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大口ナズーの頭に直撃するのはフレイヴ渾身の一撃。大きく振りかざしたカムラの剣は真っ直ぐ、吸い込まれるようにしてバケモノに当たったのだ。攻撃が効いたのか、ナズーは怯みを見せた。その隙を逃すまいとして、彼はもう一度――今度は脳天に突き刺すようにして――その目は鋭く冷たい。それを見ていたオルチェは確信を持った。
【そこら辺にいるガキやそこら辺に転がる石ころでもな】
――前言撤回。こいつはそこら辺にいるガキなんかじゃない。どこからどう見ても凡人であるフレイヴをそうであると見ることができない。俺はフレイヴの中身をよく見ちゃいなかった。見るべきだったんだ。あの目の奥に宿る思いを。あの目の奥に集う意思を。
気がついたとき、自分たちを追い詰めていた大口ナズーは全く動くことはなかった。フレイヴが倒したのである。ずる、という耳を塞ぎたくなるような音を立てながら、剣を引き抜くと――大口ナズーは消失してしまった。それと同時に上に乗っていた彼は腰が抜けたのか、その場に座り込んだ。ああ、疲れた。そう言いたげ。
「おわ、りました……ね?」
「ああ、妙なガキはナズーだった。それを俺たちは世間論に従うようにして、倒した。何もおかしなことはないはずだ」
「そうでしょうか?」
フレイヴは座り込んだまま、人の姿に戻ったカムラを見た。濃い青色の目と黒い目がぶつかり合うと「ねえ」そう呼びかける。
「カムラって、あの子どもとは昔にどこかで会ったことがあったんじゃないかな?」
「は?」
フレイヴは唐突に何を言うのか。反応に困るカムラは腕を組んで考え込む。彼の言い分はわからなくもないのだから。何憶何万何千以上も生と死を繰り返してきた自分の記憶のどこかにあるのかもしれない。彼女は過去から未来に飛ばされた存在。あの子が過去の存在であるのは強ち間違いではないのかもしれない。
「どう? 何か思い出した?」
「……いや、子どもと会話をしたことがあっても、『おねえさん』なんて言ってくるガキは知らん。何も思い出さない」
どうもカムラの記憶にあの子どもは存在しないらしい。
どうしたものか、と手を差し伸べられて立ち上がるフレイヴ。すると、それと同時にこちらの様子でも見に来たのか、アルフレッドが戻ってきた。
「ああ、アルフレッドさん」
「おう、何かすごく大きな音が聞こえてきたから。あの子は見つかった?」
騒ぎに心配してきてくれたらしい。だか、自分たちが安否を確認したい子どもはもういない。なぜならば――その理由を三人はアルフレッドに説明をしてあげた。ナズーが子どもの正体だった。この事実を聞いて、彼は言葉を失った。
「本当か?」
ようやく、口を開いたとしてもそれだけ。確認する言葉しか思い浮かばないようだ。フレイヴたちはもちろんだ、と頷くだけ。それしかできないから。
「ナズーって、人にも化けられるのか?」
「軍にとってはありえない話じゃないかもな。基本的に討伐対象となるはずのナズーを地下で管理していたこともあるんだ。可能性は高い」
「なるほどな。それならば、あの調査員にも言っておかないとな」
「えっ、調査員さんに会われたんですか?」
フレイヴもまさか調査員がここに来ているとは思っていなかったらしい。そして、彼と話でもしたかったのか、どこか期待するような顔を見せていた。それを見たアルフレッドは「案内するぜ」と誘う。
「どうせ、子どもを見掛けたらって言ったからな。もしかしたら、探してくれているのかもしれないし」
「ありがとうございます。何か、ぼくたちにとって利益になるような情報が聞けたらいいな」
そう言うフレイヴにカムラは確かに、と頷く。あの調査員は謎めいた存在感と共に彼と同様の一般人の雰囲気がただ漏れしているような人物なのだ。見た感じはオルチェと違って危害のなさそうな人でもあるだろうし。
アルフレッドの案内のもと、三人は国の調査員がいるであろう建物へと向かうことにした。ふと、空を見上げると、あれだけ暗かった空はゆっくりと白みを見せているようである。




