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馬の姿をしたカムラは危険が迫っていたから、素早く回避を試みた。それが仇となったようにして、背に乗っていたアルフレッドは地面へと落とされてしまう。そこはもちろん彼女が立っていた場所。そんな彼女を狙おうとしていたのは大口ナズー。どんなバケモノよりも巨大な口を最大限に広げてばくん、と彼を一飲みしてしまったのだ。その場にフレイヴの叫び声が聞こえる。オルチェに至っては呆然とするしかなかった。村の広場に二体のナズーがいるのにもかかわらずである。
「そんなっ……!」
人はナズーになることがある。その原因はまだ解明されていないが、ナズーになる条件は二つあるというのを誰もが知っていた。それは、自分の近くにナズーがいること。そして、もう一つは――ナズーに体の一部を食べられてしまうことだ。こうなれば、誰しもが必ずあのバケモノへと変わり果ててしまう、と世の中を知らない子どもは大人から教えてもらうのだ。
アルフレッドは今回、肉体の一部を食われてしまったのではなく、すべてを丸呑みにされてしまったのである。これから予測されることは一つ。
大口ナズーの頭からはもう一つの巨大な口が生まれた。
「名前は体を表す。よく言うものですよね」
混乱状況の三人に向かって、正気のあるナズーが口を開く。それが煩わしいと思ったのか、オルチェは「黙れ」と言おうとした。だが、それを飲み込んだ。世間一般のアルフレッドは殺人鬼として国際的に指名手配されている。自分たちの目の前にいるのはまさしく『鬼』と成り果てた彼の姿があった。アルフレッドは言っていた。自分の意思とは関係なく、人を殺す、と。その発言はナズーを見れば事実だと言えそうだった。二つの口からはあの男の子の声と彼の声が聞こえてはくるものの――。
「おねえさん」
「やくそく」
「おもいだして」
「しんじてたのに」
次々と出てくるのは小さな男の子の感情的発言ばかり。アルフレッドという人物はまるで存在しなかったかのようだった。
「それでも、あなた方は戦いますか?」
元調査員ナズーの一言が合図かのようにして、アルフレッドを取り込んだバケモノは三人に襲いかかってくるのだった。防ぐなんてできっこない。フレイヴたちは避けることだけを集中した。それ以外のことは何も考えられなかった。それだけ彼が飲み込まれてしまったことが衝撃的だったのだろう。いや、まだマシな方だ、とオルチェは横目でもう一体のナズーを見た。元調査員ナズーの存在だ。先ほどまで自分たちを散々追い回していたのに。今度は能天気に傍観かよ。なんという悠長なやつ! だが、これはチャンスということもある。
――元はあのひょろいおっさんだ!
いくらナズーになってしまったからと言っても、戦い慣れてはいないだろう。戦いの知識はないだろう。隙を見てオルチェが元調査員ナズーに向かって、拳銃を一発発砲するが――。
「クソっ!」
大口ナズーに邪魔をされた。なぜか元調査員ナズーを守っているらしい。これにオルチェは歯噛みするしかなかった。どうすれば、この状況を打破できるのやら。




