第二十一話 コンロボが壊す時、だいたい規模が大きい
午後三時。
天気予報は外れなかった。
空は完全に灰色。
風も強い。
校舎裏の排水ラインは、コンロボ型が盛大にやらかしたまま、応急処置しかできていない。
七瀬が仮設パネルで流路を変え、副部長が教師へ連絡し、ナールが校舎内の水位予測をしていた。
写真部とは何だったのか。
「竹内」
「はい」
「一階の展示スペース」
副部長の声が少しだけ低い。
「浸水したら終わる」
春季展示のバックアップパネルが、一階の視聴覚準備室に保管されている。
「……うわ」
完全にまずい。
その時。
外で、ざあっ、と音がした。
雨。
かなり強い。
窓を打つ音が一気に大きくなる。
ナールが淡々と言う。
「三分以内に排水能力限界を超えます」
「何でそんな冷静なんだよ!」
「事実です」
コンロボ型は、珍しくしおれていた。
胸ランプが弱く点滅している。
「……申し訳ありません」
「いや、今はいい」
僕は思わずそう言った。
責めても仕方がない。
問題は今だ。
七瀬が即座に判断する。
「竹内」
「はい」
「一階のパネル回収」
「了解」
「副部長」
「こっちは教師と避難誘導」
「今村さん」
「……うん」
「視聴覚室の鍵」
全員が自然に動く。
この連携は、もうほとんど部活の域を超えている。
誰も確認しなかった。指示を待たなかった。なんでこの人たちはこういう時だけこんなに速いんだろうと、廊下を走りながら思った。
一階へ走る。
廊下の端に、すでに水が薄く流れ始めていた。
「……早いな」
今村さんが鍵を開ける。
副部長も合流する。
部屋の中には展示パネル、予備フレーム、現像プリント。
かなりの量だ。
「全部持てるか」
「無理」
副部長が即答する。
「優先順位」
「展示用原板と今週の新作」
その時。
廊下の向こうから、また破裂音。
「……コンロボ?」
振り向く。
校舎裏から胸ランプを光らせながら、コンロボ型が全力で走ってきた。
「竹内様!」
「何だ!」
「排水路の仮設導線を再構築します!」
「お前また壊す気じゃないだろうな」
「否定は困難です!」
「否定しろ!」
でも。
その目というか、ランプの光は妙に真剣だった。
笑えるはずだ。でも笑えなかった。こいつがこんな顔をするのを、たぶん初めて見た気がした。
七瀬が後ろから来る。
「……任せる」
「え?」
僕が思わず言う。
「大丈夫なのか」
七瀬は短く答えた。
「今回は」
一拍。
「壊した本人にしかわからない構造」
なるほど。
それは妙に説得力があった。
七瀬が「任せる」と言える相手を持っているとは思っていなかった。こいつにも、そういうことがあるのかと少し驚いた。
コンロボ型が校舎裏へ戻る。
次の瞬間。
どん、がん、がしゃん。
ものすごい音。
「……絶対壊してる」
副部長が呆れたように言う。
数十秒後。
廊下の水の流れが、すっと止まった。
「……え?」
ナールが窓際で静かに言う。
「排水経路、復旧」
僕たちは一斉に校舎裏へ走った。
そこにあったのは。
カラーコーン。
仮設パネル。
工事用バリケード。
そして。
コンロボ型が、自分の体を支柱代わりにして、雨水の流れを排水溝へ誘導している姿だった。
「……お前」
たぶん、かなりギリギリだ。壊れたまま、それでも雨水を誘導し続けている。笑えるはずなのに、笑えなかった。
胸ランプが不安定に明滅している。
「臨時インフラモードです!」
「そんなモードあるのかよ」
「今作りました!」
「やっぱ壊れてるだろ!」
でも。
雨水は確かに流れている。
校舎への逆流は止まった。
副部長が小さく笑う。
「……たまにはやるじゃない」
今村さんも小さく言う。
「……ちゃんとしてる」
七瀬が静かにコンロボ型を見る。
「損傷率」
「四十二パーセント!」
「壊れすぎだろ!」
その時。
空に、銀色の点が七つ。
またUFO群。
僕たちは思わず見上げた。
七機が校舎裏へ降下する。
「……また?」
でも今度は違った。
七機の小型UFOが、一斉に校舎周辺の雑草と土砂を除去し始める。
排水ラインを広げるように。
完璧に。
ナールが静かに言った。
「協力していますね」
「誰が」
「宇宙人……もしくは都市環境維持システム」
「どっちなんだよ」
そのおかげで、雨水は完全に流れ始めた。
危機は去りつつある。
僕はコンロボ型の横にしゃがんだ。
「……大丈夫か」
胸ランプが弱く光る。
「竹内様」
「何」
「機能向上しました」
「……」
「あなたの役に立てました」
その一言が、妙に胸に残った。
壊れている。
間違いなく壊れている。
でも。
たぶんこいつは、ずっとこうやって僕たちの日常を支えてきたんだ。
壊しながら。
たまに直しながら。




