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世界は心を孤独にするほど俺たちを嫌う  作者: 池田 ヒロ
◆第十六章 命と取引◆
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181ページ

 思い出すは少し弱った娘の笑顔と新しい命だった。我が娘が言ってくれた。「おじいちゃんですよ」って。言葉も自分が何者なのかもわかっていない新しい命に。小さな手が一所懸命しわしわの指を握ってくれた。なんとも美しい光景か。


 その美しい命とすばらしい本。同等の価値はあるとケレントは考えていた。


「相手はたったの二人だ! 見つけ次第、捕まえずに殺せ!」


 向こうが無茶ぶりを要求してくるならば、こちらも無茶ぶりをするだけだ。どちらも手放すわけにはいかない。生まれて数十年と経つが、ここまで欲に執着するとは思わなかった。それでも相手はたったの二人。こちらは四十の戦力が存在している。負けるはずがない。


「一人でも殺したやつには特別報酬を出すっ!」


 それはケレントの私軍のこと。自分たちだけならず、他にも戦力は存在していることを忘れてはならない。いや、彼がどういう人物であるかも忘れてはならない。彼はケレント・バックヴォーン。裏社会における居場所を一番高いところで見下ろしている統括者。裏社会を牛耳る彼だからこそ、表社会の各トップらに融通を利かせることだってできるのだ。それはすなわち、国の軍を私軍のようにして動かすことだって可能! ただし、『国』が見ていない範囲での行動に限られるが。


 あの二人がどのような人物であるかは事細かには知らないし、知る気もないが――こんな自分にけんかを吹っかけたのだ。それ相応の命の覚悟ぐらいはあるはずだ。ここまでしているのだから。


「行けっ!」


 私軍と独立の国の軍人たちに指令を下したときだった。突如、目の前にあった自分自身の屋敷は大爆発を起こしたのである。爆音、異臭、熱風どれも突撃を試みようとしていたケレントの軍がそれらにやられてしまう。彼に至っては唖然とするだけ。何が起こった? 爆発はわかった。だけれども、どうして!?


「やっぱり独占をしていると、それ相応の報いが訪れるな」


 どこかで聞いたことのある男の声が聞こえてきた。そちらの方を見ると、男と少年がこちらを睨みつけるような目で見ているではないか。彼らは――直接は見たことがないにしても、誰が誰なのかわかった。あの魔王が所望していた本女の仲間に違いない。なんとか事の状況を掴んだケレントに対して、少年――フレイヴは口を開いた。


「ぼくから友達を奪ったあなたにはこれがお似合いですよ」


 そういうフレイヴの足元には変わり果てた小さな男の子が転がっていた。それが何であるのかを瞬時に理解するもしたくなかった。どちらとも取りたい存在の内、片方がそれだったから。嘘だろう? 嘘だろう? 嘘だと誰か言って欲しい。「おじいちゃん」、もうあの一所懸命な子と触れ合えない。


【おじいちゃん】


 本当の自分を知らない純粋無垢な子ども。どんな価値のある品物よりも大切な自身の孫。両方を取りたいと願った欲のツケがここにきて現れてしまった。


 ケレントはただ喚くしかなかった。

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