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コンロボと黄金の朝  作者: 佐々木勇二


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第十七話 合法的デートと、だいたい事件じゃない事件

放課後。

 校門前で待っていたのは、七瀬だった。

 制服。

 鞄なし。

 端末のみ。

 表情はいつも通り。

 でも、立っているだけで周囲の空気が少し引き締まる。

「……来た」

「うん」

 短い会話。

 気まずいわけじゃない。

 でも落ち着かない。

「行きましょう」

「……はい」

 なぜ敬語になってしまうのか、自分でもよくわからない。

 駅前再開発エリアへ向かって歩く。

 夕方の街。

 人通り。

 遠くで工事の音。

 そして、空には今日も銀色の点が三つ。

 もう誰も見上げない。

 慣れって怖い。

 しばらく歩いてから、僕は聞いた。

「……ほんとに安全巡回なの?」

「はい」

「ほんとに?」

「……」

「半分」

「残り半分は」

 七瀬は前を向いたまま答えた。

「確認」

「何を」

 少し間。

「あなたが、私といる時どうなるか」

 心臓が一拍遅れた。

「……え」

「副部長とは自然」

「……」

「今村さんとは緊張」

「……」

「私とは」

 一瞬だけ、七瀬がこちらを見る。

「どうなの」

 答えに困る。

 でも、正直に言うしかない。

「……かっこいいなって思う」

 七瀬が止まった。

 完全に。

 歩くのが止まる。

 僕も止まる。

「……」

「……あ」

 やばい。

 また変なことを言った。

 七瀬は少しだけ視線を逸らして。

「……そう」

 それだけ言った。

 耳元が、少し赤い。

 たぶん。

 たぶん気のせいじゃない。

 その時。

 駅前の広場で、人だかりができていた。

「……また?」

 僕たちは駆け寄る。

 中央の噴水前。

 子どもが泣いている。

 その横で、コンロボ型がぐるぐる回っていた。

「竹内様!」

「お前何してんだよ!」

「迷子支援です!」

「ぐるぐる回ってるだけじゃん!」

「心理的安心を提供しています!」

「逆に不安だよ!」

 七瀬が子どもの前にしゃがむ。

 その動きが、驚くほど自然だった。

「どうしたの」

 声も柔らかい。

 学校で見せる法令モードとは全然違う。

 子どもが泣きながら言う。

「ママがいない……」

 七瀬は即座に周囲を見渡した。

「ナール」

「はい」

 いつの間にかいた。

「何でいるんだよ」

「偶然です」

「絶対違う」

 ナールが端末を見る。

「館内放送を使用します」

 コンロボ型が胸ランプを点滅させる。

「精神的支援継続中です!」

「お前は少し止まれ」

 その時。

 空から、小さな銀色の点が一つ降りてきた。

「……うわ」

 広場がざわつく。

 またUFOだ。

 でも、もう前ほど騒ぎにはならない。

 銀色の小型機は、噴水脇に着地して。

 迷子札を拾った。

 そこに書かれていた名前を、七瀬が見る。

「……いた」

 視線の先。

 フードコート前で、必死に探している母親。

 七瀬が子どもの手を取った。

「行きましょう」

 その手の取り方が、ものすごく優しい。

 母親の元へ連れていく。

 再会。

 泣きながら抱きしめる親子。

 周囲から小さな拍手。

 コンロボ型が誇らしげに胸ランプを光らせる。

「円満解決です!」

「お前ほぼ何もしてないだろ」

「精神的支援です!」

「そればっかりだな」

 母親が何度も頭を下げる。

 七瀬は軽く頷くだけだった。

 でも。

 子どもが最後に七瀬へ手を振った時。

 ほんの少しだけ。

 七瀬も手を振り返した。

 その仕草が妙に人間っぽくて。

 僕は思わず見入ってしまった。

「……何」

 七瀬がこちらを見る。

「いや」

 僕は正直に言った。

「……やっぱり、かっこいい」

 七瀬は一瞬だけ目を伏せた。

 それから。

「……ありがとう」

 たぶん。

 今までで一番、柔らかい声だった。

 その時。

 空の銀色の点がさらに三つ増えた。

 ゆっくり降下して、公園方向へ向かう。

「……また雑草取りかな」

 僕が言う。

 七瀬が小さく息を吐いた。

「可能性は高い」

 その言い方が、少しだけナールに似ていて。

 僕は少し笑ってしまった。

 事件っぽく始まって。

 結局だいたい事件じゃない。

 隣を歩く距離だけは、変わった気がした。


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