最終話 たぶん、これが僕たちの日常
春季写真展示会の最終日。
旧校舎三階の展示室には、思っていた以上の人が来ていた。
生徒。
先生。
保護者。
近所の人。
駅前の騒動をテレビで見たらしい人までいる。
入口の案内係は、当然のようにコンロボ型だった。
「ご来場ありがとうございます!」
「お前完全に定着したな」
「機能向上の成果です!」
胸ランプは、今日はかなり安定していた。
たぶん修理されたのだろう。
どこか少しだけ、まだ壊れている感じがする。
それが妙に安心する。
展示室の中央。
一番大きなパネルの前で、僕は足を止めた。
新しいメイン作品。
タイトル。
『雨上がりの屋上』
僕たち全員が並んで空を見ている後ろ姿。
副部長。
今村さん。
七瀬。
ナール。
コンロボ型。
そして僕。
雨上がりの空には、銀色の点が二つ。
アンテナには金色の鳩。
変な写真だ。
でも。
たぶん今の僕たちを一番正確に写している。
「……これ、好き」
声。
振り向く。
今村さんだった。
静かな横顔で写真を見ている。
「……ありがとう」
「……普通で」
一拍。
「ちゃんと特別」
その言葉に、胸が熱くなる。
透明、か。
あの時コンロボ型が言った言葉が、今ここでようやく着地した気がした。
普通であることが、誰かにとっての「特別」になることがある。
でも、それでいいのかもしれない、とも思った。
その横へ、副部長が来る。
「ほんとにね」
眼鏡の奥の目が少しだけ柔らかい。
「最初は、何この写真って思ったけど」
「ひどい」
「でも」
「これが一番、あんたらしい」
あんたらしい。
その言葉が、妙に嬉しかった。
七瀬も静かに写真の前へ立つ。
「記録として優秀」
「感想がそれ?」
「……」
一拍。
「好き」
その一言に、僕は少しだけ息を止めた。
副部長が小さく笑う。
「正直ね」
その時。
ナールが横から静かに言った。
「竹内さん」
「何」
「最終的に安定率は九十六パーセントまで回復しました」
「何の」
「この街の日常です」
僕は少しだけ笑った。
「……それならよかった」
展示室の窓から、外を見る。
街はいつも通りだった。
駅前の人通り。
商店街。
公園。
遠くの空に銀色の点がいくつか。
でももう誰も騒がない。
日常に戻った。
いや。
最初から、これが日常だったのかもしれない。
その時。
副部長が小さく言った。
「今日、帰り」
「はい」
「モール寄る?」
胸がうるさくなる。
でも、その直後。
「……私も」
今村さんが小さく言った。
「え?」
「行く」
さらに。
「合理的同行」
七瀬。
「非常に高温ですね」
ナール。
「精神的安定支援です!」
コンロボ型。
「お前ら全員来るのかよ!」
展示室に笑いが広がる。
副部長が少しだけ肩をすくめた。
「まあ、こうなるわよね」
そう。
展示室の笑いが収まる頃。
誰かが言った。「行こうか」
誰が言ったかは、よくわからなかった。
でもその「行こうか」に、全員が自然に動き出した。
たぶん、こうなる。
誰か一人を選ぶとか。
世界の全部の謎が解けるとか。
そういう綺麗な終わり方じゃない。
この少し変で、少し騒がしくて。
誰かがいつも隣にいる日常が。
たぶん僕にとっては、一番自然だった。
帰り道。
夕方の商店街を、またみんなで歩く。
空には金色の鳩。
少し遠くに銀色の点。
コンロボ型がやたら元気に話しかけてくる。
副部長は呆れながら笑う。
今村さんは静かに隣を歩く。
七瀬は少し前。
ナールはなぜか夕日を分析している。
僕は、少しだけ空を見上げた。
世界は相変わらず少し変だ。
でも。
それを普通だと思える今が、たぶん一番好きだった。
そして、たぶん。
明日もまた、少しだけ何かが起こる。
でもそれもきっと。
僕たちの日常だ。




