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人がナズーになるとき。それは近くにナズーがいるとき、もしくはナズーに体の一部を食べられてしまったときというどちらかの条件が満たされたならば――あの黒いバケモノへと変わってしまうのだ。だが、フレイヴは最大の原因があるという。
「それって、どういうことだよ」
話を聞いて、オルチェは眉根を寄せた。
「心の中に溜め込んだ負の感情が収まりきれないって」
今まで聞いたことがない憶測だった。フレイヴのその憶測が本当であるならば、人間はだれしもナズーになるという話だ。そして、目の前にいる彼だって――いつもナズーというバケモノを恐れているではないか。特に島自治区。彼らの話を聞けば、ほぼ丸腰状態で島の中で散策をしていたと。それはまさしくあのバケモノになるための条件が整っていたと言ってもいいほどに。
フレイヴは言う。
「よく言うじゃないですか。限界だとか。もう無理だとか。諦めが一番大きな負の感情だと思うんです。それでナズーになりたくなくても、逃げられないと思うからなってしまう」
その憶測を否定するわけではない。ただ、フレイヴの言い分はわからなくもないから。人がナズーになるとき――負の感情を収めている心のキャパシティが破裂してしまったときか。なるほど、とオルチェが納得をしていると「教えてください」そう真っ直ぐな目でこちらを見てきた。
「バックヴォーンさんはどこにいるんですか」
七番街にいるわけでもなければ、フレイヴが見たことのある人物ではない誰か。オルチェ曰く、老人だと言うが――。
「ぼくの答え、オルチェさんは納得したでしょう? 満足したでしょう?」
「ああ、そうだったな」
オルチェは頷くと、地図を取り出して広げた。その内容は独立の国の物のようであり、首都が記載されているところを指差す。彼が「ここだ」と軽く指で叩いた。
「あいつは七番街じゃなくて、一番街にいるはずだ」
「そこに行けば、カムラは……」
「だけれども、安易じゃないことは頭に入れておけ」
敵はナズーだけではない。ケレントもそうであれば、フレイヴの場合は新王国軍から指名手配を受けている。なおかつ、もしかしたらの話ではあるが、島自治区へと不法侵入を犯しているからこそ独立の国の軍にも目をつけられている可能性は十分に高い。敵はたくさんいる。頼れる味方は一人だけ。しかし、オルチェ自体も複数相手は骨が折れる話だろう。守られているばかりではいけない。その思いがあるようで、フレイヴは一枚の紙切れを取り出した。
カムラが連れ去られてしまった後に気付いた。自分は彼女の一部を持っていた、と。己自身も戦わなくてはならない。守られるのではなく、戦うために。己のために。
――この世界の連中はどいつもこいつも自己主張が激しいようだ。




