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「あの赤い本をこちらに寄こせ」
狙いはわかっていた。もしかしたら、という言葉があるように、二人は――ウルバとウルノはカムラが狙いで自分たちのあとを着けてきていたのかもしれない。そして、自分たちがピンチになったときに手を貸して、逃げられないように取引交渉へと持ち込む、というわけだ。
青年軍人であるウルバにそう言われて、フレイヴは黙ったままだった。嘘をついてその場を凌ぎたいのだが、口が開きそうにない。嘘を言おうとする自分に嫌悪を抱く。ああ、こういうときにカムラが人間の姿であったならば。そんな彼に助け舟を出そうと、オルチェが「あんたら」と眉間にしわを寄せてそう呼びかける。これに少しだけフレイヴの表情が明るくなるのだが、ウルノは「あのね」と柔らかい笑みを見せた。
「私たちはこの男の子と取引をしているの。別にあなたとはしていない」
「で? というか、あんたら……」
オルチェは話を終わらせる気にはならないようで、銃口を二人に仕向けた。明らかな殺意。赤い髪の隙間から鋭い双眸を覗かせているではないか。
「バックヴォーンにいくらもらった?」
一瞬だけ誰のことかと思った。だが、ウルバとウルノは小さく反応を見せているようで、その人物のことを存じているようだ。カムラがフレイヴだけに聞こえるよう「あいつだよ」と教えてくれた。
ケレント・バックヴォーン。裏社会を牛耳っている首領。二人はその人物の手先である、とオルチェは断言しているようだった。いや、フレイヴの場合は気付いていた。ウルバが首都で自分はケレントの部下ですよと言っているような状況に遭っていたから。もしも、ここにアルフレッドがいたらどうなっていただろうか。いいや、彼がいたらウルバは絶対に出てこようとしないはずだろう。すぐに口に出されるはずだから。正体をバラされるはずだから
オルチェが二人に設問をするのだが、彼らは小さく反応を見せただけで「それで?」と開き直っているようだ。
「あなたには関係のない話じゃないの? 大体この子の何?」
「関係はある。俺はそこにいるガキの忠実なる下僕だよ」
そう言うと、二人は面白おかしいのか、こちらをばかにしたような笑い声を聞かせてくれた。下手な冗談を言うのは止めろ。ああ、腹がよじれる。初めてこうして腹を抱えて笑った気がする。
「なんだ、お前は。そこら辺にいそうな子どものお世話をしているのか。お前、見かけによらずお坊ちゃんだったんだな」
ついにはフレイヴに向かってもばかにし始める。むかつくのは当然だが、カムラもオルチェも本気で怒りを露わにしているようで――。
「いい加減にしろ」
一触即発状態。下手に動けば、二人と戦闘に入ってしまうだろう。そうなるのを避けるため、血を流さない方法を手探りで見つけるようにして、フレイヴは「待ってください」と彼らの仲裁に入った。
「ここで争っても、何も解決はしません」
「じゃあ、なんだ。赤い本を渡してくれるってか? いや、今は変な動物か」
「いいえ、ぼくはカムラを渡しません。彼女はぼくの大事な友達なんです」
そう言うフレイヴは、カムラには指一本でも触れさせないとして、二人の前に立ちはだかった。誰が絶対に渡すものか。独りになるなんて嫌だから。




