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親はいたが、死んだ。原因は衛生環境の悪さによる病気。それもそうだ。寄生虫が沸くような掃き溜めの場所なんて。腐乱したごみが浮かぶ川が近くにある場所なんて。病気にならない方がおかしいだろう。頼れる人はいない。この場所に住む連中なんて、自分のことで精いっぱいだったから。今日を生きることで精いっぱいだったから。それだからこそ、自分よりさらに弱い立場の人間を虐げるのが彼らの幸せ。娯楽。幸福。まさしく、自分がその通りだった。親なし、身寄りなし。格好の餌食だ。もちろん、殴られ、蹴られた。何も持たないのにだ。売り物にすらならない唯一の服を奪われたことだってあった。これがこの世界の真理だって思った。自分には何も幸せというものは存在しない、と幼いながらも覚った。子どものくせに。いじめてくるやつだってそうだった。自分と同じようなクソガキのくせにして「クソガキ」だなんて言ってくるんだもの。笑うしかなかった。それほどまでに心が疲れているのだろうな。
「かみさまなんて、しんじたくない」
何も隠す物はないのに、両手で顔を覆った。真っ暗な世界で見える光の残像。それを見るのが唯一の楽しみのようなものだ。つまらないけれども、何もしないより――虐げられるより、腐った食べ物を探すよりはマシだった。
神様が自分たちを見守ってくれているだなんて聞くことはあった。両親がそう言っていたから。そう言っていた彼らが先に死んだのだ。だったら、神様はいない。いたとしても信じない。それって、傍観者だもの。ただ見るだけ。実にくだらねぇ。こんなの見て、何が楽しいんだろう。まだ逃げる方がよかった。
子どもながら心が孤独だった。そうして、独りで汚い場所に生きて――数年が経ったある日、目の前に一人の老人が現れた。この老人、身なりはここに住む者たちよりも綺麗だった。彼は言った。
「今日から、きみはオルチェだ」と。
本気で頭がおかしいやつと会ってしまったかもしれない。本当にそうだった。駄々捏ねる自分を引きずるようにして、知らない家に連れていかれたのだから。何が何だかわからなかった。何をされるのだろうか。もしかして、これが殺されるということだろうか。頭のおかしな老人はもう一度言った。
「今日から、きみはオルチェだ」と。
否定した。オルチェだなんて名前じゃない。自分にはきちんと両親からもらった名前があるのだ。それを言った。が、老人は激昂するようにして否定する。殴ってきた。掃き溜めのようなところで殴られたりするより、痛かった。
老人はゆっくりと近付いて、優しい口調でこう言った。「私はきみのためを思って、こうしてここに連れてきたんだ」と。「きみはあんなごみの町で暮らすより、こうした清潔な場所で過ごすべき人間なんだ」と。
誰もが安心させられるような言葉。それでも、オルチェと名乗るしかなかった自分は疑心を持ったまま老人と暮らす生活を始めるのだった。




