

 副部長が低く言う。

 七瀬はすでに立ち上がっている。

 ナールの目が少しだけ鋭くなる。

 コンロボ型の胸ランプが赤く点滅した。

 そして僕は。

 ようやく少しだけ理解した。

 これは。

 たぶん、本当に終盤へ入る。


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