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フレイヴはまさにナズーをこの世から殲滅してくれる救世主に見えた。美しく輝くカムラの剣から変形した馬に跨り、右手にはいつもの剣が握られているのだ。
「フレイヴ……」
あまりの雄々しさに、オルチェは目を最大にまで開けて愕然としていた。彼が我に戻ったのはカムラの馬に下敷きになった大口ナズーの声である。それは「おねえさん、あそぼぉ」とまだ言い続けている。ずっと、ずっと耳障りなほどである。そういう割には邪魔だと言いたげに、騎乗をしているフレイヴに向かって大口を開いた。お前を食ってやる。その目障りな光と共に!
「危ない!」
ナズーに食われる前に、フレイヴは避けた。いや、この言い方には語弊があった。確かに彼は馬などの扱いには慣れてはいるようなものの、今回の、このカムラの馬に関しては自分の意思で動かしていないのである。それならば、誰が動かしているのか。答えは簡単、彼女自身である。これまでにおいてのカムラは本や剣だけだった。つまりは、足のない物体として存在していたのだ。しかし、馬の形状ならば、自由自在に動かせるのである。四足歩行は慣れないであるが、自らの意思で動くことは可能だ。これは使えるし、便利だ! 行きたいところにも行ける!
カムラはフレイヴに危害が及ばないように、攻撃を避け続けた。同時に彼は右手に握られた剣で勝負に挑むのだ。大口ナズーの鋭い牙と剣が交わる。思った以上に硬く、重たい。片手だけでは難しいのかもしれない。苦痛の表情になる。ずっと遊ぼう、遊ぼうと奇声を上げているナズー。どちらが優勢に立っているかなんて一目瞭然である。
「おれ、おねえさんとあそぼぉ! よるにあそぼぉ! だれもおきていないよぉ! よるだからあそべるよぉ!」
攻撃を避け続け、防ぎ続けて疑問に思うことが一つある。このナズー――いや、あの子どもはカムラに会ったことがあるのか、である。いくら暗がりだとしても、顔を見ただけでわかるのか。待て、そもそも子どもが彼女のことを知っているということがおかしな話である。カムラが今の人間の姿になったときからフレイヴと共にいるのだから。もしも、自分が知らないところで出会っていたならば、それは知らない話になる。だがしかし、彼女はあの子を知らない様子でいた。声にも聞き覚えはなさそうだった。それならば、この子どもはカムラの何を見て『おねえさん』だと思っているのか。何を知っているのか。彼女に訊きたいことはある。だとしても、今するべきことは眼前にいるナズーを倒さなくては。さもないと、自分たちはバケモノになってしまう。この状況をどう打破するべきなのだろうか、とフレイヴが眉根を寄せたとき――。
――ばかにするなよ。
奇妙な気迫が大口ナズーの後ろから漂う。その正体は――オルチェ。これまでのお返しといったところか。それとも敵はまだいるぞとアピールしているのか定かではないが、彼が後ろ脚を取ると――。
嫌な音が聞こえてきた。その音が合図であるかのように、カムラはナズーの方へと突っ走る。もちろん、フレイヴだって構えの準備は整った。彼女の背に足をつけて立ち上がる。片手だけだった剣の構えも両手だ。
「悪いが、子どもでもナズーなら容赦しねぇからな」
大口を前にして急ブレーキをかけるカムラ。それにあやかるようにして、フレイヴは背から跳躍すると――頭上高くから美しく光る剣をナズーの頭へと直撃させるのだった。




