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コンロボと黄金の朝  作者: 佐々木勇二


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10/26

坂本さんは、だいたい意味がわからない

日曜日の昼。

 写真部の展示準備もひと段落して、僕は駅前のショッピングモールへフィルムを買いに来ていた。

 休日のモールは、家族連れとカップルで妙に混んでいる。

 その雑踏の中で。

「やあ、竹内君」

 聞き覚えのある声。

 振り向く。

 いた。

 坂本さん。

 車検所勤務。

 僕の父の知り合いで、なぜか昔から僕にも妙にフレンドリーだ。

 今日も相変わらず、やたら格好つけたジャケット姿だった。

「……“やあ”って漫画でも言いませんよ今どき」

 坂本さんは笑う。

「言うさ。言いたい時には」

「それ答えになってないです」

 その時、モールの外から、妙なざわめきが聞こえた。

 人が一斉に外を見ている。

「……また?」

 僕もつられて外へ出た。

 駅前広場の上空。

 銀色の点が七つ。

 いや、今日はもっと低い。

 近い。

 しかも一つだけ、妙に大きい。

「うわ……」

 通行人がスマホを向ける。

「宇宙人だ」

「ついに来た」

「終わった」

 坂本さんが妙に真顔になった。

「竹内君」

「はい?」

「乗れ」

「……え?」

 振り向く。

 路肩に、あの車が停まっていた。

 BMWのオープンカー。

 相変わらず無駄に目立つ。

「何でこんなところに」

「たまたま通りかかった」

「絶対嘘ですよね」

「いいから乗れ!」

 なぜか本気の声だった。

 広場の向こうで、コンロボ型が僕に向かって走ってくる。

「竹内様!」

「お前もいたのかよ!」

「防衛行動を推奨します!」

「お前まで!」

 その瞬間。

 空の大きい銀色の物体が、ゆっくり降下してきた。

 人々が悲鳴を上げる。

 坂本さんが助手席のドアを開ける。

「早く!」

「何が起きてるんですか!?」

「急がないと売り切れる!」

「は?」

 もう半ば勢いで車に乗せられる。

 坂本さんはものすごい勢いでアクセルを踏んだ。

 駅前を離れる。

 後ろで、コンロボ型がなぜか全力で追いかけてくる。

「コンロボ!」

 その時。

 後方で、ばんっ、と破裂音。

「……え」

 僕は振り返った。

「コンロボ!!」

 坂本さんは平然とハンドルを切る。

「大丈夫だ」

「何がですか!」

「あいつは興奮するとよくショートする」

「日常みたいに言わないでください!」

 車は高速道路の入口へ向かっていた。

「ちょっと待ってください!」

「何だ」

「宇宙人は!?」

 坂本さんは一瞬だけ真顔になって。

「宇宙人?」

「はい!」

「テレビの見すぎだろ。勉学に励みたまえ」

「“たまえ”って……キャラ変わってません?」

「ヒーローっぽいだろ」

「そこ狙ってたんですか!?」

 坂本さんは少し得意げに言った。

「今日は限定販売なんだ」

「何が」

 一拍。

「ギャバリン変身ベルト」

 沈黙。

 僕は完全に固まった。

「……は?」

「おひとり様一個限定」

「……は?」

「だから、お前にも買ってもらう」

「いや何で自分の予備を高校生に買わせるんですか!」

 坂本さんは真顔で言った。

「保管用が必要なのだよ」

「いやギャバリンは保管用とか持ってないですよ!」

「わからんだろ」

「わかりますよ!」

 その時。

 空の銀色の点が、高速道路脇の公園へ降りていくのが見えた。

 僕は思わず窓から身を乗り出した。

「……あ」

 降り立った“UFO”らしきものは。

 地面にしゃがみ込んで。

 雑草を抜き始めた。

「……」

「……」

 坂本さんがぽつりと言う。

「やっぱり宇宙人じゃないな」

「最初からそうですよ!」

 その時、後ろから妙なエンジン音。

 振り向く。

 コンロボ型が、なぜか小型の作業用カートに乗って追いついてきた。

 胸ランプがやたら明るい。

「竹内様!」

「無事だったのか!」

「短時間ショートです!」

「誇らしげに言うな!」

 コンロボ型が坂本さんを見上げる。

「変身ベルト購入支援、同行します!」

「お前も来るのかよ」

「精神的安定に寄与します!」

「だから何でだよ!」

 坂本さんがハンドルを握りながら笑った。

「賑やかでいいじゃないか」

 僕は窓の外を見た。

 空には金色の鳩。

 遠くで雑草を抜くUFO。

 横にはヒーローベルトを本気で買いに行く大人。

 後ろにはなぜか追走してくるコンロボ。

 もう何が普通かわからない。

 でも。

 この町では、たぶんこれが普通になりつつあった。


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