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おねえちゃん、おなかすいたよぉ。ぼくも。わたしもぉ。はいはい、洗濯が終わったら作ってあげる。きょうのごはんなにぃ? ふふっ、今日はちょっと奮発して美味しいものを食べさせてあげる。ほんとぉ!? いつものじゃない? わぁい、やったぁ! ごめんね、いつも同じような物ばっかりだったから。お父さんも、お母さんも死んじゃって、私一人でやりくりをしているから。だいじょおぶ! ぼくたちがおっきくなったら、おねえちゃんをらくにしてあげるよ! うん、してあげるよ! 本当? 嬉しいな、ありが――。
スラム街で暮らしている姉弟の間に武器が通る。一番上の姉と彼女に背負われていた弟はそれの餌食に。すぐに地面へと横たわる。弟と妹たちが「おねえちゃん?」と何があったのかわからない様子で今にも泣きそうだ。彼女は二度と目を開けない。動かない。その弟たちは今日の夕ご飯も食べていくことはできない。姉は死んだのだから。後ろから「おねえちゃん!」と悲痛の叫びを上げる子どもの声がフレイヴの耳に届いた。直接手を下したのはケレントの手下。だが、自分たちがこちらへとやって来なければ、状況は違ったはず。だから、自分たちはその姉と弟を間接的に殺したのである。
それでも――それだからこそ、フレイヴの心は痛まない。何度も間接的に人を殺しているから。もう慣れた。元人間であるナズーを殺し、ついには逃げた先の人間が死んだ。殺人鬼。それが今の自分にお似合いだった。
追っ手を撒くために間道へと入る。直後、この街の住人と出くわす。双方どちらとも驚きを隠せない。そのまま避けようとする前に、前方から敵はやって来た。こちらに対して殺意はある。その意思を防ぐためにオルチェは住人の襟首を掴んで自分たちの身を守った。痛々しい叫び声がそこら中にこだましたかと思うと、彼は傷付いた住人を敵に押しつけるかのように足で蹴った。よろめくケレントの手下。まだまだと言わんばかりに銃身で相手のあごを強く叩いた。その隙に武器を奪うと――。
これは自分たちのためにやっているだけのことではなく、みんなのためにやっていることだ。世界を守ろうとするためにやっている。ナズーから、ナズーの親玉である魔王を倒すために必要なことだった。それだけで正当な理由だと断言できる。無差別に人を殺そうとは思っていない。たまたま、本当に偶然だ。偶然にも、そこに誰かがいたからこそ。それが運命。偶然に誰かがいて、必然的に魔王を自分たちが倒すから起こさなければならない行動。ためらえない。ナズーのいない世界にするならば。立ち止まってはならない。魔王の天敵であり、クラッシャーである自分が倒すと決めたから。人々の幸せを願うから。二度と、あんな悲しい思いをしたくないから。そう思いながら、先を急ぐ。何も言われなかった。誰もが沈黙を貫く。死んだやつから文句は来ない。きっと、死んでしまった彼らは歓喜に満ちるだろう。これより、ナズーが存在しない世界を夢見て――。
しかしながら、走りに走ってもまだ九番街への入口には辿り着かなかった。ここはどれだけ広い街なんだろう? 流石は入り組んだ都市。入って一歩目から道に迷わそうとするとは。さぞかし旅をしていたプトレア教の神様ジンガシャマロ様も大変だっただろうな!?
何より、いくら裏路地へと入ろうが、ケレントの部下は追いかけてくる。逃げられない。ただでさえ、十一番街の地理を知り尽くしているわけではないというのに。
――ええい、こうなればやけだ!
オルチェが曲がり角を曲がったとき、同時に曲がったフレイヴの手を引いて一軒の家の中へと押し入った。この家の中に住人がいないとは限らない。下手すれば、悲鳴を上げられて、敵が集まってくる可能性があるからだ。だが、そういうときは黙らせればいい。この武器で。
周りに集中する。追手は見失ったのか、捜しているようだった。そして、もちろん家の住人に二人は見つかる。叫ばれる前にオルチェは拳銃を手にして「静かにしろ」と小声で言った。
「お前らが何もしないなら、俺たちは何もしない」
「ひ、ぇ……」
「だから、教えろ。九番街はどっちだ」
オルチェの脅しは効果てき面のようで、家の住人は手を震わせながらも、指で示した。おそらくは嘘ではないはず。オルチェは「悪かったな」とどこか申し訳なさそうに、住人の懐にお金を突っ込んで、フレイヴを引き連れていくのだった。




