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実のところ、ウルバの実力をすべて知っているわけではない。そうフレイヴはカムラの剣を構えたまま、睨みつけていた。ここにいる三人がその通り。誰一人として動こうとしていなかった。どう動けばいいのかわからないのだ。二人はウルバの実力を完全には知らない。あのときは列車内で、しかもオルチェやアルフレッドもいたのだから。そうだとしても、向こうも二人同時は手厳しいはず。
改めて見れば見るほど美しい動物の姿をしたカムラ。ケレントが欲しがる理由もなんとなくわかる気がするが、そういう意味で彼女を手に入れようとはしていないのも察している。確かに、オルチェの言う通り自分たちはケレントの手下。自身の上司に直接命令をされていた。
七番街でケレントの代役を務めていたとき、目的の物を持った子どもが近付いてきていると聞いて舞い上がった。是非とも回収し、褒美をたくさんもらいたかったから。奇妙な本を持ち、何でも剣に姿を変える、と。本当はそれだけではなかった。生物としての存在にも姿を変えることができると、今日改めてわかったのだから。しかし、それが原因でカムラを逃がしてしまったという失態も存在する。見つけたと歓喜するだけではない。あの人物の命令こそ、己の生き甲斐。今度こそ、逃がすものか。いや、逃がしはしない。絶対に捕らえて、たくさんの褒美に浮かれたい。待ちきれない衝動を抑えきれず、とうとうウルバが先に動き出した。先手必勝! その言葉が頭に過った。
――だとしても、そうはさせるか! こちらは二人体制だということを忘れるな!
フレイヴに迫りくるウルバに対して、カムラは体当たりをしようと駆け出す。その光る体躯はぶつかるはずのだが――金属音が聞こえてくる。もちろん、彼が防御した証拠。
――ンなこたぁ、大体わかるんだよ!
「フレイヴ、今!」
カムラに呼びかけられたと同時に、フレイヴは足を動かした。これからやること。ケレントの手下をどうする? 倒す? どうやって? 殺すの? え? 追い払うってできる? 無理じゃない? だって、カムラを狙うんだよ。それで、何かしらを企んでいるんだよ。止めないと。どうやって? え、殺さなきゃダメ?
誰かが答えてくれるはずもない。口に出すことはできない。間に合わないから。間に合わない速度でフレイヴの手はウルバへと向かっているのだから。
――それって、つまり、人を殺すってこと? ぼくが人を殺せるのか?
これまでナズーを倒してきた。それはバケモノだったから。いや、待て。その黒いバケモノの元は人である。すなわち、間接的に人を殺したことがあるという極論が存在しているのだ。それを今更理解したせいで、体を止めてしまった。目の前にいる悪党をどうすることもできない。正義のつもりで行動してきたこと。それを本当の正当な理由として、正義と口に出してもよいものだろうか。結果として人殺しには変わりないのに。
――それが隙だというもの。
ぎらりと光る刃。ためらう者は死の運命に翻弄されるだけ、とでも言うようにして、ウルバのもう片方の剣はフレイヴの横腹を貫いた。
「ぐっ……!」
――ぼくは世間一般で言うような殺人鬼と変わりない、のか……。




