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【そっちの名前も聞いていなかったな】
【ああ、俺の名前はカムラだ】
カムラと名乗るには理由があった。一つはクラッシャー自身が宗教というものを通して、こちらを『悪』として捉えていたから。もう一つはその教えの対となる宗教通りの『善』の世界になるようにという願いを込めてだ。だが、それを知っているのは自分自身だけ。ここは彼女が知らない未来の世界。今の魔王が書き変えてしまった末路の世界。だから、自分以外誰も知る由がないはずなのに――。
いや、相手は魔王だ、とカムラは鉄格子を強く握った。目の前にいるナズーのような男は自身と同等の存在。質問は決まった。訊ねなければ。
「あんた、いつの時代の名なしなの?」
カムラはこちらに敵意を見せていない魔王に対してそう設問を出す。『カムラ』という悪神を知っている存在だ。少なくともクラッシャーに負けた後の時代の自分であることは明確。
「この世界はあんたが書き変えた。だから、『カムラ』なんていう神様も教えもあるはず……ないよね? 今はプトレア教だなんてものが存在している。あんたが作ったの?」
気になることがいっぱいあり過ぎる。そのため、いくつもの疑問を魔王にぶつけていた。だが、彼は何も答えようとはしない。むしろ、こちらの質問を聞いているだけ。なぜに答えてくれないのか。何が目的なのか。
「ねえ、あんたの目的って何?」
痺れを切らしたカムラはついに根っこの部分を訊いた。これで答えてくれるはずはないと思うが。しかし、間をおいて魔王は口を開いた。
「質問が多過ぎるな」
「あんたがクラッシャーみたいなことをするからでしょ」
「そうせざるを得ない状況であることを知っているんじゃないのか。いや、フリをしているんだろ? 悪神カムラ」
そうせざるを得ない状況だと? それはこの世界に何があった? クラッシャーに負けた後の時代はどうなった? あの光る石像は言っていた。この魔王はクラッシャーを倒したから、と。倒したから? ちょっと待って、倒した後の世界なのに!? 世界はクラッシャーのいない世界へとなったのではないのか!? それこそ、誰もが平和に暮らしていける――。
――フリ? あたしがこの状況を知っていたと? そんなの知らない。知っていたら、知っていたでフレイヴと共に過ごさないのだから。
「忘れられた森で光ってた石像……知ってたでしょ?」
「忘れたのか」
――あたしは知っていたらしい。だが、残念。
「言っとくけど、あたしは黒の王国に対してクーデターを起こしてクラッシャーに殺されたところまでの記憶しかないから」
それに関して魔王は無反応だった。
――だとしても、もっともっと魔王から訊き出さないと。
「その姿は?」
誰の存在を取った? 人らしい姿でいるならば、誰かの存在を奪わないといけない。それはカムラにとってクラッシャーを欺くための必要な力なのだ。そう、今回のカムラの姿は――今の彼女にとっても、今の魔王にとっても『ありえない』はずだ。この時代においても、彼女がいた時代においても絶対に不可能な話。
「『今回』は騙されないからな」
どうやら魔王にとっては自分に何かしらの嘘をつかれたと思っているらしい。これまでなかった敵意が一気にあふれ出してきたのだから。この魔王という人物――気迫だけで人を圧すのか。しかし、カムラにとって魔王に嘘は一切ついていないし、なんならば魔王の言う『今回』という意味が理解できなかった。なんだ、その『今回』とやらは。だが、それを訊いたとしても素直に答えてくれるだろうか。否、答えてくれなさそうだ。彼は曖昧な答えしか言ってくれないから。結局、目的もわからない。魔王はもう自分と話す気にはなれないのか、その場を立ち去ろうと――。
「すべてお前のせいだ。俺がこんな目に遭ったのも、世界がこうなってしまったのも」
魔王はそう言い捨てるだけだった。




