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コンロボと黄金の朝  作者: 佐々木勇二


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第十九話 四人で歩くと、だいたい誰かが温度を上げる

土曜日の午後。

 写真部の次回展示に向けたロケハンという名目で、僕たちは駅裏の川沿い遊歩道に来ていた。

 メンバーは四人。

 僕。

 副部長――桐島先輩。

 今村さん。

 七瀬。

 そして当然のようにナール。

「五人じゃないですか」

「……数えないで」

 もうそこに突っ込む気力もない。

 川沿いは春の花がきれいだった。

 菜の花。

 シロツメ草。

 風に揺れる低木。

 少し先の土手には金色の鳩が三羽。

 もう完全に風景の一部だ。

 副部長がカメラを構える。

「竹内、あっちの光」

「はい」

 僕も反射的に動く。

 その自然さを、今村さんが静かに見ていた。

「……ほんと自然」

「え?」

「副部長と」

 心臓に悪い。

 副部長はそれを聞いて、口元を上げた。

「長いから」

 さらっと言う。

 今村さんは少しだけ黙る。

 七瀬がその空気を一瞥して、唐突に言った。

「菜の花」

 全員がそちらを見る。

 遊歩道の脇に、一面の黄色。

 春の光に映えて、かなり綺麗だった。

 七瀬が、珍しく身を乗り出す。

「……これ」

「菜の花?」

 僕は思わず笑ってしまった。

「いや花ならそっちの方が詳しそうだけど」

 副部長がすぐに返す。

「ほんとに」

 でも七瀬は、こちらの返しをほぼ無視して。

「あ、そうか」

 一拍。

「菜の花」

 僕もつられて自然に。

「おー」

 と言ってしまった。

 副部長が小さく笑う。

 今村さんも、少しだけ笑った気がした。

 その瞬間。

 シャッターを切る。

 四人の空気。

 花。

 川。

 春の光。

 これはかなりいい写真になる。

 少し歩く。

 今度は橋の下の陰。

 コンクリートの反射光が面白い。

 副部長が立ち止まる。

「ここ好き」

「わかります」

 即答した。

 副部長がこちらを見る。

「ほんとそういうとこ」

「何がです?」

「感覚が合う」

 心臓がまた一拍遅れる。

 その会話を、今村さんが静かに聞いている。

 七瀬も聞いている。

 ナールだけがなぜか川面を見ている。

「反射率が高いですね」

「お前は景色の感想がいつも理系すぎる」

 その時。

 遊歩道の少し先で、子どもの泣き声。

「……また?」

 僕たちは駆け寄る。

 そこには、川沿いのベンチで泣いている小さな男の子。

 そして、その横で。

 コンロボ型がなぜかしゃがみ込んでいた。

「竹内様!」

「お前また何してんだよ!」

「心理的安定支援です!」

「今日は先に来てたのかよ!」

 コンロボ型が胸ランプを明滅させる。

「飼い犬が逃走しました!」

「迷子じゃなくて犬か」

 七瀬が即座に周囲を見渡す。

 副部長は子どもに目線を合わせる。

「どんな犬?」

「白くて……ちっちゃい……」

 今村さんが静かにしゃがみ込む。

「……首輪の色」

「……青」

 この連携が妙に自然だった。

 僕は思わず見入る。

 副部長が僕を見る。

「竹内」

「はい」

「橋の向こう見てきて」

「はい」

 もう写真部というより捜索隊だ。

 走る。

 川沿いの土手を抜ける。

 その時。

 空に銀色の点が七つ。

 またUFOだ。

 でも今日は一機だけ低い。

 その小型機が、公園の茂みの前で止まった。

「……あ」

 そこにいた。

 小さな白い犬。

 草むらに入り込んで出られなくなっている。

 僕が近づこうとした瞬間。

 銀色の小型機が、ひょいと犬を持ち上げた。

「……もう何でもありだな」

 僕は犬を抱き上げる。

 小型機はそのまま公園の雑草を抜き始めた。

「やっぱりそっちか」

 戻る。

 子どもに犬を返す。

 泣き顔が一瞬で笑顔になる。

 その瞬間を、今村さんが撮っていた。

 副部長も撮る。

 七瀬も、少し遅れて撮る。

 僕もつられてシャッターを切る。

 写真部らしい。

 たぶん今の一瞬が、一番写真部らしい。

 帰り道。

 四人で並んで歩く。

 副部長が右。

 今村さんが左。

 七瀬が少し前。

 僕は真ん中。

 ナールは後ろからついてくる。

「……これ」

 僕は思わず言った。

「かなり難易度高いな」

 ナールが即答する。

「難易度が高いですね」

「お前ほんとそれ好きだな」

 春の川沿いを歩きながら。

 少しだけ思った。

 この難しさも。

 たぶん、今の僕の日常なんだろう。


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