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「怪我をしています。ですが、それが何か?」
丁寧な口調なのはいつものフレイヴだ。しかしながら、「それが何か?」と言うような人物ではないはずだ。そんなの関係ないとは言わない。やけくそなことは言わないだろう。それだから、オルチェやカムラは不思議に思っていた。
「それでも、ぼくはこれまで死んで逝ったナズーの痛みなんて知らない」
唐突に何を言い出すのか。当たり前のことをどうした? フレイヴはナズーを憎んでいるのに。
「もし、ナズーに人の心が残っていたなら、ぼくはただの殺人鬼だ」
直後、フレイヴは動き出した。横腹を怪我しているというのに。大声を張り上げる。傷口に障るのに。見事な大振り。それは誰にも当たらない。ぶつかるのは周りの障害物だけ。彼は気が狂ったようにしてカムラの剣を振り回していた。
ウルバとウルノ、オルチェが思うことは一つだけ。フレイヴの気は確かなのか。
「ナズーは人間なんだよ! これまでのやつらはみんな、苦しんでいたんだ! 助けて欲しい、ってぼくたちに助けを求めていたんだよ!」
今度は突然笑い出した。何がおかしいのだろうか。今のところ、フレイヴの周りに黒い靄は見当たらない。あれが人の周りに集まれば、ナズー化の一歩手前だから。
「フレイヴ? ちょっ、お前……?」
オルチェはフレイヴを止めようとした。見えない何かにでも怯えているのか。幸いなことに、彼を気味悪がっているせいか二人は攻撃を仕掛けようとしてこない。むしろ、唐突で戸惑っているのだろうか。一番の理由としては、彼らはキチガイの相手をしたくないとは思っているはず。
「なんだ、あいつは。気が狂ったか?」
「気が狂っているだって!? 当たり前だ! ぼくも、オルチェさんもお前たちもみんな、頭オカシイんだよ! ナズーを殺している時点で!」
ついにフレイヴはオルチェによって動きを止められた。これはもう戦いどころではない。ある意味でチャンスとばかり。うろたえた様子のカムラ。隙は大きい。これ以上、ここにいるのも時間に問題がある。
どうすることもできない二人。ウルバはカムラに一本の剣を投げた。もちろん彼女だって突然フレイヴが気が狂って、動転している最中に、突然の刃が胸を貫こうなんてするならば、どうすることもできないだろう。
「あ」
アルフレッドと同じだった。短い感嘆。痛いという感覚はない。カムラに完全な死はないからだろうか。それだからこそ、彼女は少女の姿からあの赤い色の本へと変わってしまった。オルチェの拘束から解こうとするフレイヴもこの現状に気付いたようで――。
「ぼくの友達に何をしたっ!?」
「へえ、きみの友達は殺されると本になるんだな」
「こっ……!?」
――冗談じゃない。
カムラを奪われてしまったフレイヴ。だが、オルチェは解放しようとは思わなかった。今の彼は落ち着かせることが先決だ。今のままで二人に戦いに挑みに行くなんて無謀に近い。勝てない。その判断もあってか、フレイヴは拘束された状態でウルバたちがカムラを持って逃げていく姿をただただ見るだけしかできなかった。
「ぼくの友達を返せぇぇええあああぁぁ!!」
フレイヴの叫び声は白昼夢の村に広く響き渡っていた。それは虚しいほどに。




