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薄暗い場所。それほどまでに暗いところで目が慣れたのか。カムラは必死になって檻から出ようと試みていた。だが、出られない。馬になって体当たりして破壊しようとしてもできなかった。それほどまでに頑丈な代物。今の時代はこんな硬い物が存在するのか。
「うぅ……!」
どうにかして出られないだろうか。そう思っていた矢先、誰かがこの部屋へとやって来た。基本的に誰もいないから自分が出す音以外には敏感になったようである。ケレントかと思った。だが、それにしては一人ではない。部下でも連れてきたか。
「おいっ、じじい! 早く出せ!」
もはや、下出で相手と会話をする気がないらしい。言葉使いが荒い。自分が女であることを忘れた男口調。
「口が悪いな」
そんな中、実際にカムラのもとへとやって来た人物はやはりケレントだった。聞き覚えのある老人の声。間違いない。あのじじいだ! いい加減、ここから出せや。
しかしながら、そういう風にして口が悪いならば、当然助ける気はない。いや、最初からないケレントは「約束通りだ」と誰かに声をかけた。というか、誰と一緒にいるのだろうか。という以前にここがどこなのかすらもわからないのだが。
「約束通り、お望みのものを用意した。さあ、世界を変えることができるという『神様の日記』を渡してもらおうか」
ケレントの発言に彼が誰といるのか瞬時に理解した。この世で神様の日記を所持しているやつなんて一人しかいないに決まっている。だからこそ、カムラは声を張り上げる。
「魔王!?」
カムラの声に反応するかのようにして、こちらの方を見ているようだが――魔王らしき人物は口を開こうとしない。暗闇の間から必死になって顔を見ようと凝視する。ややあって、魔王(?)は首を横に振った。これにケレントは「なぜだ?」と理解できない様子。
「これはそちらが所望していた存在。きちんと本にも剣にも、動物にも変身できるんだぞ!」
「変身」
久しぶりに聞いた魔王の声。聞き覚えはある。忘れられた森でフレイヴのことを「クラッシャー」と言ったから。この耳ではっきりと。
「まるで見世物みたいだ」
「それを望んでいたんじゃないのか。どれだけ手に入れるのに苦労したことか」
「そうだな」
それでも魔王はカムラに興味がある素振りで近付いてきた。そこでようやくと言っていいほど部屋の入口付近でケレントの部下らしき誰かが明かりをつけた。彼らのご尊顔が露わとなる。ケレントは白髪交じりの老人であり、魔王は以前に見た姿と同じ。その姿で町中を歩いているならば、滑稽。なんせ、見た目はナズーと変わりないのだから。
「本物とはほど遠いかもしれないけれども、近い存在なのかもしれない」
「……あんた……あたしの何を知って?」
明らかにカムラを知っている様子。それもそうだろう。オルチェが言っていた。自分と魔王は同等の存在であると。間近で見れば見るほどにわかに信じがたい。彼が自分だなんて。
「知っているさ」
魔王は皮肉ったように笑った。
「『悪神カムラ』だろ」
一つだけ言っておこう。この時代において、宗教関係で『悪神カムラ』とは存在しない。だが、代わりにカムラがいた時代にはそういう言い伝えの教えがある。『カムラ』という神様は善と悪の二通り存在するのである。もちろん、魔王が彼女であるならば。記憶を持っているならば、この名前の存在を知っているのは当然のことなのだから。




