第2話 削られる日常
いつも読んでいただきありがとうございます。
街は、いつも通りだった。
朝が来て、人が起きて、仕事に向かう。
昨日の外の戦いのことなど、ほとんどの人は知らない。
知っているのは、ごく1部だけ。
葵は、石造りの通路を歩いていた。
外の戦闘のあとでも、街は静かだ。
まるで何も起きていないように。
「……また減ってる」
すれ違った誰かが、小さく呟いた。
葵は振り返らない。
広場の奥。
白い建物の前に、人が並んでいる。
列は長い。
誰も騒がない。
その先にあるのは、“装置”。
街の中心にある、黒い構造物。
機械というにはあまりに有機的で、まるで何かの心臓みたいだった。
「次の方」
淡々とした声。
人が1人、前へ出る。
若い男だった。
手には何も持っていない。
「提出を確認します」
職員の声は機械的だった。
男は、少しだけ迷ってから言う。
「……これで、助かるんですよね」
返事はない。
代わりに、機械が低く唸る。
光が走る。
その瞬間、男の表情が変わる。
何かを失ったように、目が揺れる。
「……あれ?」
周囲の人間は、何も言わない。
ただ手続きを進めるだけ。
葵は、それを見ていた。
誰かが、何かを差し出している。
それは血でも命でもない。
記憶。
「これで、ヴァンパイアは生き続けられる」
背後で声がした。
振り返る。
そこには、管理者のような男。
「彼らは我々を守るために存在している。
その存在を維持するのは、人間の義務です」
義務。
葵は、その言葉を反芻する。
広場の向こうで、また1人が機械の前に立つ。
「あなたは、何を差し出しますか」
少しの沈黙。
「……幸せだった日の記憶を」
光。
その瞬間、どこかで何かが削られた気がした。
葵は、無意識に手を握る。
「……これ、必要なのか」
誰に向けた言葉か分からない。
管理者は答える。
「必要です。彼らが“血を求めずに生きる”ために」
ヴァンパイア。
その単語に、葵の視線がわずかに揺れる。
夜。
街の外で戦ったあの存在。
止められないもの。
壊れながら進むもの。
あれを“生かしている”のは、この街だ。
「……守ってるつもりか」
小さく呟く。
その声は、誰にも届かない。
ただ、機械の音だけが静かに響いていた。
2話も読んでいただきありがとうございます。
今後もよろしくお願い致します。




