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カムラとの約束を覚えている。そう言う男の子に対して、彼女はというと――。
「はあ? えっ? ちょっと待って。あたし、本当にあんたのこと知らないんだけど」
何も知らないし、身に覚えがないらしい。その表情から察するに嘘ではないようだった。そう言えば、である。消失の町でも思っていたことだが、この小さな男の子はカムラを誰と思って慕っているのだろうか。妙に人懐っこい。特に彼女に対して。思わず、二人は同時に――。
「きみは誰?」
率直にそう言った。
これは決して悪気があって言っているわけではない。事実、この子どもを二人は知らないのだ。誰だと訊ねるしかあるまい。訊ねなくとも知っているとはありえないのだから。今の彼らにとって最大の疑問。それをぶつけると、男の子は想定外とでも言うような顔付きを見せてきた。何もおかしな質問ではないはずなのに。どこか心が痛むような気がして――彼は目に涙を溜めて、泣き出した。その場に男の子の泣き声が響き渡る。なぜに泣いてしまったのかはわからない。ただ単に誰なのかを訊ねただけなのに。
男の子は泣きじゃくりながら「ひどいよ」と言う。
「ひどいよぉ、ひどいよぉ! おれ、おねえさん……おねえさんとのやくそく! まもって……まもってたのにっ!」
「泣かないで。もしかしたら、カムラ……冗談は可哀想だろ?」
カムラが嘘をついていないとは知っている。だが、子どもが泣いてしまうほどだ。本当なのかもしれない。そう思ってフレイヴが彼女にそう言うが――「冗談じゃない」と戸惑いを見せた。
「こんなときに、あたしはくだらない嘘をつかない」
「でも、この子はカムラを知っているんだろ?」
「それでも、あたしはこの子を知らない。あたしと誰かを勘違いしているとかしか思えない」
そうであって欲しい。カムラが男の子と同じ目線に合わせるが、彼は「ちがうもん」と大きく首を横に振る。
「おねえさんとおれ、ちゃんと……ちゃんと、やくそくしたもんっ! うそじゃないもん!」
これにはどうしようもないカムラが眉根を寄せると同時に、とても嫌な予感がした。どこからともなく気味の悪い、冷たい風が吹き始めたのだから。何かと確かめている暇もなく――。
「カムラっ!」
危ない、とフレイヴが自身の方にカムラを寄せた。その直後、あれだけ泣きじゃくっていた子どもは以前に見た大口ナズーへと変貌してしまったのだから。
「おねえさんとおれ、やくそくしたもんっ!」
あまりにも唐突過ぎて、二人は――カムラは騎馬の姿へとなり、フレイヴを乗せて丘から逃げ出すのだった。




