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コンロボと黄金の朝  作者: 佐々木勇二


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第十八話 写真部はたいてい温度が高い

 翌日の放課後。

 写真部の部室に入った瞬間、僕は足を止めた。

「……うわ」

 いた。

 副部長――桐島先輩。

 いつもの窓際の机で展示アルバムを見ている。

 今村さん。

 なぜか副部長の向かいの椅子に座っている。

 そして。

 七瀬。

 部室のドアのすぐ内側に立っている。

 何で全員いる。

 しかも全員、僕を見た。

 空気が少しだけ熱い。

 いや、かなり熱い。

 ナールが僕の後ろから部室へ入り、即座に一言。

「高温です」

「お前それ好きだな!」

 副部長が口元だけで笑う。

「来たわね」

「……はい」

 何が“来たわね”なんだ。

 来るしかないだろ、部室なんだから。

 今村さんは静かに僕を見る。

「……昨日」

「……はい」

「七瀬さんといた」

 直球すぎる。

 七瀬がすぐに答える。

「安全巡回」

「……」

 今村さんの目が少しだけ細くなる。

 副部長が横からさらっと言う。

「半分はデートでしょ」

「副部長!」

「違うの?」

 七瀬は一瞬だけ止まって。

「……そうね」

 またそれだ。

 僕の頭が痛くなる。

 副部長がにやっとした。

「へえ」

 今村さんが少しだけ視線を逸らす。

 その小さな動きを、副部長はたぶん見逃していない。

「で?」

 副部長が僕を見る。

「楽しかった?」

「……はい」

 正直に答えてしまう。

 副部長は小さく笑った。

「わかりやすい」

 その瞬間。

 今村さんがぽつりと言った。

「……私とは」

 部室の空気が止まる。

「え?」

「私とは、そういうふうに出かけない」

 言葉が出ない。

 確かにそうだ。

 今村さんとは、教室と校内で話すことが多い。

 放課後に二人で出たことはない。

 副部長が一瞬黙る。

 七瀬も、静かに僕を見る。

 完全に僕の返答待ちだ。

 逃げたい。

 でも。

 ここで逃げたらまた最悪になる。

「……今度」

 一拍。

「行く?」

 言ってから、終わったと思った。

 副部長の眼鏡の奥の目が細くなる。

 七瀬の視線も少しだけ変わる。

 今村さんだけが、ほんの少し目を丸くした。

「……いいの?」

「……うん」

 今村さんは数秒黙って。

「……行く」

 小さな声だった。

 でも。

 それだけで部室の温度がまた少し上がった気がした。

 副部長が腕を組む。

「へえ」

 またそれだ。

「忙しいわね、竹内」

「……すみません」

「何で謝るのよ」

 副部長は少し笑って、でもその笑い方が少しだけ鋭い。

「写真部の活動もしなさいよ」

「……はい」

 七瀬が静かに言う。

「合理的配分が必要」

「お前もそこ乗るのか」

 その時。

 部室の外で大きな音。

 ばんっ。

「……また?」

 僕たちは窓へ寄る。

 校庭。

 コンロボ型が、なぜかカラーコーンを抱えて転がっていた。

「竹内様!」

「お前何してんだよ!」

「インフラ調査中に段差へ接触しました!」

「また壊したのか!」

 胸ランプがやたら激しく点滅している。

 その後ろ。

 空には銀色の点が七つ。

 さらに金色の鳩が五羽。

 完全にいつもの背景だ。

 部室の中の空気の方が、よほど異常だった。

 副部長が窓際に立つ。

 今村さんも隣へ。

 七瀬も少し離れて並ぶ。

 なぜか三人が同じ方向を見ている。

 僕はその少し後ろ。

 ナールが横でぼそっと言う。

「竹内さん」

「何」

「非常に難易度が高いです」

「何が」

「日常生活が」

「……」

 それは、たぶん本当にそうだった。

 でも。

 窓に映る三人の横顔を見て。

 少しだけ思った。

 難しいけど。

 嫌ではない。

 たぶん、かなり。


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