第十五話 静かな火花は、だいたい一番温度が高い
上前の踊り場。
風が少し強い。
窓の外には、いつの間にか金色の鳩が三羽。
もうこの学校の背景みたいになっていた。
でも今、僕にとって問題なのはそっちじゃない。
副部長――桐島先輩。
今村さん。
そして、その間に立っている僕。
この構図が、ものすごくよくない気がする。
副部長は状況を一瞬で把握したような顔をしていた。
「……続けて?」
軽い口調。
でも目は笑っていない。
今村さんは視線を逸らさなかった。
「……もう終わります」
「そう?」
副部長が少しだけ僕を見る。
「竹内、何か言うことないの?」
「……え?」
いや、あるかもしれない。
でも何を。
ここで何を言えば正解なんだ。
振り返る。
いつの間にか階段の途中にナールが立っていた。
何でいる。
「昼休みの光量観測です」
「絶対違う」
副部長が小さくため息をついた。
「ナール、後で」
「了解しました」
ナールはなぜか素直に一段下がった。
でも帰ってはいない。
絶対聞いてる。
副部長が今村さんに向き直る。
「最近、竹内とよく話してるのね」
「……はい」
今村さんは短く答える。
「写真のこととか」
「……」
「窓のこととか」
「……」
「見てることとか」
完全にわかって言っている。
僕の心臓に悪い。
今村さんは眉を寄せた。
「……副部長も」
「何?」
「最近、ずっと一緒にいる」
空気が少し張る。
副部長は笑った。
「そうね」
その答え方が妙に余裕がある。
「帰り道とか」
「そうね」
「モールとか」
「そうね」
「……」
今村さんの視線が、ほんの強くなる。
副部長はそれを正面から受けて、さらっと言った。
「でも、それって別に普通じゃない?」
今村さんが一瞬黙る。
「……普通」
「写真部だし」
「……」
「帰り道が一緒になることもあるし」
「……」
「ね?」
最後の“ね?”で、なぜか僕を見る。
「え?」
「竹内」
「……はい」
「普通よね?」
ものすごく答えに困る。
今村さんの視線。
副部長の視線。
両方がこっちを見ている。
逃げたい。
でも逃げられない。
「……たぶん」
最悪の答えを出した気がした。
ナールが後ろで小さく言う。
「鈍いですね」
「お前ほんと今だけ黙ってろ!」
副部長が吹き出しかけて、でも笑いを抑えた。
今村さんは、少しだけ視線を落とした。
その小さな変化を、副部長は見逃さなかった。
「……ねえ、今村さん」
「……何ですか」
「竹内のどこがいいの?」
直球すぎる。
僕の思考が止まる。
今村さんも、一瞬だけ完全に固まった。
「……え」
「だって」
副部長は腕を組んだ。
「鈍いし」
「……」
「優柔不断だし」
「……」
「ロボットに便通管理されてるし」
「そこは否定できません」
ナールがまた挟む。
「お前ほんと黙れ!」
今村さんが、ほんの口元を緩めた。
笑った。
「……ちゃんと見てるから」
その言葉に、空気が止まる。
副部長の目が少しだけ細くなる。
「何を」
今村さんは僕を見た。
まっすぐ。
「……景色も」
一拍。
「人も」
胸の奥が少し熱くなる。
副部長は数秒黙っていた。
それから、ふっと笑った。
「……そう」
その笑い方は、いつもの余裕にも見えたし。
少しだけ揺れたようにも見えた。
そして。
「私も」
「そういうところ、好きよ」
僕の思考が完全に停止した。
「……え」
「え、じゃない」
副部長が少しだけ呆れたように言う。
「今さらでしょ」
またその言い方だ。
でも今回は。
その“今さら”が、少しだけ違う意味に聞こえた。
今村さんは、静かに副部長を見た。
副部長も視線を返す。
言い争っているわけではない。
ものすごく温度が高い。
ナールが後ろでぼそっと言う。
「非常に高温です」
「お前は何なんだよ本当に」
窓の外を見る。
空には銀色の点が七つ。
またUFOだ。
でも今の僕には、そっちの方がまだ理解しやすかった。




